378 『テイマーちゃん』殺害事件!?
予想のことも込みでグロウアームズについての情報の取り扱いについては、一切合切をスミスさんへと丸投げ、もといお任せすることにした。
「本当に全部俺たちに任せっきりでいいのか?」
「鍛冶関係のことはボクにはさっぱり分かりませんから。予想の検証や裏付けもお任せすることになっちゃうので、そのお礼だとでも思って頂ければいいですよ」
きっとスミスさんたち本業の人から発表された方が、説得力も増すことになるだろうからね。
その代わりと言っては何だけれど、ここ数日プレイヤーの人たちに聞いて回っていた『風卿』以外のエリアのゲーム開始直後の社会情勢について、ケイミーさんたちも交えて教えてもらうことにしたのだった。
「……ほうほう。それじゃあ、『土卿エリア』でも特に首都グランディオの周辺だけが軍備拡張を推し進めているということですか」
「ああ。兵士となる人員をかき集めている分、武器や防具といった装備品の類も不足しているという設定になっていてな。鍛冶師を始め腕の良い職人は何人いても足りないという状況だったな」
ふみゅ。ゲームとして見るなら、あらかじめ<クリエイター>のプレイヤーが一旗あげやすい環境が作られていたというところかな。
「そういえば、師匠の工房に出入りしていた旅芸人の一座も、ジオグランドの方に足を延ばしてみるという話をしていたような……?そうそう、大勢の人が集まっているっていう噂を聞いたとか言っていたよ」
そう言ったケイミーさんが本拠地としているのは『風卿エリア』の中でも西部に位置する『迷宮都市シャンドラ』だ。
修業時代はその近くにあった別の町に居たそうなのだけれど、『土卿エリア』に近い位置であることには変わりがない。
プレイヤーとしては移動できなくても、多少の情報は得られるようになっていたみたいだ。
ちなみに、どうしてシャンドラを選んだのかというと……。
「迷宮なら人形の部品に使える珍しい素材がたくさん手に入るって聞いたから!」
ということらしい。
って、うええ!?まだ話が続いてる!?
「――なんだけど、聞いてよ。迷宮の難易度って半端じゃないの。私も最初はそうは言っても一かいくらいなら何とかなるんじゃない?と思って一人で突撃してみたんだけど、あっさり数分で死に戻ることになっちゃった」
お、おおう……。久しぶりにマシンガントークが炸裂しちゃいましたね。
そんな彼女をデコピン一発で静かにさせたのは、言わずと知れたお友達であるシュクトウさんだった。気安い間柄ならでは方法なので参考にはならないのが難点その一だわね。
その手際の良さに猛獣使いという単語が頭をよぎったことは秘密です。
「私は『水卿エリア』にいるけれど、物騒そうな噂を聞いたことはないわね。ただ、仲間の商人たちの間ではフレイムタンの動きが怪しいという話は随分前から出ていた気がする」
互助組織の『商業組合』こそ各街の独自色が強いが、町や村を回っている行商人さんたちも所属しているためか、彼らのネットワークというものは意外と侮れないものがある。
なので、シュクトウさんの話もなかなかに貴重なものかもしれない。
「『火卿エリア』はなあ……。基本的に内乱状態というか群雄割拠状態で、各地で有力貴族たちが力を蓄えているらしい。何か一つ大きな事件でもあれば、すぐにでも戦国時代に突入しかねない危うさがあるようだな」
スミスさんがお客さんから聞いたのだろう情報を教えてくれる。
どの貴族の陣営についても大筋は変わらず、勢力拡大のための下地作りという感じになるのだそうだ。
「まるで等身大で戦国もののシミュレーションゲームをやっている感覚になるとか言っていたな。何をするにしても時間がかかるらしくて、「どうして一回あたりに選択できるコマンドの回数が少ないのか良く分かった」という話だ」
「移動するだけでも一苦労だものねえ」
しみじみといった感じでシュクトウさんが呟き、ケイミーさんとスミスさんが同意すると言わんばかりにしきりに頷いていた。
リアルよりは簡略化されているし、距離も短くはなっているようだけれど、『OAW』では別の村や町まで行くだけでも結構時間がかかってしまう。
『転移門』自体もある程度規模が大きな町以上にしか存在していないし、一度はその場所に足を運んでいなければ基本的には利用できない仕様となっている。
何より、大きな街であればその中を移動するだけでもなかなかに大変なのだ。
クンビーラですらボクたちが定宿にしている『猟犬のあくび亭』からだと、冒険者協会の支部がある中央広場や、街の外に出るために一番近い北門までで二分くらいは歩かなくてはいけない。
公主様たちのいるお城まではおよそ五分、ボッターさんたちがいる『商業組合』までとなると、十分近くの時間が必要となってしまうのだ。
話を戻すとしまして。
これまでに聞いた話と総合して考えてみると、『火卿エリア』側としてはこの内乱状態を建て直すなり、独立性を確固たるものするなりできなくては、他所のエリアへと手出しができる状態ではない、ということになりそうだ。
もっとも、こっそりと裏から手を出すようなことはあり得るから、油断は禁物というところだけれど。
それでもすぐに全面戦争にはならないだろうというのは朗報だと思う。
さて、なんだかんだとやっている間に結構時間が経ってしまった。
いい加減じっとしていることが限界に達しそうな子もいるので、そろそろお暇することにしましょうか。
有益そうな情報も貰うことができたし、ケイミーさんたちともフレンド登録ができたから、本日は大満足ですよ。
「また連絡しますね」
「いつでもメールを送ってくれていいから」
なんて言葉を別れの挨拶代わりに交わしてお店から出る。
徐々に存在感を増している空腹度を減らすため、『屋台通り』で何か良さげな物を買い食いしようかな?それとも『食道楽』にあるお店に入ってガッツリ食事をしましょうか?
つらつらと取り留めのないことを考えながら歩いていると、ふいに背後からドンッという衝撃を受ける。
あれ?
どうして目の前に地面があるのだろう?
ぼそぼそと呟く小さな声と、誰かの叫び声が聞こえたのを最後に、ボクの意識は暗転したのだった。




