401 リーダーは強い?
『リーダー』とは知能が高い魔物や、群れを形成する性質を持つ魔物に設定されている特別な個体だ。
掲示板等の発見・遭遇報告によると、ダークゴブリンやオーガと言った二足歩行の人型に、フォレストウルフなどの犬もしくはオオカミ系、ホーンバッファローやスマッシュディアーのような中型から大型の草食動物タイプの魔物まで、幅広い種類で確認されているとのことだった。
ちなみに、オオカミ系の中でもロンリーコヨーテは別ね。
ロンリーだし。
まあ、よりゲーム的なことを言えば、開始直後からそんな面倒な魔物が出現しないように調整している、ということなのだろう。
だけど、どうせならブラックドラゴンなんてとんでもない相手も出現しないようにしてもらいたかったよ……。
コホン。
気を取り直しまして。
リーダーの特徴としては、通常の魔物よりも総じて能力が高いことが挙げられる。
遭遇したことのあるプレイヤーたちの主観とはなるけれど、おおよそで二割程度強化されているように感じられたのだとか。
たかが二割?
いいえ、されど二割です。
キャラクターメイキングをする際、能力の最初期値は〈筋力〉〈体力〉〈敏捷〉〈知性〉〈魔力〉〈運〉の六項目全てが五で合計三十ポイントとなっている。
ここから二割増しとなると三十六。レベルアップにおける能力値の上昇値は一ポイントだから、単純に考えても六レベルもの差がついているということになるのだ。
このように単体の能力も侮れないのだが、本当に恐ろしい部分はこれとは別にあった。
魔物の群れというのを一つの生き物に例えるとすると、『OAW』の魔物におけるリーダーは群れを率いるため集団の中心に位置する頭脳ということになる。
狩りにしても移動にしても、リーダーがいることで群れが効率的に動けるようになるという訳だね。
小難しく説明したけれど、早い話リーダーがいるとその魔物の群れは強くなってしまうのだ。
今回の場合、荷馬車を待ち伏せしたり包囲するように陣取っていたりしたのは、ボクの目の前のリーダーがいたためだろうと予想されます。
さらに言えば配下である他のダークゴブリンたちも若干強化がされているはずなのだけど、シャンディラまでの道のりでは二回しか戦ったことがなかった――しかもどちらも数体と小規模だった――ので、はっきりとした違いに気が付くことはなかったのでした。
まあ、強化されたところで大差のない連中はどうでもいいとしまして、問題は目の前にいるリーダーとその配下たちだ。
先ほどの闘技二連発で一体は倒すことができているから、残るはリーダーを含め三体となる。
一応は【ウィンドニードル】も命中したようだが、牽制を主眼に置いていた上に発動時間を短く設定していたからか、そのダメージは微々たるものにしかなっていなかったようだ。
ただ、一体は最初に奇襲で撃ち込んだ【アクアボール】が直撃したのか、いい感じでHPを減らしていたけれど。
ダークゴブリンたちを中心にじりじりと円を描くよう左に移動しながら様子を伺う。
自分がいることでの有利さ、そして自分がいなくなれば完全に群れが瓦解してしまうと理解しているためなのか、リーダーは二体の背後から出てくる気配はない。
さて、どうしましょうかね?
ミルファたちもネイトたちも苦戦はしていないので、いずれ今戦っている相手を倒して応援に駆けつけて来てくれるだろう。
安全策を取るならこれがベストになるはずだ。
だけど、さすがにこれは少々情けないものがあるよね。グロウアームズなんていう凄い武器を二本も持っていることだし、みんなに少しくらいはカッコいいところを見せたいなあ、なんて思う訳でして。
しかしながら、状況は一対三と圧倒的にボクの方が不利となる。しかも先ほどの強襲で一体潰したことで、あちらは完全に防御中心の構えとなっている。
頭を潰すのが勝利への近道だろうが、なかなかに難しそうだ。
「力押しっていうのは、あまり好みじゃないんだけどね!」
ふと後方を気にするような仕草で陽動を掛けると、一気に魔物たちの近くへと飛び込んでいく。
「はっ!ていっ!」
リーダーを守るために前に出てきた片方のダークゴブリンに向けて連続で両手の武器を振るっていく。
はっきり言って型も刃筋もあったものじゃない。しかも少しでもやり過ぎると、ハルバードの重みや遠心力に耐え切れずに体ごと流されてしまいそうになる。
え?
くるりと一回転?
無理ムリむり!喧嘩慣れしてしているだとか格闘技経験が豊富だとかで場数を踏んでいるならともかく、リアルのボクは一般ぴーぷるなジョシコーセーなのよ。
目の前に敵がいるのに背中を向けるとかそんな恐ろしいこと、素人には到底できませんってば!
それでも徐々にだが押し込んでいくことができていたのは、武器の性能やリーチの差、なんだろうねえ。
こうなるとリーダーにできる対処は一緒になって反撃に出るか、それとも距離を取るのかの二つに一つとなるだろう。
そしてやつの取った行動は、身の安全を守るために一人だけ後方へと移動することだった。
心の中では「かかった!」と思いながらも、追い詰め損ねたと思わせるために悔しそうな顔をするボク。
……ちゃんと演じきれているよね?などという不安を解消する間もなく次の動作へと移る。
「どっせい!」
「グギャ!?」
両手を揃えて二本まとめて目の前の敵へと武器を振り下ろすことで弾き飛ばすと、すぐに魔法を発動させた。
「【ウィンドドリル】!」
リーダーへと一直線に飛んでいく魔法に大ダメージを確信する。
毎度お馴染み発動速度優先だったが、高熟練度に達しないと習得できない分ドリルの攻撃力は高いのだ。
が、
「ゲギャギャ!……ギャフ!?」
「うそっ!?」
なんと横合いから飛び出してきたもう一体のダークゴブリンによって、ボクの魔法攻撃が防がれてしまったのだった。
「まさかダークゴブリンが防御系の秘技『オヤビン、危ない!』を習得していただなんて……」
まあ、要するに捨て身で割り込んでかばうというだけの話なんですけどね。
ちなみに、最初の奇襲でダメージを受けていた個体だったので、今の一撃でHPが全損しております。作戦は失敗したけれど、敵の数を減らすことができただけマシだったかな。




