432 入れない……
結局、微妙にもやもやとしたものを残しつつも、システムやプログラム的には問題ないと判断されることになり、ボクたちはドワーフの里への旅を再開させることになる。
その道中で、一種のパワーレベリングということになるのだろうか。
トレアは一気に十レベルにまで成長することになっていた。
仲間の人数や魔物の強さ等など、状況や環境が全く違うので一概に比較できるようなものではないのだけれど、これまでとはえらい違いですな。
まあ、そもそも運営の公表している統計データによれば、ボクの場合はプレイヤー全体から見れば相当レベルアップが遅い部類に入るらしいので、比較自体が無意味なのかもしれない。
一方で技能熟練度の方は、クンビーラの冒険者協会で訓練をしていたためか、プレイ時間が似通ったプレイヤー帯の中では高い部類であるようだ。
もっとも、こちらは極端に高いとまでは言えない程度でしかないようだけれど。
トレアのことに話を戻そうか。レベルアップによる能力値上昇では当初の予定通り〈魔力〉には触れず、長所である〈筋力〉と〈体力〉、そして〈敏捷〉の三つを中心に伸ばすようにしていた。
その甲斐もあってか、つい先ほどの戦いではヘッポコな武器であるにもかかわらずボクと同等のダメージを叩きだすほどになっていたのだった。
このまま技能の熟練度が上がって闘技を習得すれば、あっさりと遠距離からのダメージディーラーとしての地位を確立してしまいそうな勢いですよ。
装備を新調すれば一体どこまで強くなってしまうことやら。楽しみに思う反面、ボクのご主人様としての立場がさっそくピンチになりそうでちと怖い……。
え?戦闘面では元からそんなものはなかったって?
……その通りですよちくせう!
と、こんな調子で新人の育成も順調に進んでおります。
そうそう。彼女の成長速度には敵わないが、ボクたちもまた全員レベルが一上昇しております。
ボクとてミドルティーンですので。
まだまだ成長の余地は残っているのです。目指せないすばでぃー。……あ、これはリアルの話だった。
さすがに街の入り口まで目と鼻の先の距離で魔物に強襲されるようなことはなく。
シャンディラの街で情報を聞いてからゲーム内時間で十日を越える日数をかけて、ようやくドワーフの里へと辿り着くことができた。
とはいえ、ここは旅の終着点もなければ目的地ですらない。
あまり気が抜けてしまわないように注意しておかないとね。
「お?何だお前さんたち、また来たのか」
そう言ってニカッと人好きのする笑みを浮かべたのは、門番なのだろうドワーフのおじさんだった。
いやまあ、『ドワーフの里』なんだからそれは当たり前なんだけどね。むしろエルフとかピグミーとかセリアンスロープの人がいた方がびっくりだったと思う。
なので、問題はその点ではなく。
「ほほう。こいつは見覚えのある顔じゃないか」
「今ならもう首都の方にだって足を延ばせるようになっただろうに、わざわざこんな辺鄙な場所にやってくるとは物好きだな」
「地下通路が使えなくなって寄り付くやつらが少なくなっているから、わしらからすればありがたいことだがな!」
と、最初の一人の声に釣られるように門の中から数人が出てきたかと思うと、わらわらとアッシュさんたちの周りに集まって来たのだ。
どうやら全員門番役らしく、そのためか頻繁にこの街に出入りしているアッシュさんとはすっかり顔見知りになっているようだ。
と、実はこの点も別に問題ではなく。
それでは一体何を気にしているのかといいますと、彼らの服装というか身に着けている装備品がてんでバラバラだったのだ。
ご存知の通り門番というのは基本的にはその街の兵であり、その地を実効支配している勢力に属しているというのが一般的だ。
そうしたことから装備品類は支給される場合が多い。
まあ、クンビーラのように得物は自由に自前の物を持ち込むのを許可しているケースもあるので、絶対的な決まりという訳ではないようだけれどね。
ただし鎧等の防具は、外見で所属先が分かるようにするとか、同じ部隊の一員としての連帯感を養うといった意味合いから統一されているのが普通だ。
にもかかわらず今ボクたちの目の前にいるドワーフの皆さんはそれぞれ好き勝手な鎧を身に着けていたのだった。
「ジオグランドの中央からにらまれ続けているという話でしたから、もしかすると彼らは民兵や義勇兵といった扱いになるのかもしれませんわね」
ボクと同じ疑問を浮かべていたのだろう、ミルファがそんな予想を立てており、実際この予想は正しかった。
これは後に聞いた話なのだけれど、元々このドワーフの里はジオグランド王家の直轄地のような扱いだったのだそうだ。
が、数十年前に首都の貴族連中との関係悪化を受けて兵や騎士といった戦闘集団を丸ごと全部引き揚げさせられてしまったのだとか。
しかし、やられっぱなしでは終わらないのがドワーフたちの凄いところで。
結局門番の彼らのような有志が集い、兵士たちの代わりを見事務めてしまったらしい。
下手をすれば反乱の意思があると難癖をつけられて大軍が派遣されてしまいそうな話だが、そこは物作りさえできていれば幸せ、という職人気質とオタク気質を合わせて二で割らないドワーフたちだ。
相も変わらず様々な高性能な品々を、制限もなしに作ったそばから売り払っていたため、潰すよりも放置していた方が利になると首都の貴族たちに思い込ませることができたのだった。
加えて、有志で街の防衛部隊に参加していると同時に、彼らは優れた職人でもあった。
要するにだね、自分もしくは知人の作った作品の実地試験やお披露目を兼ねているため、一人一人が異なった装備品を身に着けている、という訳なのでした。
そんな風にボクたちが観察したり推測したりしているとは知る由もなく、ドワーフたちはどんどんと増えていき、いつの間にか行商人トリオを取り巻く人々の数は二桁を超えていた。
いやはや随分と仲が良いことで。
でも、できることなら街の中には入っておきたいなあ。
ほら、入口のすぐそばとは言っても、魔物が出現する外である事に変わりはないから。
と思っていたところで〔警戒〕に反応アリですか……。
同じく〔警戒〕で魔物の気配を感じ取ったらしいネイトも微妙な顔つきになってしまっている。
あーあ。せっかく騒ぎにならないように、うちの子たちには『ファーム』で待機してもらっていたのに。
愚痴っていても仕方がない。到着前の最後の一仕事ということで頑張るとしましょうか。




