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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十六章 おいでませメイション

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375 注文の多い名前決め

 その後はうちの子たちも混ざって色々とあったものの、最終的にスミスさんたちが作った特製ハルバードはボクが買い取るということになったのだった。


「でも、本当にいいのかなあ……。こんな立派な逸品を予備扱いするなんて、もったいないを通り越して無礼だと思えちゃうんですけど」

「道具なんて使われてなんぼの物だ。どんな形であっても使われることなくコレクションの一品として誰かのアイテムボックスや倉庫に仕舞われたままになっているよりは、よっぽどいいさ」


 そう言って朗らかに笑うスミスさんなのだった。武器のカテゴリーに分類される物だけど、使用されることに関する忌避(きひ)感はないらしい。

 そうした心持ちには、リアルとは違ってそれが向けられる先にいるのは魔物という人に害なす存在だ、ということも関係しているのだろうと予想されます。


 お金を払って所有者登録をボクへと変更する。プレイヤー同士だとこういうやり取りが面倒だよね。

 銀貨や銅貨といったお金を出現させる必要がないのは楽ちんだけど。


「それ、大抵のプレイヤーがオフにしている機能よね?」

「ああ。俺も使ったのは初めてだよ」


 プレイヤー間でのアイテムや装備品の売り買いは、基本的に記録されているため未払いや持ち逃げが発生しても、すぐに運営によって御用となってしまうとのこと。

 そのため余計な手間を省くべく、ほとんどのプレイヤーはこの機能を使用していないのだとか。

 元々はそうした監視機能が少なかった『笑顔』初期に、トラブル防止のため使用されていたものであるらしい。


「今回は俺だけでなく複数のプレイヤーが作製に絡んでいるからな。一応の保険ということで、悪いが我慢してくれ」


 それで身の潔白が証明できるのであれば安いものだからね。

 面倒だと感じはしても、ボクとしては文句を言うつもりはありませんですよ。


「よし。これでそいつはもう『テイマーちゃん』のものだ。好きに使ってくれ」

「はい。せっかく凄い物を作ってもらえたので、完全な予備扱いじゃなくて、耐久値が低下し過ぎないよう頻繁に龍爪剣斧と交互に持ち替えていこうと思います」

「催促したようで申し訳ないな。だが、そうしてくれるなら俺たちとしても作った甲斐があったというものだ。よろしく頼む」


 深々と頭を下げるスミスさんを前にして、乱暴な扱いはできないなと改めて思う。

 もっとも、元より粗雑に扱うつもりなんて一欠片もないのだけれどね。そこはまあ、意気込みというか決意表明といったところです。


「ねえねえ、『テイマーちゃん』!この子には名前を付けたりしないの?」


 敵を打ち倒すための武器ですらも、ケイミーさんに掛かればこの子扱いされてしまうのね。

 温度差というか認識の違いっぷりに、ついつい笑ってしまいそうになる。


「そうですねえ……。あ、製作者サイドの方からは、何か要望なんかがあったりしますか?」


 後から振り返ってみれば、軽い気持ちで彼女の言葉に乗ってしまったのが失敗の元だったのだろうと思う。


「龍爪剣斧に対抗して、というか途中からは対になるつもりで作っていたから、できれば似たような名前にしてもらえるとありがたい。後、『牙』の文字は絶対に入れてもらいたいそうだ」


 スミスさんの言葉を聞いて、そこまでこだわりがあったのなら自分たちで名前を付けておけば良かったのに、と思ってしまったボクは悪くないはず。

 ケイミーさんたちも同感だったのか「うわあ……」っていう顔をしてますよ。


 対してうちの子たちは武器に名前を付けるという行為に興奮しているもよう。まあ、専用武器という感じが強まるから気持ちは分からないでもない、かな。

 特にチーミルとリーネイは龍爪剣斧に名付けた時には『ファーム』の中にいた上に、本体のミルファたちも別行動だったことあって、いつにも増してワクワク度合いが高まっているようでして……。


「龍爪剣斧に似た名前となると、漢字で四文字となりますかしら?」

「龍の装飾もありますから、『牙』だけでなく『龍』の文字も入れるべきだと思います」


 とてもではないが、また後でと言えるような雰囲気ではなくなってしまっていたのだった。

 どうせすでにいくつも注文が付けられているのだから、このまま彼女たちの閃きに従ってみるのも案外悪くはないかもしれない。


「それでは、『龍爪』に対して、『龍牙』もしくは『牙龍』というのはいかが?」

「それは良さそうです!マスター、どう思われますか?」

「うん。カッチョイイんじゃないかな。……ああ!そういえば龍爪剣斧の名付けの時に柄の部分を考慮できないか考えたこともあったっけ」


 棒とか杖とかが頭の中で候補として挙がってきたのだけれど、いまいち噛み合わなかったような覚えがある。

 しかし、チーミルたちには違ったようで何やら考え込み始めていた。


「それは、盲点でしたわね……。柄の部分は持ち主がその手で一番触れる場所でもあるのですから、取り上げられても何ら不思議ではなりませんもの」

「チーミルの言う通りですね。それに使い方次第では石突きも立派な攻撃手段となり得ますから、そういう意味でも候補とするには打って付けかも知れません」


 すみません、単なる思いつきなんです。

 そんな小難しいことは一切考えておりませんでしたよ!


「後は……、やはり斧刃ではなく鈍器の打撃武器となっていることにも触れておくべきだと思うのですが」

「一番の特徴とも言える箇所ですもの。絶対に名前に取り入れる必要がありますわ!」


 これにはリーヴも賛成だったようで、一歩下がった場所でしきりに頷いていた。

 え?エッ君?みんなが楽しそうなので、その雰囲気に当てられたのかリーヴの腕の中でワチャワチャしているね。


 あーでもないこーでもない、と候補に挙がってきた文字を入れ替えたり組み合わせたりすること数分。

 うちの子たちが中心となって決定した名前がこちらとなります。


「決まりましたわ!この新しく作られた特別製ハルバードの名は……」

「『牙龍槌杖(がりょうついじょう)』となります!」


 チーミルとリーネイによる発表に、ボクたちはパチパチと拍手で応える。


「うん。強そうだし、いいんじゃないかな」


 続けて「名前の決定お疲れ様」とみんなを誉めようとした瞬間、見覚えのある文字たちが目の前に出現したのだった。


「……あー、そうだよね。ゴードンさんたちと同じ力量がある人たちが作ってくれたんだから、そうなって当たり前だよね……」


 むしろどうしてそのことに思い至らなかったのか……!

 のほほんとしていた少し前の自分を叱りつけてやりたくなる。

 が、時すでに遅し。


 こうしてスミスさんたち鍛冶師プレイヤーたちの力作である特別製ハルバードは、『牙龍槌杖』というプレイヤーメイドとしては記念すべき最初のグロウアームズへと変化したのでした。


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