447 アリバイはいずこに
長老格の人たちに声を掛けて回ったところ、ありがたいことに全員が一度に会ってくれることになった。
「これも地道に街中の依頼を受け続けて。信頼を積み重ねてきた結果だね」
「そうだと良いのですが……。どちらかと言えばドラゴンをけしかけられてはたまらないという、恐怖心や危機感からきているようにも思えますね」
う……、確かにその可能性は高いどころか、話し合いのお願いに伺った際に明らかにおびえたり顔が引きつったりしている人が中には居たから、あの戦いの影響が零ではないと思ってはいたし、ボク自身そういう思惑が欠片もなかったかと言えば嘘になる。
でも、それが一番の理由だとなると、それはそれでちょっぴり凹んでしまいそうだよ。
そんなボクの内心など放置するかのように、長老さんたちとの会合の時間があっという間にやってきた。場所は地上に面した外向きの地区ではなく、山の斜面を繰り拭いて半地下状になっている居住区の一角にある会議場のような施設だね。
「こうなれば取り繕って仕方がないので率直に聞きますけど、このドワーフの里に、ジオグランド中央に言えないような秘密はありますか?」
時間的な余裕もあまりないということもあり、挨拶もそこそこにして単刀直入に真正面から切り込むことにしたのだった。
まさかそこまで明け透けに尋ねられるとは思ってもみなかったのだろう、対する長老さんたちは慌てふためいていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれ。そんな話を一体どこで聞いてきたんじゃ!?」
「現段階ではボクの勝手な想像ですかね。だから思い違いもはなはだしい、盛大な勘違いであることを期待してます」
あらかじめ自分たちの希望を述べておき、その上でどうしてそう予想するに至ったのかを簡単に説明していく。
「そういうことじゃったのか。ならば胸を張ってこう答えよう。否であると!……だが――」
「それを証し立てする術がありませんのね?」
「うむ。残念ながらその通りなのじゃ……」
悪魔の証明というのだっけ?
何もないことを立証するのは、何かがあることを証明することに比べてはるかに難しい、という話だったような気がする。
「これまでにも何度か似たような言いがかりを受けたこともあれば、街の中を調査団が調べて回ることもあったのだがのう。当然何も見つかることはなく、その度に我らが無罪であると信用してもらえていたと思っておったのだが……」
この辺りは刑事ドラマに出てくる容疑者や関係者の不在者証明を例にすると分かり易いかもしれない。
あれは犯行時刻に別の場所にいることを証明することによって、逆説的に犯行現場にいないことを証明しているものなのです。
容疑者だと目されているドワーフの里の人々は、言ってみればこのアリバイがない状態、犯行時間に犯行現場へと辿り着くことができないことを証明する手立てがない状態なのだね。
そのため警察役のジオグランド中央からしてみれば、「とっても怪しいぜ!」という考えを抱いてしまっているという訳だ。
まあ、この感情の中には何度も調査を行ってきたのに、毎回毎回予想が外れて無駄足を踏むことになってきたという、ドワーフの里からすれば迷惑極まりない逆恨みじみた気持ちも籠っているのだろう。
その上今回は、こちらを敵視しては担当刑事にあることないことを吹き込む嫌な同僚までいるときている。従来通りの受け答えをしていたのでは疑いを晴らすことは到底できなくなっていると思われます。
本音を言ってしまえば、ボクたちとしても何かがあった方が話は早かったのだけれどねえ。
ジオグランド中央と睨み合っている最中に漁夫の利を得るようにその何かを奪取することができれば、ドワーフの里へ向けられているヘイトの何割かをこちらで肩代わりすることもできたかもしれない。
うん?
国から睨まれるようなことをしてもいいのか、だって?
入国前の初手の時からどうにもジオグランドには不穏で不愉快な気分にさせられていた。そのためかはっきり言って嫌われようが目を付けられようが構わない、という気分になっているのだった。
まあ、いざとなればおじいちゃんやデュランさんの名前を出せば何とかなるのではないかという、虎の威を借りまくる気満々な狐さん状態のリュカリュカちゃんなのでした。
さて、これ以上は対策を取るための人員が必要になるだろう。ボクたちだけでは荷が重い以前に物理的に手が足りません。
長老さんたちに許可を貰って、会議参加者を増やすことに。
今も、そしてこれからも実働役となってもらわなくてはいけない冒険者協会からは、支部長のベルドグさんと数名の職員、そしてここを拠点にしている冒険者の顔役的な五等級冒険者が参加することになった。
場所もついでに冒険者協会にある会議室へと移動しています。
後、おばあちゃんことクシア高司祭にもオブザーバーとして来てもらっていた。
当事者ではないと言いきるにはガッツリ巻き込まれてしまっているけれど、あくまで外部の人間という立ち位置です。『冒険者協会』に引き続いて『七神教』までがドワーフの里側についているとなれば、自治を通り越して独立を求めていると積極的に勘違いする輩が出てきそうなので。
「やれやれ。国の中枢からイチャモンをつけられている時点で面倒なことになっているっていうのに、その上こちらの言い分には効く耳を持たない公算が高いとはねえ」
「一応念押ししておくと、現時点ではボクの勝手な予想ですから」
間違いの可能性がゼロではないと言いながらも、それはそれで無理があると改めて思う。
なにせ防衛戦力の一方的な引き揚げに、物流網の寸断とこれだけのことを実際にやっているのだから言い逃れはできないと思う。
恐らく、ドワーフの里でなければ一年も持たずに干上がってしまっていたか、魔物に蹂躙されて廃墟となってしまっていたのではないかな。
ジオグランド中央からしてみれば、そうした危険性を感じた時点で泣きついてくると考えていたのだろうね。
「まあ、中央からの信用がないことに言及したところで、今さらどうこうできるものじゃないです。今後の対応策を練ることを第一に考えないと」
「対応策と言っても、俺たちは既に詰みになっているんじゃないか?」
意外にも、そんな言葉が飛び出してきたのはベルドグさんからだった。
いや、職員の人たちを動かして色々と情報を集めている彼だからこそ、不利な状況をまざまざと感じ取ることになっているのかもしれない。
メタなことを言えば、ゲームらしく「プレイヤーが主体となって動け」というだけの話だったりもするのだろうけれど。




