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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十六章 おいでませメイション

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371 ふわふわ尻尾

 ミスター罪悪感と後悔君という強力タッグによって身動きが取れなくなってしまっている人にはどうすれば良いのか?

 はっきり言って、状況によりけりなケースバイケースなので、これで絶対大丈夫という完全無欠な対処法などは存在していない。


 正攻法としては、まずは重しとなっているものを軽くしたり取り除いたりして、それから一歩踏み出させるということになるだろうか。


 まあ、後始末や先のことを一切気にしないのであれば、取れる手は色々あったりするのだけれどね。

 要は縛り付けられているその場から離れさせればいいのだ。手を引いたり肩を貸したりして前進させる以外にも、突き飛ばして無理矢理移動させるなんていう手段も、なくはないという訳です。


 しかしながら、当然重しとなっている後悔君はそのまま居残っているし、ミスター罪悪感も立ち去ったりはしていない。

 よって、余計にこじれたり問題が大きくなったりと、悪化してしまう可能性はかなり高いのです。

 ちょっとしたすれ違い程度だったものが、修復不可能なほど大きな溝に発展することだってある。里っちゃんいわく、「簡単そうな解決方法には、それなりのリスクが付いて回るんだよ」なのだそうだ。


 こちらから動いてみようかと決めたのはいいけれど、できればケイミーさんとはこれからも仲良くしていきたいと考えているボクにとって、これは手詰まり感が半端ないですなあ……。

 まあ、泣き言を言ったところで状況が改善する訳でもないので、とにかく頑張ってみるとしましょうか。


「ケイミーさん」

「ひゃ、ひゃい!?」


 お、おおう!?

 これは思っていた以上に緊張して頭真っ白状態になってしまっているようだ。話し掛けてみれば何とかなるかと思っていたが、これは早々に作戦の変更が必要なようです。


「チーミル、リーネイ。ちょっとこっちに来て」


 こちらの様子を気にしながらも好奇心には勝てなかったのか、近くの棚に置かれていた商品を見て回っていたうちの子たちへ、ちょいちょいと手招きをして二人を呼び寄せる。

 リーヴは引き続きエッ君のお守りをお願いね。ゲームだから請われる心配はないかもしれないけれど、やたらべたべたと触り回るというのはよろしくない気がするので。


「なんですの?」

「どうかしましたか?」


 てこてこと歩いてきた二人を見比べて……。


「こういうのはチーミルの方が得意かな」

「は……?ふやあああ!?」


 ひょいと持ち上げて、ポイッとケイミーさんへと放り投げた。


「うええええ!?」


 驚きの悲鳴を上げながらもしっかりと抱きすくめる猫獣人さんです。しかもチーミルに衝撃がないようにと、一歩下がるという無意識の気遣いすらしてみせていた。

 突然の出来事に彼女の耳と尻尾もピーンと立っていますな。

 瞳の明滅は相変わらずだけど、これもまた驚きのためだと思われます。その証拠に、先ほどまでの弱々しいものとは随分異なっていた。


「マスター!いきなり何をしやがりますの!!」


 チーミル、お嬢様口調が崩れておかしなことになっているよ。

 それにケイミーさんの胸に抱かれたままなので、ちびっ子がきゃいきゃい騒いでいるようで何とも微笑ましい光景にしか見えなかったり。


「ケイミーさんのお陰で、こんなかわいい子たちが産まれました!」

「え?いや、それは何か違うような気が……?」


 リーネイを抱き上げながらそう言ったボクに、目を白黒ならぬピカピカさせながら返事をするケイミーさん。

 よし!応答してくれたなら、後はもうこっちのものだ。


「申し訳ないですが、あなたが何を悔やんでいるのかボクには分かりません。ただ、ボクはあなたに会えてよかったと思っています。この子たちのことを除いてもそれは変わりませんから」


 間髪入れずにズバッとストレートにこちらの気持ちを伝える。

 前回、それこそお礼を言う間もなく逃げられてしまったので、今回はこちらから先に仕掛けさせてもらったのだ。

 ただし、畳みかけるような高速展開は相手に圧力を感じさせることもあるので、使用する時には十分注意してくださいね。


 さて、肝心のケイミーさんの反応はいかに?


「う……、ふえええええええん!!」


 ジワリと目に涙が溜まったかと思えば、ぽろぽろどころかダーッと流れるように泣き始めたではありませんか!?

 年上の女性のマジ泣きに、今度はボクの方が頭真っ白になってしまった。

 いや、まさかこの流れは予想していなかった。


 ちなみに、スミスさんはケイミーさんが泣き始めた瞬間に「《落ち着いたらメールをくれ》」と残してログアウトしていました。

 一見すると手に負えない状況から逃げ出したようにも思えるけれど、乙女の涙を見ないようにするという紳士な配慮だったとボクは信じていますからね。


「単に感極まって泣いているだけだから安心して。別に悲しいとか辛いということではないから」


 どうすればいいのか分からずオロオロしていたところに、奥から現れた女の人がそう言って微笑んでくる。

 そしてその言葉に間違いがないとでもいうように、泣きながらも縦に首を振っているケイミーさんです。


「とりあえず落ち着くまで放置で問題ないわよ。ほら、チーミルさんだっけ?こっちに渡して。そのまま抱きかかえていると、あなたの涙でぐしょぐしょにしてしまうわよ」


 どうやら二人はかなり気安い仲のご様子だ。

 余談だけど彼女の言葉通りであったのか、女性に預けられたチーミルはホッとした顔をしていた。


「さすがにこの状況を人様に見せる訳にはいかないわね」


 と、女性はお店をクローズへと変更させる。その手慣れた調子に、この人が店の主なのだと直感的に悟った。

 もっとも、入口の扉に掛かっていた札を裏返しただけのことだけどね。

 後から聞いた話だが、システム的に閉じられてしまうとお店の持ち主以外は強制的に外へと転移させられてしまうのだそうだ。


「驚かせてごめんなさいね。詳しい話は――」

「大丈夫です。ケイミーさんが落ち着いてからで構いませんから」


 ここまできたのだから、どうせなら最後までケイミーさん本人の口から聞きたいところだった。


「そう?それじゃあ、私からの謝罪もその時に改めてさせてもらうわね」


 (ハテナマーク)を頭上に浮かべるボクに対し、その人はふわっふわで大きな尻尾をゆらゆらと動かしながら優美に微笑んだのだった。


 追伸。彼女に抱かれたままのチーミルが、居心地悪そうな表情になっていました。


 さらに追伸。エッ君、ふわふわで気持ちよさそうだからって、自己紹介もできていない人の尻尾に飛び付こうとするのは止めて!?


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