398 基本、丸投げです
迷宮都市の名前の通り、シャンディラの繁栄は迷宮があってこそのものだ。
今の冒険者たちの主流となっている動きが、その迷宮攻略に支障をきたしてしまうかもしれないとなると、この地に住み商売をしている店員さんや親方さんからすれば放置しておくことのできない問題だろう。
「ううむ……。知り合いの冒険者たちからも話を聞いてみる必要がありそうじゃな」
「場合によっちゃあ、冒険者協会に直談判しなくちゃいけなくなるかもしれないぞ」
と、さっそく動いてくれる気満々のようなので、後のことは基本的にはお任せすることになりそうだ。
これでもボクたちは旅の最中で、やらなくてはいけないことがある身の上だからね。これ以上荷物を背負い込むようなことはできない。
ましてやこの一件は、下手をすれば一つの都市国家の命運が掛かっているかもしれないのだ。
そんな超重量級の重荷なんて御免です!
ただ、まあ、シャンディラは『風卿エリア』の要の一つであり、衰退なんてしてしまうととっても困ることになる。
「一応、手を打ってはおきましょうかね」
「リュカリュカはこの一件に何か裏があるかもしれないと考えているのですか?」
ボクの呟きに反応した仲間たちを代表して、ネイトが小声で尋ねてきた。
興味津々といったみんなの様子にちょっぴり苦笑しながら、「まあね」と短く答える。
店員さんと親方さんもこれからどう動くべきかについて話し始めていることだし、考えをまとめる意味も込めて、ボクたちも現状と予想、それから取るべき行動について整理してみましょうか。
「まず今のシャンディラ、というか迷宮を攻略している冒険者たちの状況については、さっき店員さんたちが話してくれた通り、量産品で安価な武器を大量に持ち込むことが主流になっている、みたい。ここまでは問題ない?」
問い掛けに揃って頷くみんな。うん。しっかり理解しているようです。
「ここからがボクの予想なのだけど、いくら替えがあるとしても、例えばあの地下遺跡で戦ったドラゴンタイプのゴーレムみたいな凶悪な魔物にそんなそこそこ程度の品質の武器で勝てると思う?」
「無理ですわね。一定以上の質がなければ傷一つ負わせることができないのではないかしら」
ですよねー。
まあ、本来地下遺跡に出現したゴーレムたちはもっと強くなくてはいけないとは思うのだけど、そこは多分ゲーム的な補正が掛かった――パーティーの人数や平均レベルなどに合わせるようになっていたのでは?――のだと思われます。
「まるで、あえて攻略が難しい状況にしているように思えたの」
「ああ!それで何か裏があるのではないかと考えた訳ですね」
ネイトさん、大正解です。
ちなみに、シャンディラ上層部や冒険者協会の支部が主体となっているだろう『迷宮由来の素材の希少性と値段を吊り上げようとする説』と、ヴァジュラやジオグランドなど関係が深い他国が主となる『シャンディラの力を削ごうとしている陰謀説』の二つをご用意しておりますですよ。
「前者もあまり良くはありませんが、後者に比べれば幾分かはマシですわね」
シャンディラ自体は無事どころかより強力になるかもしれないからね。
すぐに騒乱に直結するようなこともないだろうから、その点でも後者の『他国の陰謀説』より安心できる内容かもしれない。
ただし、公平性や独立性など諸々の観点から、『冒険者協会』への信頼は地に落ちることになる可能性はあるけれどね。
フォローするべき冒険者をないがしろにするかのような対応を取っていることになるのだから、当然の結果だと言えるだろう。
さて、これらを踏まえた上でのボクたちの行動ですが、とりあえずは冒険者関連の話題ということで、クンビーラの冒険者協会支部長のデュランさんやおじいちゃんたち宛に、旅先からのお手紙という風を装って連絡を入れておくくらいとなるだろうか。
後はエルにでも「ヴァジュラの動向に注意して」と伝えてもらえれば、公主様や宰相さんが対応してくれるように思う。
「それだけで良いのですか?」
「クンビーラのことが心配でないと言えば嘘になりますけれど、今のわたくしたちは冒険者として活動している身ですわ。あまり特定の国と懇意にしていると思われてしまっては、活動に支障をきたしてしまいますもの。それに心配をしている以上にわたくし、お父様たちのことを信頼していますのよ」
ミルファがそこまで覚悟を決めている以上、ボクたちもそれに従うべきだろう。
「それにしても、十数日しか滞在していなかったはずなのに、ネイトも随分クンビーラびいきになっているんだね?」
重苦しい方向へと空気が流れていかないように、わざと茶化した風を装ってそう尋ねる。
そうした狙いがあったとはいえ、実はこの疑問自体はボクの心の底からのものでもあった。
それというのも、生まれ育った故郷であるミルファや、ゲームの開始地点として特別に思い入れを持っているボクとは違い、ネイトはクンビーラと特別な関係がある訳ではないからだ。
先ほど言った通り、滞在していた期間だってそれほど長いものでもない。
まあ、騒動だけは大量に発生していたけれどさ……。
「それは、あなたたちと出会うことができた場所なのですから、特別扱いするのは当然ですよ」
そうきましたか、ネイトさん!
顔を真っ赤にしながら、どことなく拗ねたような表情で、そっぽを向きながら小声で答えるとか反則ではないでしょうかね!?
ミルファにとってもこの答えは予想外だったようで、瞬間湯沸かし器か何かのように、即座に顔を赤く染めていたのだった。
そして釣られるように自分の頬にも熱がこもってきているのを感じる。
きっとネイトとミルファの二人と同じように、ボクの顔も真っ赤になってしまっていることだろう。
ああ、照れるぜい。
「と、ともかくですわね!あちらのことはあちらに任せて、わたくしたちは先に進むべきですわ!」
「そ、そうですね!まだまだ旅は続くのですから、進めるうちに進んでおいた方が良いと思います!」
うん。二人とも、恥ずかしい気持ちはよく分かったから少し落ち着こうか。
まあ、先を急ぐというのは賛成だけど。この一件が大きくなってしまうと、最悪シャンディラから出られなくなってしまうという可能性だってありますので。
ドワーフの里に向かうかどうかはともかく、国境の街を越えて、ジオグランドには早急に移動しておきたいところだ。




