402 『エッグヘルム』の戦い
さて、ボクがダークゴブリンリーダーへと攻撃を仕掛けていた頃、仲間たちもまたそれぞれの戦いの佳境を迎えていた。
まずはミルファとエッ君のコンビ。
ほぼ左半分の敵集団をまとめて引き受けたようなものだったので数は多かったのだが、初手からサクサク撃破していたこともあり終始二人の方が押し気味となっていた。
「わたくしがメインの囮となりますから、エッ君は隙をついてどんどん倒していってくださいまし!」
そう告げるミルファだったが、彼女自身もひらりひらりと舞うように動き回りながら目に付いた敵を攻撃して回っている。
時に周りを取り囲まれそうになることもあったが、そこは先程の指示通りエッ君が背後や死角から強襲して包囲を突き崩していく。
身体のサイズの関係で範囲こそ狭いけれど、ゴードンさんが改造してくれた専用蹴爪や鋲付き尻尾用毛皮の効果もあって、エッ君の攻撃力はボクたちパーティーの最高峰だったりするからね。
まともに防御できない状態で受けるとなれば大ダメージは必至なのです。
そして、崩れた包囲網などミルファにとっては格好の的でしかなく……。
「【ライトニードル】!【サンダーボール】!」
哀れ、魔法の餌食とされたのでした。辛うじて直撃を避けて生き残った者もいたが、二人の猛攻の前では倒されるのは時間の問題だろうね。
という訳で今度はネイトとリーヴへと視点を向けることにしましょうか。
「痛かったでしょう。これでもう大丈夫ですよ。【ヒール】!」
怪我をしたお馬さんを無事回復させていた。その光景を三体のダークゴブリンが忌々しそうに見つめていたのだけれど、リーヴに立ち塞がれてしまっては手を出すこともできなかったようだ。
一方で荷馬車の人たちは大層喜んでおりました。
「ああ、ありがとう!」
「心の底から感謝する。こいつと俺たちはこれまでずっと一緒だったんだ」
「もしかするとこのまま死んでしまうのかと気が気じゃなかった」
ほうほう。お馬さんも仲間扱いするその心意気は良いですな。
ピロリン♪と彼らへの好感度アップです。
「それでは皆さんはこの子を守ってあげてください。わたしたちでやつらを倒します」
「え?……わ、分かった!」
お馬さんのことが大事だというのは本心だったようで、荒事は苦手なのか腰が引けてはいるようだがネイトのお願いに応えるように三人ともお馬さんの前へと移動する。
せっかく上がった好感度が下がらないように頑張ってください。
その間にネイトはさらに前へと進み、ダークゴブリンたちと対峙しているリーヴに並ぶ。
「三体ですか。後ろに通すことができないという縛りがあるので、これは少々骨が折れそうですね。リーヴ、頼りにしていますから」
その言葉に頷くと、ジワリと一歩魔物たちとの距離を詰めるリーヴ。
これまでの魔物との実戦経験やおじいちゃんたちとの戦闘訓練によって、ネイトも戦闘中の立ち回りは上手くなっているが攻撃力の低さだけはいかんともし難いものがある。
倒すとなると基本的にはリーヴが頼みの綱となってしまうだろう。
まあ、あくまでも「基本的には」なんだけどね。彼女だって攻撃手段の一つくらいは持っているのですよ。
それでは何故、わざわざ自分が戦力外のような言い方をしたのか?
それは敵に補助役であることを印象付けるためだった。
「ギャギャ!」
「グゲギャ!」
一触即発の空気に耐えられずにダークゴブリンたちが堰を切ったように突撃してくる。
が、彼らの暴発は【クレバーウォール】によってことごとく止められてしまっていた。
「隙だらけですよ。【アースドリル】!」
読み通りだったと言わんばかりのタイミングで、ネイトが一体に向けて魔法を発動させる。先ほどのボクとは違って、しっかりと準備を行ったものだから威力の方も申し分ないです。
「ギョボ!?」
直撃を受けたそいつは間の抜けた声を発しながら吹っ飛び、再び動き出すことはなかったのだった。
「ギャギャギャ!?」
「ギャギャギャギャギャ!?」
突然真横で起きた事象に理解が追いつかず、騒ぎ立てる二体の魔物たち。
当然リーヴがそんな隙を見逃すはずもなく、【クロススラッシュ】による二連撃で次々と葬り去ったのだった。
……え?ちょっと待って。
連撃系の闘技って一体が対象じゃないの?まさかそんな風に複数の敵に使用することができるだなんて……。
終わってみれば圧勝だった訳だけど、これはリーヴの力もさることながら、ブラフを上手に利用したネイトのお手柄だと言えそうだわね。
仲間たちの成長にちょっぴり焦りを感じてしまいそうになるリュカリュカちゃんなのでした。
これは負けてはいられない。
ボクも頑張ってダークゴブリンリーダーたちをなんとかしなければ!
……まあ、みんなの様子を見たのはこの戦闘が終わるどころか、今日の冒険を終えてリアルへと帰還した後のことなのですけどね。
さて、一体を倒したことで後がないと感じたのか、それまでとは一転してリーダーも戦闘に参加するそぶりを見せていた。
どうやらダークゴブリンの後ろに隠れるようにして戦闘の合間の隙を狙う腹積もりのようだ。
いやらしい、そしてせこい。でも効果的なのも間違いないのよね。
こちらとしてはみんなのためにも指揮能力があるリーダーを先に潰して、群れ全体を弱体化させたいところだ。
が、無理に狙ったところで再び「オヤビン、危ない!」が発動するのは目に見えている。
ここは素直に多少のダメージを受けるのを覚悟して、目の前のダークゴブリンから倒していくべきか。
「接近戦中心になるのは間違いないかな」
なので牙龍槌杖をアイテムボックス仕舞い、龍爪剣斧を両手で持って構え直す。
そして改めて対峙してみて気付いたのだけど、このダークゴブリン隙だらけだわ。はっきり言ってどういう攻撃をしても命中しそうに思えてしまう。
まさかこんなことが分かるようになるとは、やっぱり訓練というのはバカにできないものがあるね。まあ、ゲームの中のことであり、キャラクターの補正もあってのことなのだろうけれど。
ちなみに、これがおじいちゃんクラスの力量を持つ相手ならば、後の先を取るための誘いではないかと疑う必要があるので注意。
そして仲間たちが圧勝しつつあることを知り、あの時の悩みは何だったのかと呆然としてしまうのはもう少し先のことになる。




