414 おじいちゃん、合流
国境の街に戻ってみると、やはり街の中に居残っているのは危険だと判断したのかミルファたちはアッシュさんたちを連れて国境の検問の側にまで移動していた。
「ほう……。お前たちがそこまでしないといけないとは、こいつはなかなかいい塩梅になっているようだな。デュランのやつもしばらくは退屈しないで済むだろうよ」
そう言って獰猛な笑みを浮かべるおじいちゃんだったが、その言葉の端々からデュランさんへの信頼が透けて見えるのがなんだか嬉しい。
コンビを解消していて、さらには立場も異なる二人だけれど、親友であることには変わりはないようだ。
まあ、そう指摘しても二人とも絶対に否定するだろうけれどね。
仲良しさんな二人について言及するのはこのくらいにしまして。
ボクたちも急いで合流してしまわないと。
検問所の近くだから早々魔物が寄ってくるとは思えないが、万が一という事態はあり得るからね。ジオグランドが自国側から国境線沿いの魔物を散らしているとすれば、その余波でこれまでは近寄って来なかった人のテリトリーにまで侵入してくるということも考えられる。
という訳で、さっさと西の門から国境の街を抜ける。
入る時とは違って、出る時には審査等もないのであっという間の出来事となった。
偽冒険者と門番や街の衛兵たちがグルになっているという展開も予想していたので、良い意味で裏切られた結果だ。あの連中はあくまで少々腕っぷしが強い小悪党だった、ということなのかもしれない。
街から出ると検問所は目と鼻の先にあった。緩衝地帯となっている草原を挟んでジオグランド側を見張る意味合いもあるためか、併設されている砦は大きさこそ大したことはないものの、一見して頑丈であるのが見て取れるね。
そんな砦の壁に隠れるようにしてミルファたちは……、のんびりしていた。
アッシュさんたちはエクスカリオン君を労うようにマッサージをしたり荷台の積み荷の位置を調整したりしているし、ミルファとネイトは時折周囲に視線を向けながらもおしゃべりに興じていた。
エッ君は興味をひかれたものに飛び付いていってしまっており、リーヴはそんなエッ君がはぐれて迷子にならないように少し後ろを付いて回っている。
とてもではないが、難癖をつけられて襲撃されるかもしれないと警戒しているようには見えなかった。
「この場合、焦ることなく余裕をもっているみんなを頼もしく思えばいいのかな?それとも油断し過ぎだと怒るべき?どっちなんだろう……?」
「他人事のように言っているが、ああいう態度を取っているのは全部リュカリュカの影響だと思うぞ」
「え?なしてボクのせい?」
「なんでも何も、仲間たちと一緒にあそこにいることを想像してみろ」
考え中。
ポクポクポク……、チーン!
「気を張り過ぎてばかりいても疲れるだけだから、適度にのんびりしていようか。って言うね、間違いなく」
「……その通りの光景じゃねえか」
「ホントだ!?」
何ということでしょう。知らず知らずの内にボクのまったりな考え方が仲間たちに伝播していっているではありませんか!
「リーダーや指導者の影響っていうのは、本人が思っている以上に大きなものだということだ。これからはそういう部分にも頭を働かせるようにしておけ」
先達のありがたい助言だ。ありがたく頂戴しておきますですよ。
「はい。という訳でこちらがもしもの時のための用心棒の先生こと、ディランおじいちゃんです」
合流しておじいちゃんの紹介を行ったところ、ピシリと音がしそうな勢いでアッシュさんたち三人が固まってしまった。
「あれ?どうしたの?」
「あのなあ、リュカリュカ……。いや、自分で言うのもおこがましくてアレだな。ミルファ、ネイト、俺の代わりにこの世間知らずに説明を頼む」
「分かりましたわ」
「今後のためにもしっかりと言い聞かせておきます」
確かに『OAW』の常識に疎い自覚はあるけど、みんなして残念な子を見るような目をするのは止めて。
そんなボクのささやかな抗議は聞き入れられることなく――「実際残念な子ですわよね」とはミルファの言で、ネイトからは「普段しっかりしている分だけ、余計にひどく感じられますから」とまで言われてしまいました。しくしく……――、ミルファとネイトによる講義が始まる。
簡単にまとめると、『泣く鬼も張り倒す』の二人組のディランとデュランさんは近年の冒険者の中では一際有名で、冒険者以外のそれこそ権力者から一般人にまで名前を知られるレベルなのだとか。
その上かたりや成りすましには厳罰が与えられることでも有名らしく、行商人トリオは「本物であっても偽者であっても、とんでもない人が来た!?」となって硬直してしまったようです。
「あー……。確かにそれを自分で説明するのはキツイよね。どうやったって自慢にしか聞こえないわ」
「……一番に納得する部分がそこかということに一抹の不安を覚えてしまうんだが……。リュカリュカよ、本当に理解できているんだろうな?」
と、念を押すように尋ねてくるおじいちゃんです。
「大丈夫だいじょぶ。今後は名前を出さずにおじいちゃん呼びで統一するから」
「対策としては間違っていないどころか最上の部類であるように思えるのですが、何でしょうか、この徒労感は……」
「ええ。無性に「そうじゃないですわよ!」と叫びたくなってしまいましたわ……」
そして何やらぐったりと疲れ果てたように項垂れているミルファとネイト。
ここにきてこれまでの旅の疲れが出てしまったのかも?……などというボケは置いておきまして。
リアルで例えるなら、世界規模の大会で活躍していたスポーツ選手をいきなり紹介されたようなものだろう。
しかも単なる顔見せではなく指導までしてくれるとなれば、「なにこれドッキリ!?それとも夢!?」と錯乱してしまってもおかしくはない。
むしろそんな展開は漫画などの創作物の中でしかありえないわよね。
いやあ、プレイヤーたちからもおじいちゃんたちの武勇伝――黒歴史とまではいかなくとも、それなりにやんちゃなエピソードはたくさんあるみたい――は聞いていたけれど、クンビーラではそれほど騒がれていなかったから、ボクのワールドではそれほどでもないのかと思っていたのだ。
実際にはブラックドラゴンの守護竜化という大問題を、現在進行形で処理しなくてはいけなかったことから、相対的に話題としては弱くなっていただけのことだったようです。




