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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十六章 おいでませメイション

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363 お勉強合宿

 そんな具合で「長期休暇明けのテスト滅ぶべし!」と多くの生徒が邪悪な念に送ることになっていた中学生時代とは異なり、里っちゃんもボクもお互い進学した先の高校では基本的に夏休み明けのテストは行われていない。

 まあ、ボクや雪っちゃんが所属している特進クラスは例外ということで。


 そのため今年からは無理にこのお勉強合宿を開催する必要はなくなっていた訳ですが……。


 実はその里っちゃんがこのイベントをとっても楽しみにしていたのだよね。

 それこそ夏休みに入る前から「合宿中のご飯は何を作ろうか?」とか「どういうカリキュラムにすれば進めやすいかな?」というメールが頻繁に送られてくるほどだった。


 さて、皆さん。普段はしっかり者の超絶美少女が浮かれてしまうほど楽しみにしている予定をキャンセルすることができますか?

 うん。ボクには無理。


 という訳で里っちゃんの家へお泊りしに行くうちの両親を見送ってから、合宿中のメインルームとなるリビングやダイニング、それにキッチンを急いでお掃除です。

 まあ、今日は初日ということで、それほど長時間勉強に打ち込むことにはならない予定だけどね。


 それというのも、今年はお盆の直後に週末がくるという流れになっている関係上、両親たちのお盆休みも長くなっており、結果ボクたちのお勉強合宿も二日ほど伸びることになっていたからだ。

 なので、一日目は半ば助走期間ということにして、買い出しなども行う予定となっているのであります。


 一通り掃除が終わったのを見計らったように、ピンポーン♪といかにも電子音な呼び鈴が鳴り響き来客がある事を伝えてくる。


 ここで里っちゃんだと断定して「どうぞ、上がってー!」と返事をしてしまうと、宅配便のお兄さんだったというオチが待っている――実話――ので、しっかりとインターホンで確認しますです。


 幸い今回はそのようなこともなく、暑い中で待たせるのは失礼アンド可哀想なので、ずずいっと家の中へと招き入れる。

 ところが、そこには予想外の人物が。


「いらっしゃ、おおう!?雪ちゃんも一緒だったんだ!?」


 それこそ去年に引き続き参加を打診したのはボクだから来ることは分かっていた。

 しかし、インターホン越しに見えたのは一人だったので、てっきり里っちゃんだけだと思っていたのだ。

 当の本人は悪戯成功とばかりにニヤリと笑みを浮かべたまま、「やほ」と軽い感じで挨拶を返してくれております。


 ちなみに、里っちゃんはお泊り――着替え等の荷物は既におじさんたちによって搬入済みです――だが、雪っちゃんは部活動や実家への顔出しのため、日中の時間の空いている時だけの不定期参加ということになる。


 それにしても距離こそそれほど違わないとはいえ、二人の家は方角がまるで違う。それなのに、わざわざどこかで待ち合わせて来たのだろうか?


「ちょうど優ちゃんの家に到着する直前くらいに一緒になったの」


 と、ボクの疑問を見透かしたかのように答えてくれる里っちゃん。

 なんともはや、タイミングがよろしいことで。


 直射日光が当たる外よりはマシだとはいえ、しょせんは空調の入っていない玄関だ。窓を開けている訳でもないから止まった空気が熱せられてかなり暑い。

 さっさと冷房が効いたリビングへと退散しましょう。

 冷やされた空気を心地良さげにしている二人に冷えたお茶と用意しておいたタオルを差し出す。


「ありがとう」

「ここだけ見るとできた嫁の行動よね」


 言うまでもないと思うけれど、前者が里っちゃんで後者が雪っちゃんの台詞だ。


「ここだけ見るととは何ですか、失礼な。私はやればできる子だよ」

「いや、その言い方ってあまり良い意味合いじゃないから。というか嫁は無視か」


 中学時代からの鉄板ネタだからね。一々相手にしていてはきりがないってもんです。


 ついでに言うと、嫁性能が高いのはボクよりも里っちゃんの方だから。

 小さい頃から彼女のご両親に向かって「里っちゃんをお嫁に下さい!」と何度本気で口走りそうになり、鋼の精神力で耐えてきたことか。


 何だったら今度語ろうか?

 ……え、結構?

 あら、残念。


 などと脳内寸劇を繰り広げている間に、汗を拭き取り終えた二人はお茶の入ったコップへと手を伸ばしていた。


 ゴッゴッゴ!という音が聞こえそうな勢いで一気に飲み干したのは、麗しの美少女従姉妹にして嫁にしたい女の子ナンバーワン――ボクの脳内調べ――の里っちゃんだ。

 うみゅ。相変わらず男前(おっとこまえ)な飲みっぷりであることで。


 対する雪っちゃんは一旦口に含んでは飲み下すということを繰り返している。なんでも所属している部の方針というか指導で、一気飲みをしないようにしているのだとか。

 以前科学的な根拠だとか色々と説明してくれたことがあったのだけど、ごめんね、実はそれほど興味がなかったのでよく覚えていないのです。


 二人が落ち着いたところでさっそく勉強開始。最初ということでウォーミングアップがてらに得意科目からのスタートです。

 これにはちゃんと理由があって、


「最初から難しい問題や苦手強化に挑むというのもアリだとは思うよ。でも、まずはやる気を引き出すことの方が大切かな。それには自分自身に「できる!」と思い込ませることが一番簡単で手っ取り早いのよ」


 そう初回のお勉強合宿で里っちゃんに言われて試してみたところ…。

 あら不思議!みるみるやる気が湧いてきたではありませんか!?

 と、まあ、そういう実績があったので今でも習慣的に続いているという訳だ。


 そんなこんなでそれぞれの課題に取り組んでいると、あっという間にお昼になっていた。


「んー……!集中していると時間が過ぎるのが早いね」


 防災等広報用のスピーカーから流れてくる十二時を知らせる音楽を聴きながらぐぐっと背筋を伸ばす。


「はあ。私も二人の雰囲気に当てられていつも以上のハイペースで進んだわ」

「ふふふ。二人ともお疲れ様」


 心地良いとはいえ多少の疲労感を感じているボクたちに対して、里っちゃんは平常通りの様子でニコニコと微笑んでいた。

 うん。基本スペックが違うのがこれだけでも良く分かってしまうわ。


「二人ともお昼ご飯は素麺でいいかな?」

「夜がガッツリめになる予定だから、昼は軽くでいいんじゃない」

「異議なし」


 二人から了承を得られたことで、ボクはキッチンへと昼食を作りに向かったのだった。


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