403 逆手に取れたら?
結局、目の前のダークゴブリンより先にリーダーを倒す上手い案を閃くことができず、ボクはなし崩しに二体との戦闘に突入することになった。
しかも、それまでとは打って変わったようにダークゴブリンの動きが良くなるという、まったくもって嬉しくないオマケ付きで。
そのため、時折割り込んでくるリーダーの攻撃もあってほとんど防戦一辺倒となってしまう。
「隙だらけに感じたのは気のせいだったみたいね!?しょせんは素人に毛が生えた程度の腕前だから、間違えても仕方がなかったのかもしれないけど!」
と、思っていたのだけれど少し違っており、実際にはリーダーの特殊能力によってダークゴブリンは本当に強くなっていたのだ。
これも後から知ったことなのだけれど、リーダーとは群れ、もしくは配下の魔物の能力を強化させることができるようなのだ。
指揮や指示を出すものがいることで全体の動きが良くなる、という理由ではなかったのです。はい。
ただし、強化できる総量は決まっており、数が多ければその分一体当たりの強化は小さくなってしまうのだとか。
例えば、十二ポイントの強化をできるリーダーがいるとする。
三体の配下を強化すると一体当たりの強化は四ポイントとなるが、六体であればそれぞれ二ポイント、十二体となれば一ポイントしか強化されないことになるのだ。
このリーダーはどうやら群れ全体をあらかじめ強化していたようなのだけれど、自分の身に危険が迫った今、その強化をボクの目の前にいる一体へと集中させたらしいのだ。
そりゃあ、強いはずだよね。
むしろ何とかその攻撃をさばききっていたボクって凄くない?
とはいえ、この時のボクはそんなことを知る由もなく。
急激に強くなった敵にただただ焦ることになってしまっていた。
「グギャギャー!」
「うにょわっ!?」
蛮声と共に振り下ろされる棍棒を髪一重で避ける。
誤字じゃないです、逃げた拍子に流れた髪が数本餌食になってしまっていましたので。
「誰が上手いこと言えと!?」
誰も突っ込んでくれる人がいないのでセルフ突っ込みでございます。
え?意外と余裕そうだって?
いえいえ、とんでもない。そんなことでも考えていないと不安に飲み込まれてしまいそうになっているくらい追い詰められていましたとも。
「ていっ!」
勢い余って地面を叩きそうになっていたダークゴブリンに反撃の突きを行うも、強制的に引き戻した棍棒によってあっさりと弾かれてしまう。
うっわ、技量も何もあったものじゃないよ。能力頼みで力一辺倒のその様に思わず顔をしかめてしまう。
ええ、龍爪剣斧を弾かれたことで掴んでいた腕が痺れてしまったとかではありませんとも!
「ギャ!」
さらに体勢が崩れかけたところへリーダーが追い打ちをかけてくるが、そちらは見え見えの攻撃だったこともあって楽々回避完了。
「うっさいよ、この小物リーダー!」
「ゲギャー!?」
お返しとばかりにこちらも無理矢理ハルバードを振るうと、大したダメージでもないのに大袈裟に悲鳴を上げるダークゴブリンリーダー。
まさに小物。というか、だんだんリーダーとしての威厳というものすらなくなってきているような気がする。
仮にここでボクたちが見逃したとしても、確実に下克上が発生して彼はナムナムな最期を迎えることになってしまうだろうと思われます。
それでもまだ今の段階ではリーダーということになるためか、それ以上の追撃を行えないようにダークゴブリンが割って入ってくる。
「うおっと!すっかりリーダーの方がウィークポイントになっちゃってる感じだわね」
何とかこの動きを逆手に取れないものだろうか。
あの「オヤビン、危ない!」な行動は敵が一カ所に集まってくれるために、こちらからすれば範囲攻撃で一網打尽にする絶好の機会にもなり得ると考えられるからだ。
幸か不幸か、リーダーへの攻撃を警戒しているのかダークゴブリンの攻撃には先ほどよりも苛烈さがなくなっていた。
ボクとて伊達におじいちゃんたち格上相手に訓練を繰り返してきた訳ではない。回避するだけなら楽勝どころか、考え事を続ける余裕すら生まれていた。
問題なのは、生半可な攻撃ではダークゴブリンのかばう行為を越えて、肝心のリーダーにダメージを与えられないということだ。
現状、ボクの手札の中ではオーバーロードさせた魔法による攻撃がその代表選手ということになるのだけれど、あれには集中しなくてはいけない上、発動までに時間がかかってしまうという欠点があった。
ただでさえ相手は二体と数が多い状態でこの欠点は致命的だ。間違いなく発動よりも先にこちらがやられてしまうことになる。
「あ……、もしかするとあれなら何とかなるかもしれない」
横なぎの棍棒の一撃を、ハルバードの剣先で軌道をそらしたところで、先日習得した闘技について思い出す。
かなりこじつけで強引な解釈となるけれど、できなくはないような気がする。
「ダメでもダークゴブリンには大ダメージになるはずだし、やってみる価値はあるね」
そうと決まれば実行あるのみ。と言いたいところだけれど、まずはお披露目のための舞台を整えなくては。
「という訳で邪魔者は席を外してくださいな。【光源】!」
一気にダークゴブリンへと近付いて、その顔の正面に光を発生させる。
生活魔法の【光源】、エルが地下遺跡で使用していた魔法だね。読んで字のごとく明かりを生み出すためのものだけど、いきなり目の前に現れれば一時的に視界を奪うくらいの効果はあるのだ。
悲鳴を上げて顔を抑えるそいつを放置して、リーダーへと駆け寄る。
「さあ、今度こそやっつけてやるんだから!」
と、大きな声で言いながら龍爪剣斧を引いて腰だめに構える。
対して一瞬慌てた顔を見せたリーダーは横合いからやって来ようとしているそれの気配を察したのか、醜悪な顔に笑みを浮かべていた。
残念だったね。
元からそれは織り込み済みなの。
「その守護すら貫け!【ペネトレイト】!」
闘技の名を口にした途端、体ごと飛び込むように大きく踏み込んで必殺の突きが放たれる。
同時に、ボクの死角からリーダーを隠すかのようにダークゴブリンが飛び込んできていた。
「ゲ……?ギャガッ……!」
その呟きを漏らしたのは果たしてどちらだったのか。
刃の根元まで埋まったハルバードを引き抜きながらバックステップをすると、支えるものがなくなったように二体の魔物が地面へと倒れ伏していったのだった。
「どんなに鉄壁の守りだとしても、無効化してしまえば意味がない、ってね」
【ペネトレイト】、防御力無視の効果を持つロマン技の一つでございます。




