446 予想してみました
ドワーフの里はジオグランド王国内にあって自治が認められた半独立の街だ。
ドワーフさんたちが作る物は質が良くて、それぞれの分野において最高峰だとされることも多いからね。自国内で使用するにしても、他国に売りに出して外貨を獲得するにしても都合が良かったのだと思われます。
当時の土卿王国の上層部は、下手に干渉することでへそを曲げてしまい金の卵を産まなくなるよりは、ある程度自由を与えておく方が良いと判断したのだろう。
しかし、時代が下ったことで変化が訪れる。ドワーフの里の自治を良く思わない貴族たちが増加、台頭し始めたのだ。
反対派の貴族たちはこぞって自治権を剝奪し、その分増えた利ざやで国庫を潤すことを主張した。
「……という流れで、ドワーフの里を支配しようとしているのかな、と思っていた訳ですよ」
「実際にそうした企みを胸の内に秘めている方々もいるのではないかしら。本当にその利益を国庫に納めるつもりかどうかは疑問ですけれど」
「そうですね。そうした小狡い考えを持った人を含めて、いたとしても全く不思議ではないと思います」
ボクが予想できるくらいだしやはりと言うべきなのか、そんな悪巧みをする人たちは実在してしまっているらしい。
……おっと、今重要なのはそこではないのだった。
「だから、これまでは住民を含む形でドワーフの里を手に入れようとしていたと思っていたのよね」
作成された物品が一番の目的となるのだから、作り手たるドワーフたちはもちろん、設備一式も必要になるのは当然のことです。
「ところが、ですよ。今回のジオグランド中央の動きは、ドワーフの人たちをまるでないがしろにするかのような手荒いものだった。街から離れなくてはいけないような無茶な要求をしたり、かと思えば、次は魔物をけしかけてみたりね」
その行動はまるで住民を街から追い出そうとするかのようだ。
「ミルファが言ったようにあの無茶な要求を受けていた場合、街の治安の維持とかを名目にして、中央の息がかかった人たちが派遣されたように思う。今回魔物をけしかけたのも、被害が出ていればその復興のためだとか何とか言って、街に入り込むためのきっかけにできるとでも思っていたんじゃないかな」
「お待ちなさい、今回は運良くブ、……ドラゴン様に手助けして頂けましたから無事に撃退できましたが、そうでなければ最悪人的だけでなく物的な被害も発生したはずですわよ?」
「うん。だから中央の目的は『ドワーフ里』ではなく、この土地この場所を手に入れることだった、とすればどうかな。例えば、この場所の地下にある大陸統一時代の遺跡を攻略するためとか。」
人差し指を立ててそう例題を上げると、ミルファもネイトも息をのむ。
「それは、誠なのでしょうか?」
「ううん。今のところはボクの想像の一つでしかないよ。ただ、被害が出ても構わないというあちらの姿勢から察するに、対立の原因になっている空を征く船関連の物事だと当たりを付けているかな。完成させるための鍵になる鉱石か何かがここの地下に埋まっているとか、他にも、中央には内緒で密かに完成させていた空を征く船の試作品がドワーフの里には隠されている、なんていう情報の可能性もあるよね」
ドワーフの里の『転移門』が閉じられていたのは、この窮状を他所の街に知らせないことに加えて、何かの拍子でそれらの情報が拡散しないようにする意味合いもあったのかもしれない。
「そんな、そんな不確かなことのために多くの人々に犠牲を強いようとしているのですか、この国は!?」
バン!とテーブルを叩いてネイトが立ち上がる。
底が広くてどっしりとした形のマグカップでもなければ、倒れて中身をまき散らかしていたことだろう。何も置いていなくて助かったよ。
「ネイト、落ち着いて。さっきも言ったけれど、今の段階ではボクの予想でしかないんだから」
まあ、限りなく真実に近い予感はしているのだけれどね。
ただ、今それを言ってしまうと彼女の怒りの炎に油を注ぐことになるのは間違いないので、お口チャックしておきます。
ところで、こういうことには真っ先に反応しそうなもう一人がやけに静かなのですが?
「……リュカリュカの言い分は説得力があるように思えますが、どこか無理があるような気がしますわね。いくら自治権があると言いましても、それを与えているのはジオグランドですわ。立場を考えればあちらが上位であるのは明らか。このような回りくどいことはせずとも、一言調査をさせろと命令すれば済む話ではありませんこと?」
うん。確かに通常の状態であればそれで終わることだろう。しかし、
「それができないくらい対立が激化しているとすれば?」
強引に、道理を引っ込めてでも無理を通す方が簡単でしかも確実であると思われているのだとすればどうだろうか。
「まさか、そこまでこじれてしまっていますの?」
「この前長老さんと話した様子だと、ドワーフの里側はそれほどの大事だとは思っていないようだけどね。でも、ジオグランド中央も同じように考えているという証拠はないよ」
立場が上で、それしか勝っているものがなければ、一技術者でしかない分際で何度も何度も自分たちの意見にたてついてくるドワーフたちに悪感情を抱いていたとしてもおかしくはない。
それこそ、ドワーフの里の自治を良く思わない一派が裏工作をしている可能性だってある訳で。
「身分や立場にばかりこだわる人物というのは、貴族に限らずいるものですが、貴族の中にそうした者たちが多いのもまた確かですね」
「同じ貴族として情けなく思いますわ……」
あらぬ方向からの流れ弾に当たったミルファが、忸怩たる思いを口にしている。あー、時々忘れそうになってしまうけれど、ミルファはれっきとした貴族だものね。
まあ、クンビーラは公主様からしてあの調子だったからねえ。そういうベタベタな貴族と縁遠いままでいられたのはありがたかった。
「さて、と。これ以上ボクたちだけでああだこうだと話し合っていても答えは分からないままだろうし、詳しい話を聞きに行くとしましょうか」
幸い、長老格の人たちは採取ツアーへと向かうことなく全員が居残っていた。
街中での色々な依頼を受けて顔見知りになり、ついでにドラゴンを呼んできたかもしれないと思われている今であれば、話し辛い内容のことや秘密事項であっても教えてもらえるような気がするのです。




