383 謝罪は誠心誠意心を込めて
「運営が自信を持っていたプロテクトを突破して、さらにはボクというプレイヤーを害することで、スポンサーや顧客に不安感を与えることが目的だったというのはどうでしょうか?」
多方面から現状を推察することで導き出された仮説をアウラロウラさんへと告げる。
これならば犯行以後は大きく目立ったアクションを行わなくても、目的を達することができるのではないだろうか。
もしかすると、掲示板でやけに不安をあおるとか、強い口調で非難を繰り返すといった書き込みをしている人の中には、犯人に繋がっている人が紛れているかもしれないね。
「急いでチェックを開始します!」
ボクが言うや否や、すぐさま各所への連絡といった行動に移っているアウラロウラさん。
あくまで仮説を元に発展させた推測程度のものなんですけど……。そんなことすら言い出せないような雰囲気になってしまっておりますですよ。
「こんなことで自信を持てと言われても納得がいかないかもしれませんが、リュカリュカさんの考えは現状ではかなり高い確度を持つと思われます。少なくとも、ワタクシたちが想像した仮説に比べると、遥かに現実味があるのです」
まあ、素人なので、ある意味問題を離れた位置から客観的に見ることができていた、ということになるのかな。
運営の人たちはその道のプロであるためか、かえって色々と深く考えすぎてしまったのだろう。
うん。きっとそうに違いない!
大間違いだったら困るので、これまでに思い付いていた他の仮説も捨てたりはせずに検証だけはしっかりと続けてもらうようにだけは言っておいた方がいいかも。
とにかく、この点に関してはこれ以上ボクの出る幕はなさそうだ。
もっとも、これ以上は本当に何も思い付きそうにないというのが本音のところだったりするのだけれどね。
さて、そうなると残る問題はただ一つ。
どうしてボクが狙われることになったのか?だ。
先のアウラロウラさんにならって、これまた一番簡単で単純に思い付いた案を述べるならば、有名プレイヤーとして目立っていたから、ということになるだろうか。
自分で言うのも気恥ずかしい――どころか黒歴史のようで痛々しいくらいです……――ものがあるのだが、エッ君と出会った『竜の卵』イベントを皮切りに、ゲーム開始当初からボクの活躍は目覚ましいものがある。
特に『笑顔』との合同イベントでアバターの姿を人前にさらして以降は、ゲームを代表する有名プレイヤーの一人として認知され、人気もとんでもないことになっている、らしい。
恐らく、襲撃する側としてはより大きな衝撃や不安感を与えたいと考えていたはずだ。
よって、どうせならば無名の相手よりも有名なボクを狙うべき、という思考に辿り着いたとしても何ら不思議ではないという訳だ。
「でも、どうにも引っ掛かるんだよね」
あくまで感覚的なものなので詳しく説明できないのも歯がゆいところだ。
加えて、それほど勘が鋭い性質ではないから、どれほど当てになるのかは微妙なところではあるけれどね。
しかし、リュカリュカというキャラクターの補正が加わっているならば、また話しは変わってくるのではないかとも思える。
仲間たちの協力があってのことだが、いくつもの危機を乗り越えてきたという実績もあるしね。
ここは一つリュカリュカちゃんの能力に期待して、色々と考えてみることにしようか。
……そういえば、意識が途切れる直前に何か聞いたような覚えがあったね。
いくつかは誰かの悲鳴だったかな?
まあ、リアルでボクたちが暮らしている現代ニポン社会は、平和ボケとすら揶揄されているほどだからね。そんな基本平穏な生活を送っている人たちがいきなり通り魔的な傷害事件を目撃することになったのだから、悲鳴を発するのは当然の反応というものだろう。
中には漫画や小説やゲームに影響されて、常日頃からそうした突発的な事件に備えている、という人もいなくはないだろうけれど、確実に少数派だと思う。
って、しまった!そういえばうちの子たちを『ファーム』に入れっぱなしにしていたのだった!
アウラロウラさんとの話し合いも一区切りしたことだし、いい加減にあの子たちのフォローもしておかないとまずいことになりそうだ。
ちょっぴりへそを曲げるくらいであれば、ごめんなさいと拝み倒せば何とかなるかもしれないけれど、怒っていじけて拗らせた挙句、「大っ嫌い!」などと言われてしまった日には――主にボクの――心臓が止まってしまうかもしれない!?
慌てて呼び出しては、平身低頭で心配かけたことを謝り倒して何とかお許しを貰うことができたのだった。
「つまり、今回の事件はマスターの世界の側の問題が裏にあるということですか?」
代表して尋ねてきたリーネイに頷くことで答える。
「犯人もプレイヤー、あちらの世界の人間のようだし、その点は間違いなさそうだね」
以前『OAW』のストーリー管理システムは、独断で暴走を起こしてしまったことがある。死に戻りができないようにボクの設定を改竄してしまったのだ。
結局これが原因で、ボクは『帰還の首飾り』を貰う事になり、今こうして無事でいられているのもそのお陰だと言えなくもないのかもしれない。
本当に世の中何がどう影響し合うのか分からないものです。
しかしながら今回の事件は、立ち回り方を間違えば『OAW』の存続自体が危うくなってしまうくらい危険なものだ。
例え今でもボクのことを要警戒対象としていたとしても、自身が存在できなくなっては本末転倒になってしまう。
よって、ストーリー監視システムが関与しているとは考え難いのだった。
「という訳で、何か覚えていることとか気になったことはあるかな?」
ボクの問い掛けに顔を見合わせて首を傾げるうちの子たち。
こんな状況でなければ抱き着いて頬ずりしたくなるような愛らしさでございます。
「そうは言われましても……。あの時はマスターのことが心配で頭が一杯になっていましたから」
「この度はご心配をおかけしてしまい、本っ当に申し訳ないです!」
即座に腰を九十度に曲げ、深々と頭を下げるボクなのでした。
マスターとしての威厳?
そんなものはうちの子たちの機嫌の前では塵ほども価値もありませんともさ!




