表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第三十章 土卿王国の旅路

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

422/933

422 回収されたかも

「おいおい、リュカリュカちゃん。勘弁してくれよ……」

「え!?これってボクのせいなの!?……あー、うん。ボクのせいだね。ごめんなさい」


 アッシュさんの言葉に「いわれのない中傷だ!」と反論しようと思ったのも束の間、改めてボクたちの前に現れた魔物の姿を見て責任を認めることになってしまった。

 そこに居たのは「次にテイムするなら、どんな子がいいかな?」と思い浮かべていた役割にぴったりと合致していたからだ。


「よくよく考えてみれば、これほどリュカリュカの望みと一致している相手はいませんね」


 いつの間に荷台の後ろからやって来たのか、ネイトがボクの隣で呟く。

 そうだね。ここまで見事にしてしまうと、もはや苦笑するしかないよ。がっしりとした体つきはエクスカリオンと同等かそれ以上で、しかも道具を用いる器用さも兼ね備えているときている。


「最近、やたらと種族の名前を聞くと思ったら……。まさかこんな伏線が隠されていたなんて」


 はい。皆さん、もうお気付きですね。

 いきなり登場してきたのはケンタウロスさんでした。


 とはいえ、現段階でテイムできるのかどうかは不明なのだけれどね。それ以前にボクの場合は毎回相手の側から「テイムして欲しい」とお願いしてきている。

 つまりですね、


「ところで、普通の魔物をテイムするってどうやるの?」


 という状態なのですよ。


「……は?いや、テイマーなのに何で知らないんだよ?」

「むしろ俺たちが教えて欲しいくらいなんだが?」

「まさかテイムの方法を教えてくれと言われる日がくるとは思わなかった……」


 そして当然のように行商人トリオから突っ込みの声が上がる。

 まあ、ボクでも同じ立場なら間違いなく同じことを言ったことだろうね。


 当のケンタウロスはというと、十五メートルくらい離れた位置で、弓を構えて油断なくこちらを見据えている。

 救いなのは今のところは単に警戒しているだけで、すぐさま攻撃に出ようとはしていなかったことか。


 一方こちらはというと、前方へと移送していたのはネイトだけではなかったようで、エッ君とリーヴもミルファと並ぶようにして先頭に立っていた。

 いつでも戦いを開始できる布陣だわ。

 うーむ……。完全に一触即発な状況で、はっきり言って「テイムさせて」と言い出せるような雰囲気ですらない。


 はてさてどうしたものか?と思っていると、どこからともなく『ぐぅー』という音が聞こえてくる。

 ……これってもしかしなくてもお腹が鳴る音なのでは?


 ついついうちで一番の大食らいであるエッ君の方を見てみると、案の定と言いますか微妙に居心地の悪そうな様子で明後日の方を向いていました。

 ええ。犯人は間違いなくこの子です。


 確かに出発してからの経過時間を考えると、そろそろ休憩時であることに間違いはない。

 しかし、さすがにこの緊迫した状況下でそれはどうなのよと思ってしまう訳でして。これは後でお説教をしておかないといけないかな。


 それというのも生理現象というのは全く制御できないことも多いけれど、逆にある程度は制御できてしまうことも少なからずあるからだ。


 例えば空腹。

 勉強でも運動でも何でもいいのだけれど、何かに集中し過ぎていて空腹を感じなかった、空腹であることを忘れていたという経験は誰にでもあると思う。

 しかも今回の場合はつい数時間前に食事をしたばかりでもあるのだ。

 要するに、一触即発な危険な空気感が充満する中で、空腹を感じてしまうくらいには気がそぞろであったという可能性がある訳なのだった。


 まあ、余裕を持っていられている証拠とも取れるし、仲間たちも全員健在であるのでそこまで緊迫する必要がなかったということかもしれないので、詳しくは本人の弁明を聞いてからにはなるのだろうけれど。


 この辺りで話を戻すとしよう。


『グウウウ……』


 そう思ったところで、先ほどのエッ君のお腹の音をはるかに上回る大音量が響き渡る。

 おいおい。いくら何でも二連続はいかんでしょう。誰ですか今の騒音の発生源となったのは?

 目が合った瞬間にぶんぶんと首を横に振っていくうちの子たちに仲間たちアンド依頼主の行商人トリオ。あ、実は僕が犯人だったというありがちな展開でもないので念のため。


 そうなると、必然的に残るは一人だけとなりますですな。


 一斉にボクたちがそちらの方向を向くと、ケンタウロスは厳しい表情をそのままにしつつも、そのお顔を真っ赤に染めていたのだった。


「そ、相当お腹が空いているようですわね……」

「ケンタウロスはあの身体だろう。だから食べる量もかなりなものだって話だ」

「暴れ回っているのも、食べ物が足りていないせいじゃないかって説もあるらしいぞ」


 行商隊などが襲われた場合にはそれこそ根こそぎ全て積み荷を奪い尽くされ、反対に住処である平原を離れて町や村などへと出向いて来た時には反撃で一網打尽にされてしまうために、真偽のほどは明らかにされていないとのことだった。


 いずれにしてもこれはチャンスかもしれない。


「リュカリュカ、どうしますか?……と聞くまでもなかったようですね」


 ネイトの言う通り、この時点でボクは方針を定めていた。


「お腹が空いているなら交渉の余地がありそうだよね」


 空腹でただでさえ命の危険にさらされているのだ。

 戦おうとすればケンタウロスはそれこそ死に物狂いで抵抗することだろう。


 まあ、プレイヤーと同様に空腹度が高まったことによって飢餓状態の状態異常が発生しているならば、それほど苦戦せずに倒すことができるかもしれない。

 しかしながら、ボクはそこまで強硬策に出ようという気持ちにはなれなかった。


 理由のは二つ。

 一つは〔鑑定〕が効かなかったこと。実は遭遇してからこっそりと何度も〔鑑定〕技能を使用していたのだけれど、うんともすんとも反応しなかったのだ。

 それこそバグか何かが発生してしまったのではないかと、うちの子たちや仲間たち、果てはその辺の石ころにまで使ってみたところ、こちらは正常に作動したのだった。


 つまり〔鑑定〕を無効化する何等かの力を持っているということで油断は禁物。

 戦いになったとしても安易に勝利できるとは思えないのだった。


 そして理由の二つ目。

 こちらは単純で、空腹であることを知ってしまったからだ。

 やっぱりひもじいのは辛いと思うのです。幸いにもリアルでもこちらでもそうした経験はほとんどしたことがない。

 だからこそ、できるのであれば手を差し伸べてあげたいと思うのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ