427 トレアのステータス
「いや、魔法人形とは本気で驚いたぜ」
「しかも、前振りも何もなくいきなりとはなあ……」
あっはっは。ビックリさせることができたのなら、うちの子たちと決めごとを作った甲斐があるってもんです。
とまあ、さすがにこれは冗談なのだけれどね。本当は戦闘に参加させる際の効果的な方法として取り入れるつもりだったのだ。
チーミルとリーネイの二人は『ファーム』の中にいても、それぞれミルファとネイトを通して戦場の様子を把握している。つまり、奇襲を行うのにもってこいの立ち位置に居るという訳だ。
名前を呼ぶことで『ファーム』から登場してもらうのも悪くはないのだが、これだとせっかくの持っている優位性を放棄し、不意を打つ機会をボクたち自身で失ってしまうことにもなるのだった。
これを何とか改善できないかと考えたのが、先の『ファーム』の表面を軽く叩いて合図をするというやり方だった。
目端の利く相手ならこれでも不審に思われるかもしれないが、その辺りの対策はまた追々ということになるだろう。
「しかし使い魔にするならともかく、魔法人形をテイムモンスターにするなんてことができたんだな」
随分と感心した様子で言うヴァイさんの話によると、<マジシャン>の上位職の中には魔物などと『使い魔契約』を結ぶことができるようになるものもあるのだとか。そうした『使い魔』として魔法生物系統を選択する人もいるのだそうだ。
「偉そうに語ってはいたけど、こいつも実物を見たことはないんだぜ」
「おい、ばらすなよ」
「もっとも、俺たちも同じだけどな!」
と、すぐにアッシュさんたちにからかわれていたが、それくらい『使い魔』の絶対数が少ないという証拠でもあるのだろう。
興味がないといえば嘘になるが、その内プレイヤーからの報告もありそうだし、ここは気長に待つことにしようと思う。
さて、すっかり後回しになってしまったが、そろそろお待ちかねのトレアのステータス公開、いってみよう。
名 前 : トレア
種 族 : ケンタウロス
職 業 : テイムモンスター
レベル : 1
HP 60
MP 5
〈筋力〉 6
〈体力〉 6
〈敏捷〉 7
〈知性〉 5
〈魔力〉 1
〈運〉 5
物理攻撃力 9 物理防御力 10
魔法攻撃力 1 魔法防御力 1
〇技能
〔弓聖射撃法〕〔必中の魔眼〕〔狩人の心得〕
〇装備 手
・石の矢
・ケンタウロスの弓
〇装備 防具
・毛皮の胴着
・毛皮のベスト
レベル一なのは当然としまして、一番の特徴なのは魔力が最低値だということかな。
その分〈筋力〉〈体力〉〈敏捷〉が高めとなっているので、完全に物理攻撃主体の能力値構成だと言えそうだ。
強いて問題点として挙げるなら〈魔力〉は魔法攻撃だけではなく魔法防御にも関わってくるというところだろうか。
とはいえ、防御のためだけにレベルアップ時の能力値増加を〈魔力〉に振るのは正直もったいないと思う。成長の方針としてはこのまま長所を伸ばしていく形で進めていき、魔法防御については装備品で補うようにするべきかな。
その装備品だけど、武器としては『ケンタウロスの弓』と『石の矢』を持ち、防具には『毛皮の胴着』と『毛皮のベスト』を身に着けていたので、ドワーフの街に到着するまではそのまま使用してもらうことにした。
街に着いたら胸当ては絶対に買ってあげないとね!
「防具も必要だろうが、武器の交換は必須だぞ。矢は鏃部分が石でできているし、弓の方も質が悪い。装備品は専門じゃない俺たちから見ても粗悪品だって分かるレベルだぜ」
弓と矢の両方を合わせても攻撃力が三しかない。ちなみに防具の方は毛皮の元の素材が良いのか、防御力はそれぞれ二ずつあり、合計四となっていた。
むむむむむ……。仲間たちの分も合わせると、これは出費がとんでもないことになってしまいそうかも……。
しばらくはドワーフの里で金策に走り回ることになりそう。
しかしそれも全て辿り着いてからの話だ。まだまだ道半ばだし、気合を入れ直して山道を進んでいく事にしよう!
「リュカリュカ。見たくないからといって目を背けていても問題は解決しませんよ」
それでは出発と音頭を取ろうとしたところにネイトからの突っ込みが入る。
せっかく意図的にスルーしていたというのに……。思わず恨みがましい目で見てしまったのは仕方がないことだと思う。
「〔弓聖射撃法〕に〔必中の魔眼〕?その上〔狩人の心得〕!?……これは仮に戦いになっていたとすれば、敗北まではいかずとも相当の苦戦を強いられることになったはずですわ」
はい、三つの技能の詳しい解説がこちらになります
〔弓聖射撃法〕…弓聖と称えられた者がまとめたとされる射撃の規範。
〔必中の魔眼〕…数ある魔眼の内、命中に特化したもの。熟練者には対象の未来すら見えるように感じられるという。
〔狩人の心得〕…悟られることなく得物を見つけては追い詰め倒す。自身の気配を操り周囲の存在を捉え、さらには罠を隠蔽する術をも得る。
それぞれが反則級な性能なのだけど、技能同士の相性の良さと相乗効果が半端ない感じだ。あらかじめ姿が見えた状態で出会えたのは、本当に幸運だったと思います!
「参考までに聞くけど、どのくらいの被害がでると思う?」
「最悪でわたくしとエッ君とリーヴの内の二人は命を落としていたのではないかしら。最良でも後衛まで含めて全員が瀕死といったところですわね。実際には護衛を踏まえて立ち回る必要があった訳ですから、恐らくは最悪に近い状況になっていたとみて間違いないと思いますわ」
それって、ボク基準では敗北ラインを完全に越えてしまっているんですけど!?
まさか一番戦闘に特化した技能構成となっているミルファをもってして、そこまで言わしめてしまうとは……。トレア、恐ろしい子!
「エッ君にリーヴに引き続き、トレアまでとんでも技能所持者だったなんて……」
うちの子たちが、主人公的技能持ちな件。まさかラノベのタイトルのような状況がこう何度も起きるとは思わなかったわ。
「結果としては攻撃の手札が増えて層が厚くなったのですから、良かったのではありませんか」
「その本音は?」
「……そうとでも思っておかないと、才能の差に絶望してしまいそうですから」
ネイトさんの瞳からハイライトが消えていく!?
というか、彼女の場合はセリアンスロープの種族的に不得手な魔法に特化しているという、いばらの道を突き進んでいるだけのような気もする。
そんなある意味ネイトの身体を張った主張を受け入れる形でトレアの技能に関する話はいったん終了することになった。
さらにチーミルとリーネイの二人も加えて、フルメンバーでドワーフの里へと進むことになったのだった。




