373 鍛冶師プレイヤーたちが作り上げた物
ケイミーさんたちの用件が終わったところでスミスさんに連絡を入れると、あっという間にやって来てくれた。
「あなたにも迷惑をかけてしまったわね」
「驚かせてごめんね」
「気にするな。まあ、その様子からすると、上手く話ができたようで何よりだったな」
ケイミーさんたちの謝罪に笑って応えるスミスさん。相変わらずの男前ですな。
まあ、それ以上に三人が知り合いで気安い間柄だということもあるのだろう。
「それじゃあ、今度は俺の番だな」
おや?てっきりボクたちを引き合わせることが目的だと思っていたのだけれど、どうやらスミスさんの方からも用があったみたい。
「まずは、これだ」
まずは?含むものがありそうなその物言いに気を取られている内に、目の前にスッと何か長いものが差し出された。
「こ、これは……!?」
「あー、別にそういうリアクションを求めていた訳ではないんだが……」
うん。少々わざとらしさが過ぎたかなとは自分でも思ってしまいました。
で、その物は何かと言いますと、恐らくはハルバードだと思われます。
が、龍爪剣斧に触発されているのは間違いないだろう。早い話が、ゴードンさんたちNPCの鍛冶師たちに対抗してスミスさんたちがさっそく作ってみたということらしい。
柄は短く、反対に槍の穂先というには長すぎる刀身となっていた。他にも斧刃の部分などにも特徴があったのだけど、詳しくはまた後ほど。
「俺と知り合いの有志で作ったものだ」
やっぱり。わずか一週間程度で、ということは今さら気にしても仕方のないことだとしても、こんな特殊な形状にしてしまって良かったのかという不安が頭をよぎる。
「いざとなれば売り先はいくらでもある。『テイマーちゃん』に無理矢理押し売りをするつもりはないから、そこは安心してくれ」
ボクの表情から心情を察したのだろう。逆に苦笑まじりのスミスさんの顔からはその内心をはっきり読み取ることはできなかった。
「そう易々と押し売られるつもりはないですけど、本当に売れるんですか?自分で言うのもなんですけど、龍爪剣斧は相当こだわってボク専用にカスタマイズされたものですよ?」
「こちらとしてもそれに負けないくらいのつもりで作ったものだから、当然『テイマーちゃん』以外の人間が武器として扱うには、慣れとか適性が必要になってくるだろうな。だが、それも「武器として使うなら」という前提があってのことだ」
???
……武器として使う以外に利用法があるの?
いくらなんでも、これを鎧や盾代わりにするのは無理があると思いますが?
「あのね、『テイマーちゃん』は自分が有名プレイヤーだってこと分ってるかな?」
彼の言いたいことが理解できずに混乱していると、ケイミーさんが横からそっと会話に割って入ってきてくれたのだった。
「あまり分かりたくはないですけど、現状そうなってしまっていることは残念ながら一応理解しています」
「あはは……。本気で不本意ながら、なんだね。まあ、そこは一旦置いておくとして。有名プレイヤーが使っているものと似通っているなら、たとえ自分では使えなくてもコレクションとして持っておきたいと考える人は結構いると思うよ。実際、私のところにも人形を作って欲しいっていう依頼がきているくらいだから。ホント、どこから聞きつけてきたのやら……」
ケイミーさん、後半が愚痴みたいになっちゃってますよ!?
ちなみに、購入して以来今日まで彼女に会えていなかったこともあって、宣伝していいものか不明だったため、ボクの方からはチーミルたちの製作者について語ったことはないです。
「リアルでもそうだけど、有名人が使っている物と同型のものやレプリカが売れ筋商品になることってよくあるでしょう。それと同じようなものだと思えばいいよ」
「それと、スミス本人はまだ『OAW』ではそれほど名前が知られていないけれど、共同制作者の中には鍛冶系のトッププレイヤーも含まれているから、そういう意味でもコレクションしておきたいという人はいると思うわ。ゲーム内ならアイテムボックスに入れておけば持ち運びの邪魔にもならないというのもポイントと言えるのかもね」
シュクトウさんいわく、その人たちが関わっているなら絶対に売れ残ってしまうような事はないとのことだった。
リアルとは違ってゲームの世界でなら保管場所や保管方法といった面倒なことを一切無視することもできる上、VRなのでその質感などは極めてリアルに近い。
そんなことから、こちらでコレクター魂を燃え上がらせてしまう人はかなり多いのだそうだ。
「まあ、一番は『テイマーちゃん』に気に入ってもらって使ってもらえることなんだがな」
と、微妙にプレッシャーになるような台詞を口にしながら、改めて特殊ハルバードを差し出してくるスミスさんなのでした。
狙ってやっているなら性質が悪いけれど、彼の場合は天然で本心からそう思っているので……、やっぱり性質が悪かったりするのよね、カッコ苦笑カッコトジ。
とはいえ、ボクとしてもプレイヤーたちの力作がどれほどの物なのか興味があるのは確かでして。
「うわ……!すっごく持ちやすい!?」
ゴードンさんたちから初めて龍爪剣斧を渡された時にも感じたことだけど、まるで吸い付くように手に馴染むのが分かった。
うちの子たちも含めて皆から一歩離れて、片手で持ったり持ち替えてみたり、くいくいと手首だけで動かしてみたりと具合を確かめていく。
「どうだ?」
「正直言って驚きました。スミスさんがいて取り仕切ってくれていたとしても、まさか会ったこともない人が手掛けた物がこんなにしっくりくるなんて……」
この時の気持ちを一言で表すとすれば、「トッププレイヤー凄い!」ということになるだろうか。
それほどに衝撃的なものだった。
「それにしても、この意匠はまた随分と思いきりましたね」
「そこは龍爪剣斧という名前からインスピレーションを得たと担当したやつが言っていたよ」
スミスさんのその言葉の通りというべきか、それには刀身の根元の辺りから柄の一部にかけて、龍が巻き付いているような装飾が施されていたのだ。
「しかもその尻尾が本来なら斧刃のある部分にきているとか、どんだけぶっ飛んだアレンジなのやら……」
「逆に、反対側の突起は真っ直ぐで鋭く尖っているのね」
「担当者によると牙をイメージしたそうだ」
うん。とりあえずスミスさんとその仲間たちが思いっきりはっちゃけていたらしいことだけはよく分かったよ。




