380 被害者よりも協力者
突然の謝罪禁止宣言に目を丸くしていたアウラロウラさんに、家庭の事情のあれこれがあるので特にリアルの方では騒ぎを大きくしないで欲しいことを伝える。
うん。まあ、冷静になって後から考えてみると、まるでさっぱり説明になっていなかったよね。
とりあえずこの時はそれくらい焦っていたと思っておいてください。
要領を得ない上に無茶振りに近い内容に、到底受け入れられないという様子のアウラロウラさんだったが、最悪『OAW』ができなくなるかもしれないことを告げると、渋々ながら運営上層部に伝えてみると約束してくれたのだった。
「ですが既に当局が動いている以上、何もなかったことにはできませんよ」
本来あってはいけない形で顧客に害を与えてしまったということで、社会の風潮的にも企業倫理的にもある程度の情報公開と責任の在り処の提示は必要となってくる、らしいです。
「それに、リュカリュカさんが害される現場を何人ものプレイヤーが目撃していたため、なかったことにするのはもちろん、適当に誤魔化すこともできはしないでしょう。現にワタクシたちの管理内に止めてはくれているものの、様々な場所で話題に上りつつあります」
わーお、もうそんなところにまで状況が進んでしまっているのね……。
まあ、あちこちから心配のメールが送られてきていたのだから、そうなっていても変ではないのかな。
しかし、困った。この調子で事が進んでしまえば、巡り巡って今回の事件のことがうちの両親の耳に入ってしまうかもしれない。
そうなればただでさえボクがゲームをやることに否定的な二人のことだから、安全の不備を理由に高確率で『OAW』を辞めさせられてしまうことだろう。
ようやくストーリーが大きく動き出して、どこにでも行けるようになったのだ。そんなことになってしまったら絶対に不完全燃焼状態になってしまうよ!?
なんとしてでもそんな未来だけは回避しなくちゃいけない!
そのためにもまず、しなくてはいけないことは……?
より正しくより深くボクが置かれている現状を知ることが必要となるだろうね。
「今回のことで『帰還の首飾り』がしっかりと効果がある事は理解できましたけど、大元のボクが死に戻りできない状態だった問題はどうなっているんですか?」
「その点については現在では九割方解決済みで、後はリュカリュカさん本人への報告と、いつ特別サーバーから一般サーバーへと戻すべきかの協議を行うことを残すのみとなっていました」
それってシステム的には、ほぼほぼ解決しているっていうことなのでは?
だけど、それなら『帰還の首飾り』を所持していたことを、「今回のような件に対処するためだった」と言い換えることができるかもしれない。
同様に、貰ったタイミングの方もゲームを始めてすぐの頃ではなく、メイションへと移動できるようになって以降、つまり合同イベントへの参加が決定したからだと言い逃れることができるのではないだろうか。
「これを理由にして「保険的な面のみではあったけど、ボク自身に危害が加えられることへの対応はしていた」って言うことはできませんかね?」
「……できなくはないと推測されます。しかし、それに何の意味があるのでしょうか?」
「アウラロウラさんたち運営が、事件が起きるのをただ手をこまねいていた訳ではなく、最低限ながらも対策をしていたと声を大にして言うことができますよ。これって結構重要なことだと思いませんか」
一番良い結果なのは事件を起こさせなかったこととなる。これは間違いない。
だけど、未来を見通すことなんてできない以上、完全で完璧に対処するなんてことは不可能だ。特に普通ではあり得ないことや、常識外れの出来事などともなれば、想像することすら難しいだろう。
そこで重要になってくるのがより良い結果だ。『帰還の首飾り』を所持していたことで殺されることなくボクを保護できている今の状態もこれに当てはまると思われます。
まあ、どちらかといえばまだマシ、程度の評価かも知れないけどね。
それでも想像もつかないから、考えられないからと放置しておくのではなく、少しでも対策を行っていたと表明することができれば、リスク管理ができていると思わせることはできるかもしれない。
「それは……。確かにワタクシたちにとっては利点が大きいと言えます。が、リュカリュカさんには何のメリットもないのではありませんか?」
「いえいえ、そんなことはないですよ。そういうことにすればボクは単なる被害者ではなく、事情を知った上での協力者になることができますから」
「かえって状況が悪くなるのでは?」
多分アウラロウラさんが考えているのは、運営という立場を笠に着てプレイヤーのボクを強制的に共犯者へと仕立て上げたと思われると困る、という辺りのことじゃないかな。
「それこそやり方次第だと思いますよ。例え事実を嘘偽りなく語ったとしても、否定的に捉えようとする人たちに掛かれば巧妙な嘘になり果ててしまうんですから。それとボク個人の立ち位置としては、巻き込まれた被害者よりも積極的に関わりを持ち協力者である方が都合がいいです」
危険は承知の上だったことにすれば、運営から謝られるいわれはなくなるからね!
「……この点もワタクシの一存で答えることはできません。リュカリュカさんからの提案として上に進言しておきます」
「よろしくお願いしますね。……あ、でも、あの時の現場を目撃したプレイヤーの人たちがいるんですよね?それなら、あまりのんびりとはしていられないと思いますけど」
勝手な憶測から生まれた噂話が独り歩きしていくと、どんなとんでも変化を遂げるか分かったものじゃないからね。
実際、合同イベントが始まる前まで「『テイマーちゃん』なんてプレイヤーは存在しておらず、『冒険日記』は運営による作り話だ」という噂が真しやかにささやかれ続けていたくらいだ。
「そちらは一部情報を解除することで既に対処しています」
「そうなんですか?」
「はい。パニックが起きるのを防ぐためという意味合いもあり、既に犯人はリアル共々捕まえられていることを公表しています」
当局が動いたとなれば、報道機関も異変を察知している可能性が高いものね。
第三者から発表されるくらいなら、あらかじめ自分たちから情報を流しておいた方がプレイヤーからの信頼を損なわずにすむと判断したのかもしれない。




