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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十章 土卿王国の旅路

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425 餌付けてました

 しばらくすると落ち着いたのか、ケンタウロスちゃんは涙を止めることができた。

 そこまでは良かったのだけれどね……。


「母親の後ろを付いて回る雛鳥のようで微笑ましいですね」

「いや、微笑ましいというには体の大きさがでかすぎやしないか?」

「いけませんわね。軽々しく女性の身体のことを話題にするのはご法度ですわよ」

「あ、はい」


 と皆が話している通り、懐かれました。


《ケンタウロスが仲間になりたそうにしています。テイムしますか?》


 などというインフォメーションが表示されるほどに。


「一人ぼっちで情緒不安定になっていたところに、美味しい食べ物を差し入れてくれて、その上優しく抱きしめてくれたんですから、そうなっても当然だと思いますよ」

「むしろそれを狙った訳でもありませんのに、あれだけのことをやれてしまうリュカリュカの天然っぷりに末恐ろしいものを感じてしまいますわね……」


 以上が「なにゆえ!?」と驚いたボクに向かって発せられた、仲間二人からの温かい言葉になります。

 どちらかと言えば生温かいというくらいの温度だったような気もするけれど。


 ちなみにケンタウロスちゃんは、下半身の馬の背部分までがボクの身長と同じくらいだから一メートル六十センチ程度で、頭の先までとなるとおおよそで二メートル半といったところだろうか。

 うん。雛鳥と呼ぶには少々サイズが厳しいものがありそうね。


 うちの子たちでならばエッ君か、もしくはチーミルかリーネイくらいならばちょうど良さげな気がする。

 サイズだけで言えばリーヴでもいけそうではあるのだけれど、鎧兜の姿なのでどうしても物々しい雰囲気になってしまうのだ。


「ところで、こんなことを聞くのは今さらのような気もするんだが……。その子のことはどうするつもりなんだ?」


 横合いからアッシュさんの声が割って入ってくる。

 見るとエクスカリオン君を労うためにマッサージしていたようだ。

 ケンタウロスちゃんが落ち着くまで身動きできなかったこともあって、どうせなら休憩にしてしまおうということになっていたからだ。


「おいおい、本当に今さらだな」

「実際のところ、選択肢なんてないも同然じゃないか」


 すぐにインゴさんとヴァイさんに茶々を入れられていたが、それも全て彼女のことを案じているがゆえのことだったのだろう。

 女の子でしかも年若い個体だと判明したためか、三人そろって庇護欲が発揮されているみたいだ。

 行商人仲間の内では最年少に近い部類になるから、先輩風を吹かせたいという想いも密かにあるのかもしれない。


「ダメですよ。こんな可愛い子をアッシュさんたちのようなケダモノの群れの中に残しておくなんてことはできませんからね!」


 だからボクも努めて明るい調子で、しかしきっぱりとこちらの要望を告げる。

 懐かれたことに驚いたのは確かだけれど、それ以上に嬉しかったのだから。


「ちょっ!?ケダモノは酷くないか!?」

「えー、だって三人共視線がとある場所に集中していますよ?」


 悪戯っぽく微笑みながら痛いところをグサリと突いて差し上げると、慌ててそっぽを向く行商人トリオです。

 ケンタウロスちゃんの胸部装甲は同性のボクたちから見ても圧巻の一言だから、男性陣からすればついつい目が吸い寄せられてしまうのも分からないではない。

 が、それによって彼女が居心地悪そうにしているとなれば、放置しておく訳にはいかなかった。


「世の女性は異性からの視線に敏感だからね。特に不躾な視線には過敏で神経質になっている人もいるからよくよく注意しておく方がいいと思うよ」


 あまり角が立たないよう、あくまで一般的な注意事項という体で釘を刺しておく。


「あらあら。すっかり保護者が板についていますわね。ようやくその子のことをテイムする覚悟ができたのかしら?」

「人のことを優柔不断なヘタレみたいに言うのは止めて」


 ボクとしては彼女が受け入れてくれるのであれば、テイムモンスターにすることに否やはなかったのだから。

 ただ、ちょっとアレだよ。

 すぐにテイムしなかったのは、他の子たちとの相性を見極めようとしていただけなのだ。


「エッ君もリーヴも、すぐに背中に乗るくらい仲良くなってましたよね?チーミルとリーネイはわたしたちの分身のようなものですから、否定をするはずもありませんし」


 ネイトさん、笑顔でこちらの逃げ道を塞ぐような真似をするのは止めて。

 人とは時に正論の方が心苦しく感じてしまうものなのです。


 言い分はともかくとして、ネイトの語った内容は全くもってその通りだった。

 エッ君もリーヴもすっかりケンタウロスちゃんのことを受け入れていて、彼女の側も二人と打ち解けてしまっているように見えた。


 もしも戦いになって傷つけ合っていたならば、こう上手くはいかなかったのではないだろうか。

 一昔前のゲームで魔物を仲間にするためには、倒すもしくは瀕死の状態にして捕えるといった「力を見せつける」ことが必要となっているものも多かったそうだ。

 確かにそれで心服するということもあるのだろうが、逆に反発されてしまう場合もあったのではないかな。


 まあ、ゲームのシステムと言ってしまえばそれまでなのだろうけれどね。

 とりあえずボクには向いていないやり方なので、平穏にテイムできそうなのは一安心です。


「ケンタウロスちゃん、そろそろテイムを始めるよ。……その前に、本当にテイムモンスターになっても構わないのね?ケンタウロスの仲間がいる場所の近くまで一緒に行くっていう手もあるんだよ?」


 この期に及んでという意見もあるだろうけれど、やはりきちんと彼女の意思は確認しておきたい。

 例えシステム的には可能であっても、一度懐に入れてしまったならば二度とこの腕の外に解き放つことはできないとボクには思えるから。


 こちらの真剣さに応えようとするかのように、彼女は真剣な眼差しでコクリと頷いた。


「了解。これからはあなたもうちの子だよ。〔調教(テイム)〕!」


 ふわりと柔らかい光がボクの頭から飛び出し、ケンタウロスちゃんの豊かな胸へと吸い込まれていく。

 四度目ともなれば見慣れた光景だったのだが……。どうしてその場所だったのかは後からきっちり運営に問い詰める所存にございます。


《ケンタウロスをテイムしました。これよりリュカリュカ・ミミルのテイムモンスターとして扱われることになります》


 インフォメーションも問題なしのようだ。


《テイムしたケンタウロスに名前を付けてください》


 ……感傷にひたる間もなく畳みかけてくるこのやり口は、問題アリの気がするけれど。


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