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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十一章 ドワーフの里で

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445 考えてみましょう

 先のことはこれくらいにして、今現在進行中のことも話し合わないとね。


「魔物の群れはやっつけたけれど、あっちはまだ諦めていないんじゃないかな、と思っているんだけど」


 そう前置きして、ボクは自分の考えを二人に話していく。


「あの魔物の群れを先遣隊代わりにした、ドワーフの里攻略のための後詰もしくは本隊が付近にまで来ている、と?」

「うん。せっかく散らしたケンタウロスやオーガが再び大規模な群れに成長しないよう、徹底的に叩くために追いかけてきたー、とかいう口実だろうけどね」

「そしてあのブラック……、ではなくドラゴン様の咆哮は、その本隊に向けての牽制だった訳ですのね?」

「そういうこと。まあ、ちょっとくらい脅かすことができれば御の字と思っていたんだけど、あわや大惨事になるところだったのは反省しております……」


 魔物だけではなく、仲間であるドワーフの里防衛隊の皆まで恐慌状態に陥りかけていたのだから……。

 ドラゴンのパワーを甘く見過ぎていたということになるのだろう。まぢ反省案件です。


 掃討戦の最中やその直後に押し寄せてくることがなかったので、恐らくはあの咆哮に危機感を覚えて一旦距離を取ったのではないかと思う。

 とはいえ、平和なリアルニポンで過ごしてきたボクの予想でしかないので、全くの見当違いである可能性もあるので油断は禁物だったりするのよね。


「ベルドグさんが部下の人を派遣して調査しているみたいだから、もうすぐ詳しい状況が分かってくるとは思う」


 距離を取ったとしても人がいた痕跡は残っているはずなので。専門家であればそこからおおまかな人数なども割り出すことができることだろう。

 また、『転移門』が使用可能になったので、土卿王国内の他所の街で密かに噂話等を探るといった行為も同時進行で行われていたため、これ幸いとおじいちゃんからの伝言がないかも調べてもらうことにしたのだった。


「ディラン様のことですから、きっと何かを掴んでくれているはずですわ!」


 ミルファの嬉しそうな声に、ネイトも笑顔で首を縦に振っている。

 ボクとしてもそれを期待しているところではあるのだけれど、はてさてイベントの最中ということで、どの程度情報を開示してくれるのかが不透明であるのが悩みの種なのだよねえ。

 最悪どこかに軟禁されているとか、そこまではいかなくても常に監視の目が光っているため、うかつな行動に出ることができないという状況も考えられるのだ。

 おじいちゃん側からの種明かしは、あればラッキーくらいに思っておく方が無難かもしれないね。


「という訳で、ボクたち自身でも相手の目的が何かを考える必要があると思うのだよ、ワトソン君」

「そのワトソンなる人物が何者なのかは承知していませんけれど、リュカリュカのその案には賛成でしてよ」

「確かにディラン様にお任せしてばかりというのは、冒険者として情けないものがありますからね」


 まずは分かっていることをまとめ直してみようか。

 ドワーフの里とジオグランド中央とは、『空を征く船』への考え方の違いから、昔から対立を繰り返していた。とはいえ、ドワーフの里で作られる品々が有用であるので、基本的には対立したとしてもちょっとした嫌がらせか嫌味程度で終わっていたらしい。


 ところが、数年前から始まった今回の対立はそれだけに終わらなかった。国から派遣されていた兵士たちなどの防衛戦力を引き揚げさせて強制的に恭順することを強いたのだ。

 しかし、ドワーフたちがそれに屈せず地力で防衛態勢を整えると、今度は流通の大動脈である地下道を封鎖して人や物の行き来を制限し始めたのだ。

 ちなみに、表向きは崩落や事故などで通行不能になったとされているよ。これがおよそ三年前のことで、今に至るまでじわじわと規制は強化されているのだとか。


 その対立の元になったのが、「『空を征く船』を再現するため、技術者は一人残らずその仕事に従事すべし」という中央からの命令だ。

 これはドワーフ全員に空を征く船の仕事に携われと言っているのと同じようなもので、仮にこれに従ってしまうと街の運営どころか存在が立ちいかなくなってしまうという、無理無茶無謀の三拍子が揃ったものだった。


「だからまるでドワーフの里を攻めるために、反対されることを前提としたものじゃないかと思ったんだけど……」

「長老のお一人からは、いくら何でもそれはないと否定されましたね」

「国内だけでなく大陸中のドワーフを敵に回すようなものだ、とおっしゃっていましたわね。ドワーフという種族はいざという時の結束が固いと言われておりますから、そんなことをすればジオグランドは以後ドワーフ謹製の物を得ることができなくなってしまうことでしょう。さらに言えば、他国に都合の良い戦争の口実を与えることになりかねませんですし、長老のお言葉は間違っていないと思いますわよ」


 そうなんだよね、王国からしてみてもドワーフたちと完全に仲違いしてしまうのは得策ではないはずなのだ。


「うーん……。単にボクが深読みし過ぎていただけなのかなあ?だけど、今回に限ってやけに強硬な態度に出ているところが引っかかるのよね」


 その割にいざ武力行使となると、魔物をけしかけるという迂遠な策しか行っていない。

 ドワーフとの間に決定的な溝ができてしまわないように気を配っているのかもしれないけれど、どうにもまだ肝心なピースが揃っていないような、それとも重要なパーツを見落としてしまっているような、そんなスッキリしない感覚が付きまとっていたのだった。


「ああ、ですが、あの命令がおかしいことは間違いありませんわね」

「おかしいってどの辺が?」

「技術者全員を従事させるという部分ですわね。そんなことをすれば、先日までのようにドワーフの里はがら空きになってしまいますわよ」

「え?ちょっと待って!がら空きということは住人がいなくなるっていうこと?どうして?」

「空を征く船などという軍事的にも重要な代物ですわよ。建造を行うにはこのドワーフの里では不向きでしてよ」


 ミルファいわく、人目を避けるにしても、ここでは国境から近すぎるのだという。


「ジオグランドの国土は半島型ですわ。機密事項を行うのであれば、守りやすく情報の漏洩もし辛い国境から遠く離れた先端に近い土地が選ばれるはず。これは『水卿』や『火卿』にも言えることですわね」

「なるほど。技術者であるドワーフさんたちが動員されれば、ドワーフの里は住人がいなくなったゴーストタウン状態になってしまうという訳だね」

「正解でしてよ。そして街の維持を行うのであれば代わりの人員が必要になりますの。だからおかしいと申し上げたのですわ」


 ……あれ?

 もしかして、それが狙いだったんじゃない?


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