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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十六章 おいでませメイション

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372 時には発散させることも大事なのです

 奥から現れた女の人だけれど、ボクの予想通り『雑貨屋ミセレニアス』の持ち主だった。


「名前はシュクトウ。常連のお嬢様方からは『シュク(ねえ)』なんて呼ばれているわ。見て分かったかもしれないけれど、種族は狐のセリアンスロープよ」


 ふわふわの尻尾を揺らしながら、頭上の三角になったこれまた大きな耳を指さすシュクトウさん。うん。困った顔のチーミルが抱きかかえられたままということと、隣でえぐえぐ泣き続けているケイミーさんがいなければ、ごく普通の自己紹介だったのだけれどね……。


 こちらも改めて『テイマーちゃん』――自分で言うのはやっぱり恥ずかしいなあ――であることを明かし、うちの子たちも順番に紹介しておく。

 とはいえ、ケイミーさんもだけれどシュクトウさんもあの合同イベントには参加していたため見知っていたようだ。


「チーミルさんとリーネイさんが出て来た時には本気で驚いたわ。それと、『テイマーちゃん』が使っていたハルバードが知り合いの作った物だったということもね」


 そうだろうとは考えていたが、スミスさんとシュクトウさん、それにケイミーさんは同じメイションでお店を開いている者同士として知り合いであったようだ。

 他のプレイヤーと交流できる場所で店を開いている以上、有名プレイヤーと知らず知らずの内に知り合っている的な可能性は考えてはいたものの、これほど早くそれが現実になるとは思っていなかったのだとか。


「ほら、うちで扱っているのは基本的に趣味のアイテムだから。武器なんかの装備品や薬系の消耗品と比べると、お客には偏りがあるのよ」


 そして得てして有名プレイヤーというのは他人に先んじて物語を進めていたり、強力な技能や闘技、個別魔法を習得したりということが多く、一部のロマン武器愛好家――それだって武器という括りにある事は変わりない――を除くと趣味関係の品を扱っている店には寄り付かないことが多いらしい。


雑貨屋(うち)ですらそれこそ種類を取りそろえて弾数を増やすことで、何とか客の数を確保しているところがあったのに、ケイミーなんて職人の手作りの一点ものでしょう。なおさら有名プレイヤーとなんて縁がないと思っていたのよね」


 店先の場所を貸していたこともあって、あの時のことはしっかり聞かされていたものの、まさかその購入相手が『テイマーちゃん』だとは夢にも思っていなかったそうだ。


「ボク自身、ここまで有名人扱いされることになるとは思っていませんでしたから、それは仕方がないことだったとは思いますよ」


 多分『コアラちゃん』ことユーカリちゃんとの関係がなければ、今の半分も騒がれてはいなかったのではないかと思う。


「……二人とも、すぐ側で泣いている人がいるというのに、よく平然と世間話ができますわね」


 そんなボクたちの会話にふいに割って入ってきたのはチーミルだった。

 ちなみにシュクトウさんに抱っこされたままだったりします。


「別に平然としている訳でもないし、ケイミーさんのことを心配に思ってもいるよ。ただね、時には心を解放させるように思いっきり感情を表に出すことも大事なの。そういう時周りにいる人は邪魔をせずに、そして何も見たり聞いたりしていないように振る舞うのがマナーなんだよ」


 最近ではリアルだとそんな機会を持てないことも多いからね。都会は元よりボクの家のある田舎でだって、いきなり大声を上げれば何事かと近所の人たちから苦情がきてしまうだろう。

 ものの本によると、VRにはそういったリアルでの不平不満や色々と溜め込んでしまったものを吐き出す場としての効果も期待されているのだそうだ。


 今から思い返してみると、ゲーム内でボクが短絡的で力押しな選択を取りがちになっていたのも、リアルでのストレスが影響していたのではないかと考えられる。

 ということなので、ケイミーさんは今の内にどうか思う存分泣いちゃってデトックスをしてもらっておきたいところだね。


 そしてあれこれあっておおよそ三十分後、ようやく泣き止んだケイミーさんは、腫れぼったい目になりながらもどこかスッキリした顔で微笑んでくれたのだった。


「ごめんね、突然泣き出しちゃって。……驚いたよね?」

「えーと、まあ……、はい」


 どう答えて良いものかと一瞬迷ったが、結局素直に先ほどの心境を示すことにする。

 年上の、恐らくは成人しているだろう女性に目の前で泣かれるという出来事は、リアルとゲームの両方を合わせても初めてのことだったと思う。

 まあ、仮に経験があったとしても同じような状況になった時、咄嗟に上手い対応ができるかどうかは微妙なところだろうが。


「はあ……。無理言って同席させてもらったのに、スミスさんにも迷惑をかけちゃったなあ」

「それはまた後で彼に謝るしかないわね。それよりも、『テイマーちゃん』に言うべきことがあるんでしょう」


 シュクトウさんに促されて、そうだったとボクに向き直るケイミーさん。

 その表情はこれまで以上に真剣だった。


 ドキドキ。

 一体何を言われてしまうのでしょうか?


「ずっと逃げ回っていてごめんなさい!」

「え?……逃げ回る?」


 どういうこと?またもやハテナマーク()を浮かべることになったボクに、シュクトウさんが苦笑まじりに詳しい事情を説明してくれる。

 それによると、初めての直接のお客だったこともあって、ケイミーさんはすっかりボクに入れ込むことになっていたのだそうだ。

 その様子がどうにも危なっかしく見えたため、冷却期間を設けてはどうかと提案し、彼女の方もそれに同意したのだとか。


「だから『テイマーちゃん』がケイミーに会うことができなかったのは、私の指示のせいでもあったのよ。不愉快な思いをさせてごめんなさい」


 そう言って今度は二人して頭を下げてきたのだった。


 一方のボクだけど、説明されてみてとても納得できていた。いやだって、我ながら口が上手いなと思ってしまったもの。

 確かに本心ではあったし、今でも間違いなく同じ思いではあるけれど、もう少し別の言い方があったのではないか、と考えてしまいましたよ。


 それに、そもそもの話、ケイミーさんと会えなかったことを残念には思っても不快に思ったことはない。


「だから全くもって問題ないですよ。でも、せっかくこうやって改めて知り合いになれたんですから、今度こそフレンドになってもらいたいところではありますけど。あ、もちろんシュクトウさんもお願いしますね」

「納得したわ。この調子でぐいぐい来られたら、絆されもするわよね……」

「でしょう。というか『テイマーちゃん』、お願いだからもう少し手加減して……」


 ぐったりと疲れ果てたように肩を落としてしまう二人。

 なぜに!?


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