43 外出準備完了!?
そして何だかんだと数日後、ついに〔槍技〕の熟練度が十に上がり、闘技の【ピアス】を習得した。そして使用してみて、サイティーさんが言っていた理想的な攻撃という意味が分かった。
「【ピアス】!」
と口にした瞬間、まるで流れるように自分の体が動き出して突きを放ったのだ。
それは足運びから腕の動かし方まで、サイティーさんに教わった時にできた一番良い動きをさらに鋭くしたような、まさにボクが頭の中で思い描いていた理想の動きをしていたのだった。
ただし、やっぱりというか案の定というか、デメリットも存在した。
勝手に体が動くのは……、まあ、許容範囲だとして、動き終わった後に一定時間の硬直が発生してしまうのだ。【ピアス】の場合で時間にして半秒くらい身動きが取れなくなってしまった。
武道でいう残心に近いもの?でも、あちらは油断せずに緊張感を持つという意味合いだったと思うから違う気もする。
どちらかといえば闘技を連続で使用できないようにする制限の意味合いの方が強いのかもしれない。
ともかく、これで街の外へと採取をしに行く準備は整った。後は材料となる薬草類を集めれば〔調薬〕にも挑戦できるようになるね。
え?調薬をするための道具はどうしたのかって?もちろん買いましたとも!
……ただ、そのための資金作りにはちょっぴり反則技を使ったけど。
「はいよ!『うどん』一つお待ちどうさま!」
「こっちには『うどん』を大盛りで頼む!」
「あいよー!」
えへへ。『猟犬のあくび亭』に、リアルでのボクの地元のソウルフード、うどんを教えちゃいました!
いやあ、お小遣い稼ぎにでもなれば良いかなと気軽に教えたんだけど、思っていた以上にウケが良くて驚いております。お陰で基礎調薬セットを購入することができたので万々歳だったね。
うどんについてはまた後日話すとして、お外に向かう準備の最後の一つ、初心者用槍の長さとバランス変更をした時の話をしておこうと思う。
ボクが槍を購入、というかチケットと交換したのは、騎士であるグラッツさんに紹介してもらった『石の金床』という武器屋兼工房だった。
クンビーラの街の騎士団員たちが使用している鎧兜といった防具は、雇用主である支配者側から支給されているのだけど、武器の方については個人の裁量に任せられている。
屋内、屋外を問わず使えることや取り回しのし易さから、大抵は剣を選ぶそうだけど、中には槍や巨大な斧にハンマーなどを選ぶ人もいるのだとか。
そうした騎士団員たち御用達の武器屋の一つが『石の金床』という訳だった。
職人長でもある店主さんを始め、職人の人たちは全員強面の男性ドワーフという新米冒険者にはなかなか敷居の高いお店でした。
寡黙だけど親切な人たちだと分かってからは、すぐに打ち解けることができたけどね。
「たのもー」
「ん?ああ、リュカリュカか。今日はどうした?」
お茶目なボクの掛け声に奥の工房から店の方へと現れたのは、店主であるゴードンさんだった。
「こんにちは。ちょっとお願いしたいことがありまして。……それにしてもゴードンさんがすぐに出てくるなんて珍しいね」
「今日は工房の休みの日だからな。良い物を作るためには休息は欠かせんのだ」
こんなことを言えるから、人の上に立つことができる器なんだろうね。どこかの支部長さんにも聞かせてあげたい言葉だよ。
「それで、リュカリュカのお願いとは何だ?」
「この前チケットと交換してもらった初心者用の槍なんですけど……」
「返品は受け付けんぞ」
「しませんよ!……柄を短くして、短槍にしてもらいたいんです」
お願いを告げると、ゴードンさんは大きく「はあー……」とため息を吐いた。なに!?
「試しに振ってみることもせずに仕舞いこんでしまったから、てっきり調整する先に当てがあるのかと思っていたが……。リュカリュカ。普通そういうことは買ってすぐにやるものだぞ」
「そうなの?言ってくれれば良かったのに」
「だから、それをする当てがあるのかと思っていたんだよ。……はあ。そんなことならちゃんと指導してやるんだったぜ」
疲れ果てたようにがっくり肩を落とすゴードンさん。
……ふみゅ、指導か。
「ゴードンさん、これからでもいいので、ぜひ色々教えてください。戦い方の基本は冒険者協会で教わったけど、手入れの仕方とかはさっぱり分からないので!」
「それを自慢げに言うのはどうかと思うぞ……。というか本当に初心者の新米だったんだな」
「えっへん!」
「だから、威張るな。そしてエッ君に悪影響だから止めろ」
ゴードンさんが顎をしゃくって示した先には、ボクの真似っこをして胸?を張っているエッ君の姿があった。
「おっとと……。これは失敗」
好奇心旺盛なエッ君は何でも真似てみたいお年頃だからね。教育上よろしくないことはしないように心掛けないと。
「あ、しまった」
「どうしたんですか?」
「すまねえ、リュカリュカ。手入れの方法を教える事はできるんだが、ただという訳にはいかないかもしれん」
ゴードンさんが申し訳なさそうにそう言ったのには訳がある。武器や防具などのメンテナンスは、武器屋さんや鍛冶工房などの大切な仕事の一つとなっているからだ。
簡単ではあっても持ち主に手入れの仕方を教えるということは、その仕事の数を減らすことになる。
「まあ、そこまで大げさに考えているやつはほとんどいないがな。武器を買った客に手入れの仕方を教えるなんてどこの店でもやっていることだ」
分かり易く言えば、購入特典だね。売るだけの人はともかく、ゴードンさんのような作り手ともなると、できるだけ長く、良い状態のまま使って欲しいだろうから。
「ただ、この武器を『買った』というところが問題でなあ……」
「……ああ!ボクの場合はチケットと交換だったから、購入したと言えるか微妙なところなんですね?」
「悪いがそういうことだ」
「うーん……。かといって新しい武器を買うつもりもないですし……」
あくまで特典だから、お金を支払えば教えてくれるというものでもない。
困ったなと悩んでいると、足元にいたはずのエッ君が、いつの間にかいなくなっているではありませんか!?
「エッ君?あ、いた!」
幸いすぐに見つかったのだけど、彼がいたのは、鋲で強化されたグローブなどが陳列されていた棚の前だった。
なんだかその尻尾も、いつもより楽しそうに振られているような気がする。
「そうだ!ゴードンさん、エッ君の尻尾に装備できるような武器か防具を作れませんか?できれば安く!」
「んあ?また妙なことを言うじゃないか……。まあ……、できなくはないか。ちょっと待っていろ」
と一言残して奥の工房へと行ってしまった。
そして五分後、持ってきたのがこちら。
「フォレストウルフの毛皮の端材に金属の鋲を取り付けてみた。それをぐるっと撒いておけば尻尾用の武器兼防具になるだろう。値段は……、百五十デナーってところか」
「買います!」
「まいど。それじゃあ商品も買ってもらったし、簡単な手入れの方法を教えておくぞ」
「その前に、槍の柄を短くするのをお願いします」
「おっと、そうだったな。それじゃあ、奥の工房へ来てくれ」
そんな訳で、槍の調節をしてもらっただけでなく、エッ君用の武器兼防具も入手することができたのでした。




