435 イメージが再現
お久しぶりになってしまってごめんなさい!
本日より連載再開します!
「初撃にほとんどのMPを注ぎ込むことになるから、後はみんなに任せた!」
もちろん武器を構えて前には出るつもりだけれど、ボクの能力値だとMPを使用しない闘技ではダメージを与えられるかどうかすら微妙だ。基本的にはみんなのフォローに回ることになると思う。
そんなある意味無茶苦茶な指示に、ため息を吐きながらも了承の意を示してくれる仲間たちだった。
ちなみに、襲ってこないのだから無視して街に入ってしまう、という選択肢はございません。
というのも戦闘状態になった魔物が近くにいると、緊急状態となり基本的には街には入れなくなってしまうからだ。自分たちが始めた戦いなのだから、終わり――敗北含む――まで責任を持ちましょう、ということらしい。
どうしても手に負えない場合は、ヘルプ要請を出せば門番の人たちが助けてくれないことはない。
しかし冒険者として、そしてそのプレイヤー個人に対しての評価がかなり下がってしまうことになる。
さらに言えばトレイン状態で大量の魔物を引き連れちゃったりしていると、よほど顔馴染みになっていないでもない限りは問答無用で入口を閉じられてしまうこともあるそうなので、当てにしてはいけないらしい。
まあ、よく知りもしない人物がたくさんの魔物を引き連れていれば、助けるよりも先に警戒や防衛するのは当然の反応だろうからねえ。
こうした点もリアリティがあるVRゲームならではの応対ということになるのかもしれない。
今回の場合、ボクたちの総攻撃によってマーダーグリズリーたちが速攻で倒され、その上居場所を特定されてしまったために、三体のロックリザードは擬態を解くタイミングを失ってしまっていた。
リアルの動物ならそろそろ戦意を喪失しそうなものだが、この辺はゲーム独自の設定ということなのか、残念ながら戦意を喪失するようなことはなかったのだった。
「ボクたちに隙あらば攻撃してやろうという気満々みたい」
「最も得意な奇襲攻撃を封じられていますのに……。本当に魔物というのは、妙なところで強気ですわね」
呆れ気味なボクたちの会話に、ネイトも「あはは……」と乾いた笑いを上げる。
それだけ自分たちの防御力の高さを信じているということなのかもしれないけれど、それこそゲームだから対処法があるのは前述の通りな訳でして……。
「まあ、いいや。調子に乗って攻撃してくる前に、さっさとやっつけちゃおう」
ロックリザードの擬態はあくまでも発見され難くするという効果しか持たない。よって今のように見つけることができてしまえば、動かない遠距離攻撃の良い的となるのだ。
ただし、冒険者協会の資料によれば擬態中に防御力がアップするという嫌らしい魔物も存在しているそうなので、注意が必要とのこと。
それでも先手を取れるというアドバンテージは大きいので、擬態を行う魔物が生息する区域では特に、定期的に〔警戒〕技能によって周囲の様子を探ることが推奨されていた。
……というかこれ、全ての魔物に当てはまることだよね。
結局は何事も基本が大切ということみたいだ。
「まじっくぱわー、ちゅーにゅー……!」
それはさておき、ロックリザード三体を一網打尽にするべく、【ウィンドニードル】にMPを過剰積み込みさせていく。
体内から何か力が抜けていくという、リアルではほとんど体験できない感触に思わず顔をしかめてしまいそうになりながらも、集中を維持する。
しばらくすると、目の前に淡く発光する薄緑色の物体が生じた。
体の中が空っぽになったことが実感できる程にMPを注ぎ込んだ、魔法の素とも言える代物だ。
ちなみに、ここで暴発させてしまうと、ゾイさんに初めて魔法と過剰積み込みを教わった時の生身ジェットコースター事件以上の大惨事が発生してしまうので、踏ん張りどころだったりします。
「よし!いっけー!全力全開の【ウィンドニードル】!!」
声高らかに告げた瞬間、魔法の素がものすごいスピードで上空へと移動すると、そこから風属性の針、というか矢もしくは短剣並みの大きさになったものが雨あられとロックリザードたちへと降り注いでいく。
「わーお!すっごいド派手な演出ぅ……。って、いやいやいや!こんなことになるだなんて聞いたことないんですけど!?」
後から問い合わせてみたところ、魔法発動の際プレイヤーに一定以上の明確なビジョンがあると、それを脳波から感知して再現するという機能によるものだったらしい。
要するにあれは、無意識ながらも抱いていたボクのイメージの発露という訳だね。
闘技の【マルチアタック】がプレイヤーの自由な形で連続攻撃を仕掛けられるのも、この機能によるものだそうだ。
もっともこちらはあくまで演出上のものであり、威力等々が変化することはないとのことだった。
つまり、「グギョオオオォォォ!!!?」と悲鳴を上げながら、見る見るうちにロックリザードたちのHPが減少していったのは、過剰積み込みの効果であったようだ。
終わってみれば三体とも虫の息で辛うじて生きているという有り様だった。
「お、おおう……。まさかここまでとは、うっぷ!?」
弱点属性を突いたとはいえ、想像していた以上の惨状に頬を引きつらせていると、いきなり目の前が揺れ始める。
同時に言いようのない倦怠感に全身を苛まれて、まともに立っていられなくなってしまう。
「うぎぎ……。これってもしかして――」
「間違いなくMP枯渇の状態異常ですね。確かに大技を使うような事を言っていましたが、立っていられないほど疲労するのはやり過ぎです」
倒れそうになったところをネイトに抱きすくめられ、そのまま地面へと座らせられる。
「ごめーん……」
明らかに限度を考えていなかったボクの不手際なので、素直に謝ります。
「やれやれ、仕方のない子ですわね。わたくしとエッ君とリーヴで止めを刺して参りますから、リュカリュカはネイトとトレアの二人と一緒にここでお待ちになっていて」
「うー、任せたー……」
ミルファの台詞に、今はMPを回復させることを優先するべきだと判断して、反論することなく大人しくしておく。
とはいえ、普段はエッ君に並んで真っ先に突撃することも多いことを思い出すと、ちょっぴり釈然としないものを感じてしまう訳でして。
「ふにゃあ!?」
ミルファが止めを刺そうとした瞬間に、トレアに弓による攻撃で横取りさせる――見事成功させて「うちの子たち凄くない!?」と再確認させられた――という悪戯を仕掛けたボクなのでした。
追記。後からミルファとネイトにめっちゃ叱られました。




