404 どこかで見た顔?
それではここで種明かしをば。
既に気が付いた人もいるかもしれないけれど、割り込んでかばう「オヤビン、危ない!」という行為を、かばわれる対象にとって防御力上昇効果のある動作だと仮定した訳です。
そのため【ペネトレイト】のような防御力を無効にする闘技の前では意味がなく、かばったダークゴブリンもかばわれたダークゴブリンリーダーも一網打尽となってしまったのだった。
まあ、かなり強引な解釈の仕方であり、ゲームのシステムに適合するかどうかは正直言って微妙なところだったのではないかな。
恐らくは「オヤビン、危ない!」が一種の闘技か技能扱いとなっており、加えてその発動にもリーダーとその配下という関係性が必要、という感じでいくつもの条件が前提にあってようやく防御力無視の効果を発揮するようになっているのだろう。
が、もしかすると運営としても想定外なバグ判定ということもあり得るのだよね。なので、一応は今回のことについても報告しておく必要がありそうだと思っています。
だって、この解釈が不用意に拡大されていってしまうと、護衛役がいたとしても後衛の仲間やクエストの護衛対象が攻撃されてしまうことになり、最悪ゲームバランスが崩壊してしまうかもしれないので。
まあ、その辺のことはリアルに戻ってからするとして。
みんなの方の戦いはどうなっただろうか?振り返って見てみると、ちょうどエッ君とリーヴがそれぞれ最後の魔物を打ち倒したところだった。
「みんな平気?怪我はないかな?」
「あの程度の魔物に後れを取るわたくしたちではありませんわ」
ボクの問い掛けに「さあ褒めろ」と言わんばかりに胸を反らせて自信満々に答えるミルファさんです。
その足元で彼女の真似をするように体を反らせているエッ君がらぶりー。
「こちらも平気です。リーヴが前に出てくれていましたからね」
対してネイトは落ち着いた様子でニコリと微笑みを浮かべることで、無事であることをアピールしてくれていた。
そしてリーヴは前列での盾役ご苦労様。
あれ?ということは、ダークゴブリンたちからの反撃を受けたのはボクだけってこと?
……うん。このことについては第一級特別機密に指定して、誰にも閲覧できないようにしておこうと思います。
「後、荷馬車の方々も無事ですし、馬の傷も癒してありますよ」
ああ、それは良かった。お馬さんも含めて誰一人として犠牲がなかったのは朗報だね。
そしてネイトの言葉がスイッチとなったのか、行商人たちが退避していた荷馬車の上から下りてくる。
「改めて礼を言わせてくれ。君たちのおかげで助かった。俺たちも、そしてこいつもな」
一人がポンポンと毛並みの良い背中を叩くと、お馬さんの方もバッサバッサと大きく尻尾を振ってやり返している。
そんな何気ない様子からもお互いを大切に想い合っていることが良く分かり、ほっこりしてしまいます。
「いえいえ。困った時はお互い様ですからね。その子も含めて大事なくて良かったです」
助けることができて良かった。本心からそう思う。
ただ、少しだけ引っ掛かることが。
行商人たちは若い男性の三人組だったのだけれど、どうにもどこかで顔を合わせたことがあるような、そんな気がしていたのだった。
さりとて、「どこかで会ったことがありますか?」なんてまるでナンパのような安っぽい台詞を口にすることなどできるはずなく。
だってうら若き恥じらい深い女の子だもの。
確認するべきなのか、それとも単なる気のせいとして流すべきなのか。
はてさて、どうすんべ?とちょっぴり悩んでいたところ、男性の一人がおずおずといった調子で口を開いた。
「シャンディラの飯屋で酔っぱらって絡まれたことがあるだろう。あれが俺たちなんだ……」
おおう!そういえばそんなこともあったね!
よく見れば確かにあの時心の中で「おじさん」呼びしていた人たちかも知れない。
残る二人の方もはっとした後で気まずげな顔になっているのを見るに、酔っぱらってはいたが記憶をなくしてはいないもよう。
一人だけすぐに思い出したのは、ネイトの【キュア】で強制的に素面に戻されていたからだろう。
対してうちの面子はというと、ミルファもネイトも「ああ、そんな人たちもいたな」程度の反応です。
ほとんど変わらないボクが言えた義理ではないけれど、もう少ししっかりと覚えておいてあげようよ……。ちょっとばかり彼らのことが不憫に思えてしまうほどだった。
「あの時は、本当に申し訳なかった!」
罪悪感に耐え切れなくなったのだろうか、いきなりガバッと深々と頭を下げるおじさんその一改め、行商人のお兄さんその一。
「す、すまなかった!」
「悪かった!」
そして一拍遅れて残りの二人も頭を下げる。突然の出来事についていけずにキョロキョロしているお馬さんが可愛いです。
仲間たちへと視線を向けると、ちょうどミルファたちもこちらをみており、それぞれ肩をすくめた後で軽く頷いていた。
どうやらボクに判断を一任してくれるみたいだ。まあ、すっかり忘れていたくらいだからねえ。今さら蒸し返す気もないということなのだろう。
「もう過ぎたことですし、ボクたちもほとんど忘れかけていましたから、一つだけ約束してくれるのなら水に流してあげますよ」
「や、約束?」
「俺たちにできることなら……」
いやいや、そんなに怯えなくても、無茶なことは言いませんってば。
「これからは人に絡むほど正体をなくすようなお酒の飲み方はしないこと。これだけを守ってくれればそれでいいです」
そう言うとあからさまにホッとした表情を浮かべる三人。
もしかすると、あの時の対応がトラウマになりかけていたりするのかしらん?例えそうだとしても、それについては自業自得ということで諦めてもらうしかないけれどね。
「……分かった。もう二度と酒の席で絡むような真似はしない。約束する」
「俺もだ」
「ああ。誓って誰かに迷惑をかけるようなことはしない」
はいな。その言葉を信用しますですよ。
かなり懲りていたようだし、この件はこのくらい釘を刺しておけば十分だろう。
「ところで、倒したダークゴブリンなんだけど……」
「助けてもらったんだ。取れた素材は全部君たちに渡すよ。ああ、もちろん剥ぎ取りは俺たちも手伝うから」
という訳で、臨時収入を得ることができそうな予感です。
まさか雑魚敵の代表格であるゴブリンを倒すまでに、これほど話数が必要になるなんて……。
作者的にもビックリですわ。
そしてあの時の酔っぱらいのにーちゃんたちが、こちらもまさかの再登場です。




