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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十一章 ドワーフの里で

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439 敵を知り己を知れば

 西方へと採取ツアーに出かけていた一団の帰還と同時に、ケンタウロスやオーガの群れが接近していることが伝えられた。

 ボクとしてはこうなるにしても付近に生息している魔物に異変が出るといった予兆的なものがもう少しあるだろうと踏んでいたのだけれど、見事にスカされて一気にイベントが進んでしまっているみたいだ。

 とはいえ、それだけの情報では何も分からないのとほとんど変わりがない。


「打って出るのか、それとも完全な守りに徹するのか。どちらを選ぶにせよ、最低でも魔物の総数と到着時刻の二つの情報が絶対に必要でしてよ」

「できれば、他の魔物が混ざっていないかどうかも知りたいところではありますね。魔物の種類が多ければ多いほど、個別で対策を取らなくてはいけないことが増えますから」


 ミルファが意見を言って、ネイトがそこに追加する。


「あ、その前に一つ確認。接近してきているという話だったけど、街を襲撃してこずにそのまま通過していくという可能性はありますか?」

「いや。どちらも好戦的な魔物だから、街があると気が付かれた時点で放置することはあり得ないだろうな」


 プレイヤーの間でもケンタウロスは二言目には「蛮族だ!?」と言われているし、おじいちゃんたちが有名になった一件を引き起こしたことのあるオーガに至っては言わずもがなというやつだろう。


 しかし、そうなるとやはり裏に人為的なものが絡んでいる、と感じずにはいられない。

 何故なら、ケンタウロスたちが住処にしていた南西部の荒野とこのドワーフの里との間には、ジオグランド南方の中核都市であるサスの街があるからだ。


 南部の山岳地帯は険しく、街道以外はまともに歩けないような場所も多い。例え魔物でも一定以上の数の集団で動くとなれば、街道沿いを進むしかないのだ。

 そうなれば当然、サスへと行き当たることになるはずなのだけれど、そうした情報どころか噂話の一つすら聞こえてきてはいなかった。


「いくら対立していたとしても、サスほどの大都市がピンチになれば救援要請の一つくらいあってしかるべきだと思うんですけどねえ」


 ボクの言葉にベルドグさんの顔がどんどんと苦み走っていく。

 ……そうか、なかったのか。襲われても撃退できるだけの戦力を集めていたのか、道中の街を襲う余裕すらないほどに追い立てていたのか。あるいはその両方かもしれないね。

 とにかく十分な量の戦力をあらかじめ確保してあったことは間違いないようだ。


 それでも首都や各街から多少なりとは人員が提供されたことだろう。対してそれすらしなかったと、ドワーフの里の評判は直滑降となったはずだ。

 どうやら土卿王国の中央は、本格的にドワーフの里を征服するつもりであるらしい。


 さて、そうなると孤立無援に近い訳で、ミルファたちが言っていたように敵の詳しい情報が是非とも欲しいところだ。


「こういう時はエルみたいに優秀な斥候役が欲しくなるね」


 フラグが立って突然に現れたりなんてしてくれないかしら、とちょっぴりずる賢いことを考えながら、カンサイ弁口調のエルフちゃんを思い出す。


「リュカリュカの嬢ちゃんの当てと張り合えるかどうかは分からんが、斥候なら既に何人か放ってある。魔物どもの情報もおっつけ集まってくるはずだ」


 聞けばその全員が冒険者協会の職員であるのだとか。

 協会の職員には元冒険者も数多くいるという話は聞いたことがあったけれど、そちら方面の技能を持つ人材を何人も抱えていた辺り、ベルドグさんも土卿王国中央の動きがきな臭いことを感じ取っていたのかもしれない。

 冒険者や依頼者に難癖をつけるようにして小銭をせしめていた、国境沿いの町の冒険者協会とは随分な違いだわ。


 余談ですが、ボクにフラグ建築士としての才能はなかったのか、エルが飛んでくることはありませんでした。残念。


 そしてログインし直してゲーム内では翌日の朝、斥候に出ていた協会職員さんたちによって待望の情報が持ち帰られた。


「魔物どもの数はおおよそで二百。到着予定時刻は……、早ければ本日正午くらいになると思われます」


 その報告に集まっていた人たちの大半が息を呑む。

 それも当たり前のことで、無双系のアクションゲームであればともかく、数人単位のパーティーであれば十分以上に絶望できる膨大な数だったからだ。


 問題なく戦力としてカウントできる人材だけで百名以上という話だったから、採取ツアーに出かけているドワーフさんたち全員が帰ってきているのであれば、二百という数はそれほど驚異的なものではなかったかもしれない。


 しかし、現状では魔物の群れが近づいているのを見て、急いで帰還してきた一部の人たちしかいない。居残っていたボクたちと合わせても五十人に届くかどうかというところで、単純な数の差は四倍以上にも及んでいたのだった。

 さらに到着時間まで数時間となると、援軍を期待することもできない。


 あれ?

 割と絶体絶命の大ピンチ?


 ところが。


「ふむ……。数の方はともかく、襲来までの時間がほとんどないのが痛いな」


 わーお。ベルドグさんめ、悲観してもおかしくない状況なのに、大した問題ではないと言うかのように平然としておられますよ。


「あの……、支部長?オーガやケンタウロスを中心とした二百もの魔物の群れなんですよ?」

「そうだな。だが、千には到底届かないだろう」


 不安げに問いかけた誰かの言葉に、さも当然という風に答えてからニヤリと不敵に笑って見せる。

 そんな彼からは古強者とでもいうべき風格が全身からにじみ出ていた。


 ……うん。そうだね。

 戦う前から気持ちで負けてしまっていては勝ちようがないよね。


「ほほーう。さすがは『高身長ドワーフ』。あのオーガキングに率いられていた千を超えるオーガの軍勢と渡り合って生き残った一人だけのことはありますねー」


 茶々を入れるような軽い調子で横から口を挟むと、暗い色合いだった人々の顔つきが目に見えて変わっていった。


「そ、そうだ!『泣く鬼も張り倒す』の二人とまではいかないが、あの激戦を潜り抜けた猛者が俺たちにはついているじゃないか!」

「おおよ!ディランとデュランには及ばなくてもあの激戦を生き残っているんだ!オーガ退治のプロフェッショナルがいるんだから負けるはずがねえ!」

「手前ら、褒めるか貶すかどっちかにしやがれ!?」


 あっという間に盛り上がる戦闘参加予定者たちに向かって、ベルドグさんの悲鳴じみた怒鳴り声が響き渡る。

 その背中は、先ほどとは打って変わって哀愁に満ち溢れたものとなっていましたとさ。


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