377 グロウアームズへの変化の条件
スミスさんが悩んでいた問題、「名付けとグロウアームズへと変化したタイミングのズレ」の答えは、分かってみれば簡単なものだった。
「つまり、所有者である『テイマーちゃん』が認めたことで変化が起きた、ということなのか?」
「はい。その直前に「いいんじゃない」と言った覚えがありますから」
無理矢理おかしな名前を押し付けられるのを防ぐ意味合いがあるのではないかと推測されます。
所有する人の専用の武器となる訳だし、必然的に長期に渡って使い続けることになるだろうからね。その本人が納得できるというのは、考えてみれば必須とも言える条件だと思う。
「言われてみれば納得よね。でも、どうして今まで誰も気が付かなかったのかな?」
「グロウアームズの元になった武器自体がその個人用に調整されたものだからじゃないかしら。元々強い思い入れがあって製作を依頼したものなのだから、名前だってその当人がいない場所で付けるなんてことは考えられないと思うわ」
シュクトウさんの意見にケイミーさんがなるほどと頷いている。まあ、恐らくはそういうことなのだろうね。
「しかし、龍爪剣斧と違ってレベル一の段階から防御力と魔法力が追加されているとは予想外だ。とはいえ、グロウアームズに変化したこと自体が想定外のことだったがな」
スミスさんを始めとして鍛冶師プレイヤー、特に現状トップレベルの技能と熟練度を誇る人たちは、既にこれまで特注品としてそれぞれのプレイヤー用に調整した武器を作っていた。
その中には当然、名前を付けて愛着をもって大切に使用している人たちも多くいたのだそうだ。
しかし、これまでそうした武器がグロウアームズへと変化することはなかったらしい。
「それなのに、テイマーちゃんが持ち込んできた直後にこれだからな。……このままいくつかグロウアームズに変化するものが出てくれば単なる先駆けとして問題ないだろうが、そうならなかった時には少々面倒なことが起きるかもしれない」
「それって、要するにアレですか。ボクが「運営から優遇されているのでは?」って疑われるかもしれないということですか?」
「……ぶっちゃけて言ってしまうとそういうことになる」
はあ……。まったくもって鬱陶しいことこの上ない話だ。
そうやってすぐに他人を羨んだり妬んだりする人に限って、大して検証も調査もしていなかったりするのだよね。
「人にイチャモンつける前に自分にできることをしっかりやれと言いたい」
「うわ……、『テイマーちゃん』が荒ぶっておられる」
「やっぱり私たちの知らないところで、嫌な目にも合っていたのね……」
リアルでもそうなのだけれど、直接的な被害というか面と向かって言われたことは基本的にない。
が、そういう陰口や噂という体にした悪口というのは巡り巡って耳に入ってきてしまうものなのです。「ここだけの話」や「内緒にしてね」というのは「拡散希望!」と言っているのと同義だから。
ああ、それと誰が話していたかという情報もしっかり伝わってきているからね。
軽い気持ちで誰かをバカにしていると、いつの間にか自分の品位や評価を貶めていることになったりもするのでご注意あそばせ。
「まあ、あまり声高に騒がれても面倒だし邪魔くさいので、ちょっとばかり予防線を張っておくことにしましょうか」
「うわ……、『テイマーちゃん』がなんだか悪どい!?」
「やっぱりこの子、ただの良い子じゃなさそうね」
里っちゃんたち生徒会のお手伝いをしていた中学時代に色々ありましたもので。
「それで、『テイマーちゃん』には何か対策があるのか?」
ケイミーさんたちの感想には一切触れようとしないスミスさんてばクールだね。
まあ、そちら関係にはあまり気分のよろしくない話題も含まれることになるので、スルーしてくれたのは賢明かつナイスな判断だと思います。
「対策なんて言えるほど仰々しいものじゃないですけどね。どうせすぐにこのことは広まることになるのだから、ついでに予想も付け加えてみようかな、というだけのことです」
「予想?……ということは『テイマーちゃん』には牙龍槌杖だけがグロウアームズ化した理由が分かっているということか!?」
ギラン!とスミスさんの目が光り、ずいっと一歩近づいてくる。
恐らく無意識の行動なのだろうけれど、だからこそこれ以上は色々と絵面的にもマスいのではないだろうか。
「はい、ストップ!」
「スミスさん、落ち着いて。これ以上は通報案件になっちゃう」
そんなことを考えたと同時に、ケイミーさんとシュクトウさん、並びにうちの子たちが物理的にボクたち二人の間に割って入って来てくれた。
「あ……、すまない。つい我を忘れていたらしい」
今度は比較的軽度だったようで、それだけでスミスさんも我に返ってくれたのだった。
「ああ、良かった。でも、今のは『テイマーちゃん』の方にも問題があるよ」
「そうね。もったいつけられてしまっては、やきもきしてしまうもの」
う……、申し訳ないです。以後気を付けますです。
ということで、さっさと予想を発表することにしましょうか。
「多分ですけど製作者か依頼者、つまり関係者の誰かが、本編内でグロウアームズへの変化を起こさせないといけないんじゃないかと思うんですよ」
ゲームへの没入対策という側面があるのでそれなりに力が入れられているが、『異次元都市メイション』はあくまでも各プレイヤーのワールドである本編を補佐することが役割になっていると思われる。
だからこそ本編未登場の素材で作られた装備品やアイテム類は購入できない仕様になっているのではないだろうか。
「それに当てはめてみると、グロウアームズへの変化の条件に「本編内での発見」という項目があったとしても不思議ではないと思った訳です」
もしかするとよりハードルの高い「依頼者、所有者が発見していなければいけない」のかもしれない。
でもねえ、ゴードンさんたちの口ぶりからすると本編内でもかなりのレアもの扱いだったから、そうそう簡単に遭遇することはできないだろう。
それにプレイヤーの専用武器として作ってもらわなくてはいけないのであれば、最終的にはボクのようにNPC産の物とプレイヤーメイドの二つのグロウアームズを持ち歩くことになってしまう。
「以上のことから製作者サイドのプレイヤーが本編内で発見した場合でも、メイションでグロウアームズに変化させられるようになるのではないでしょうか」
後の検証はよろしくお願いしますね。




