412 勝手に自爆
男たちは国境間の護衛としては顔の知られた存在だったのだろう。
本人たちだけでなくこの場にいた多くの人たちもまた、ボクの指摘に驚いていた。
「嘘だろ……。だって、あいつら何年もここと向こうの街を行き来してたんだぜ?」
「いや、でもあれはどう考えても図星を刺されたやつのものだったぞ」
「そう、だよな……。わざわざ怪しまれるような演技をする必要なんてないもんな」
うん、まあ、あの怪しさ満点の態度が決め手となったよね。台詞は詰まってまともに言えていなかったし、その上目は泳いでいるは冷や汗がダバーッと滝のように流れているはで、白状しているも同然だった。
が、認めていない以上、ここで追及の手を緩めるわけにはいかない。
「ふーん。れっきとした冒険者ねえ……。それなら冒険者カードを見せて。ああ、そっちが見せるだけだと不公平だね。はい、これがボクのカードだよ」
「ぬ……、ぐう……」
言い逃れも誤魔化しもできないように、矢継ぎ早に話を進めて証拠を提示させる以外の道を塞いでいく。
ほれほれー。
これでもまだ冒険者だと言い張るつもりなら、しっかりとカードを見せてみなさい。
手にした自分のカードをひらひらと動かしながら、一番手前に居た一人の顔を覗き込んでやる。
我ながらいい性格をしているとは思う。が、不当に冒険者であることを語って収益を得ていたのだ。そしてその分冒険者の誰かが被害を受けていたと考えると、なあなあで終わらせるわけにはいかない。
こういう時には巡り巡って弱い立場の者が割を食うことになるのが世の常だからね。最悪、冒険者の成り手がいなくなる可能性だってある。
「そんなことが続けば魔物がはびこってしまって街の外になんて出られなくなるかもしれないし、農作物だって育てられなくなるかもしれない。たくさんの人が飢えて亡くなり、食べ物を奪い合うヒャッハーな世紀末、もとい世相が乱れて戦乱の嵐が巻き起こるだろうね」
ボクの言葉に具体的な光景を思い描いてしまったのか、ブルリと体を震わせる人が続出していた。
そんな様子をチラチラと横目におさえながら、男たちに向き直る。場の空気は完全に彼らを断罪するものとなっており、見事にそれに呑まれたのか、大きな体が丸められて見る影もなくなってしまっていた。
「これまでの行いを反省して罪を償うというなら、これ以上ボクからは何もしない。だけど、まだ性懲りもなく冒険者だといい続けるつもりなら、相応の覚悟はしてもらうから」
これまでの鬱憤を全部発散させるかのように、怒気をまとめて叩きつけてやる。
あ、これも雰囲気切り替えの応用技となります。「全部お前が悪いんじゃー!」と八つ当たりするようにやるのがポイントだね。
理不尽?世の中そんなもんです。
「う、うう……」
正面にいた一人が気圧されるように一歩下がると、それに押されるようにして残りの面々も逃げ腰になっていく。
勝負ありだ。視線で入口を示してやると、男たちは我先に逃げるようにして冒険者協会の建物から出て行ったのだった。
「逃がしてしまって良かったんですか?」
「あのような連中がまともに改心するとは思えませんわよ?」
続けて尋ねてくるネイトとミルファに、肩をすくませてみせることでこれ以上はどうしようもなかったのだと告げる。
「これだけの数の目撃者がいることだし、少なくともこの近辺で仕事にありつくことはできなくなるはずだよ。長年国境間を往復することしかしてこなかった人たちだし、他所へ行くとなるときっと苦労するんじゃないかな」
流れ着いた先でまた誰かの迷惑になってしまうかもという心配はあるけれど、この街の上層部が怪しい以上、下手に兵士のいるところに連れて行くこともできない。
「かといって、改心して更生するまで面倒を見ることもできないし……」
とかく人の世とは難しいものなのです。
「さて、邪魔者もいなくなったことだし、護衛の依頼と受注を終わらせようか」
「お、おう。そうだな」
ここで悩んでいたところでどうにもならないと、努めて明るい声を出すことで場の空気を入れ替えますよ。
さすがにこれだけの騒ぎを起こしたためか絡んでこようとする者はいなかったらしく、その後はサクサクと用件は完了し、ボクたちは無事にアッシュさんたちのドワーフの里までの護衛依頼を引き受けることができたのだった。
いや、これが普通なんだけどね。
《クエスト『荷馬車護衛』を受注しました。目的地はドワーフの里です》
余談だが、買い取りカウンターの方から延々とジトッとした粘っこい視線が送られていたのだけれど、気が付かないふりをする……、にはいい加減苛立ってきたので、最後の最後で目力全開で睨み返してやりました。
声にならない声で悲鳴を上げて椅子から転げ落ちていたので、これ以上余計なちょっかいを掛ける気力もなくなったことだろうと思う。
「ふはあああ……」
そして冒険者協会の建物から出た途端、ボクたちは全員で大きなため息の大合唱をする羽目になってしまっていた。
大した用事でもなかったはずなのに、随分と疲れ果てる目に遭ってしまったものだ。
「やっぱりリュカリュカちゃんたちも冒険者なんだなあ。さっきの一件でつくづく納得したよ」
と言うヴァイさんの声音は言葉通り心底感心した調子だったが、今回はほとんどあの連中の自爆だったので素直に喜べなかったり。
「それにしても、どうしてあいつらが冒険者ないと分かったんだ?」
と不思議そうに尋ねてきたのはインゴさんだ。
「これでいて『冒険者』っていうのも色々とルールや決まりがあるものなんです。破れば当然罰が与えられるし、資格の剝奪だってあり得るんですよ。だけど、あの連中はそんなこと一切考えていないようだったから、もしかするとモグリなんじゃないかって考えたという訳。で、試しに揺さぶりをかけてみたんだけど……。あそこまで簡単にぼろを出すとは思いませんでしたよ」
「揺さぶりというには、正面切ったストレートな表現だったように思えますけどね」
「後ろ暗いところがある連中には、搦手のようなものより真っ向ストレートで切り込んでいった方がかえって効果的なこともあるんだよ」
中学時代には里っちゃんたち生徒会のお手伝いとして、風紀委員会の持ち物取り締まり活動に参加したこともあったので。
一体何を持ち込んでいたのかは守秘義務がありますので。
思春期、ということからお察しください。




