386 一段落はしたらしい
不正操作記録の解析を元にした取調べによって――おだてたりすかしたり脅したりなだめたりといったことがあったのかは不明です――、犯人はすぐに正気であったことが判明した。
現在は共犯者についてのことが中心になっているらしいが、口を割るのは時間の問題というところまできているようだ。
それというのも、彼に科せられることになる罪が『OAW』への非正規手順による侵入とそのシステムの改竄となるからだ。
え?
ボク、リュカリュカを害したことはどうなるのかって?
そもそもの話、VRゲームの世界ではPvPやPKがそれなりにまかり通っている。よって、『テイマーちゃんの殺害改め傷害』については不問とすることになったのだった。
仮にあの時本当にボクが死に戻っていて、さらにはその結果ドロップしたアイテムを取得していた場合には、窃盗罪とか強盗罪とかが適応されていたらしいけれどね。
結局、襲撃を目撃することになった複数のプレイヤーこそが、一番の被害者なのかもしれない。トラウマなどになっていなければいいのだけれど。
巻き込んでしまった謝罪の意味も込めて、運営からのお詫びの際に一言添えさせてもらえないか提案してみるつもりだ。
話を犯人のことに戻すとしまして。
単独犯ということになれば必然的に全ての責任が押しかかることになるので罪も重くなってしまう、ということであるらしい。
彼にとって不幸だったのはギリギリでそれができてしまえるだけの実力を持っていたということだ。
もちろんその分だけ時間や手間がかかってしまうことになる――このため実際には単独犯行は無理だった、と運営も当局も結論付けていた――のだろうが、逆に言えば時間と手間さえかければ可能だったということなる。
共犯者について口を割らないのであれば、その分の罪も上乗せになることを告げると、正気であることを隠すことができないと悟った時に引き続いて、真っ青な顔になってしまったのだそうだ。ざまみろ。
そして、元より仲間意識など希薄だったのだろう。
しきりに共犯者の情報を教える代わりに、罪を軽減してもらえないかと司法取引のような事を持ちかけ始めているのだそうだ。
ボクとしてはしっかり反省して二度とこんなことを起こさないでくれるのであればそれで十分だと思っていたのだが、運営としてはこれを機に手段を問わないようなイリーガルな敵対勢力はきっちり潰してしまいたいようでして。
さらに当局は当局でサイバーな犯罪組織の尻尾を掴むことができるかもしれない、ということで搾り取れるだけ情報を搾り取ろうという魂胆であるらしいです。
自業自得ではあるけれど、ご愁傷様です。
運営への協力者だったとすることでこうした情報も送られてきた訳ですが、実はこれらのことをボクが知ることができたのは、事件のあった日から三日後のことだった。
それまで一体何をしていたのかと言いますと……、里っちゃんと雪っちゃんの二人からステレオでお説教を受けていました。
しかもこの期間はゲーム禁止まで言い渡された上に、目を離すと何をしでかすか分からないと、お勉強合宿が再始動されることになってしまったのだった。
いや、まあ、これはこれで楽しかったんだけどさ。
二人とも結局うちの親には何も言わないでいてくれたしね。
それからさらに数日のうちに事件の方は一気に解決へと向かうことになる。
実行犯の彼の証言を基にリアルで捜査が進められた結果、数名の共犯者が逮捕されることになったのだった。
その中には黒幕らしき人物も含まれており、その人の供述によると、あの合同イベント後の大捕り物のあおりを受けて生活が苦しくなり、その仕返しとして今回の一件をしでかした、ということであったらしい。
「生活が苦しくなったとは言っても、毎夜のように行っていた豪遊ができなくなっただけの話のようですが」
アウラロウラさんから追加の説明を受けた瞬間、
「ボクの同情を返せ!」
と叫んでしまったボクは絶対悪くない。
「リュカリュカさんの読み通り『OAW』の評判を下げることが目的だったとか。掲示板でやたらと煽るような書き込みを繰り返していたプレイヤーたちとの間に直接的な面識はなく、SNS等の「小遣い稼ぎになる」という文言に釣られてやってしまっただけのようです」
もっとも、だからといって無罪放免とできる訳もなく。
彼らには厳重注意と共にしばらくの間厳重な監視が付くことになったそうだ。
「実行犯や解析、侵入等を行った者たちとは元から知り合いであったようですが、一部相手側から接触してきた者たちもいたそうです。そうした連中はまだ捕えられていないらしく、当局では国際的な犯罪組織が関与している可能性も考えているそうですね」
知らないところでどんどんと話が大きくなっていくなあ……。
知ったところで「何かできるのか?」と言われても困るけど。
「肝心のリュカリュカさんをターゲットとした件ですが、掲示板で時折話題に上っていた、ワタクシたち運営の回し者ではないのか、という噂を真に受けたからだったようです」
おうっふ……。まさかあんな噂が元凶となっていたとは。ボクが何か書き込んだところで火に油を注ぐだけの結果にしかなりそうもなかったから放置していたのだけれど、こんなことならアウラロウラさんたち運営に相談して対処してもらっておくべきだったかも。
まあ、リアルとは一切関係がないと分かっただけ良しとするべきか。
「そういう意味では、リュカリュカさんもワタクシたちのとばっちりを受けたようなものです。そうですね……。代わりと言ってはなんですが、何か補填を行うことができないか、上へと掛け合ってみましょうか?」
「いえいえ!そういうのは別に必要ないですから!」
下手に何かしてもらうと、また別のおかしな噂話が生まれてしまいそうだもの。
「それに今回はボクの我が儘を聞いてもらいましたからね。それだけで十分です」
結果的に上手く話を転がすことができたけれど、何かが一つズレてしまっていれば、運営が立場の差を利用してプレイヤーに無茶なことをやらせている、といった悪評が立ってしまっていたかもしれない。
今さらながらに思い返してみると、結構ギリギリで薄氷の上を歩いているかのように危ないものだったと気付かされる。
早くゲーム本編へと戻りたい。
ふと、そんなことを考えてしまっていた。




