362 情報を求めて
武器の作成対決が始まったからと言って、特別ボクが何かをする訳でもなければ、ボクに何かできることがある訳でもない。
精々ができ上がってきた品を触ってみて使い心地をレポートするくらいだろうから、話し合いさえ行われていない現状では、必然的に用なしということになるのだ。
なのでそちらの方はスミスさんにお任せすることにしまして。
ええ、スミスさん本人も「知り合いのプレイヤーたちに片っ端から声をかけていくから、出来上がりを楽しみにしていてくれ」と、とってもいい笑顔で宣言してくれましたですよ。
その際に必要になるということで龍爪剣斧を〔鑑定〕した解説文をスクリーンショットで撮影、保存していた。
ただ、ボクの名前が出回らないように、『リュカリュカのための専用武器』というところを『テイマーちゃんのための専用武器』とわざわざ変更――運営の許可は貰っていたそうだ。い、一体いつの間に……!?――していたくらいなので、興奮はしていても分別はしっかりと残っていたみたい。
よって、とりあえずは一安心ということに、なるといいなあ……。
そんな若干の不安感を抱えながらも、こちらへとやってきたもう一つの理由、本編内の他国の情勢についてプレイヤーたちから情報収集を行うため、うちの子たちと一緒にメイション観光としゃれこむことにしたのだった。
ただし、そこはプレイヤー一人ひとりに対してそれぞれのワールドが存在する『OAW』だ。
はっきり言ってボクの世界に当てはめることができるかどうかは微妙なところと言える。
そこで考え付いたのが、プレイ開始時点での状況を探るということだった。
これなら現状がどんな展開となっていてもさほど問題ないからね。最終的にミルファやネイトが調べてきたことと統合してやれば、それなりの精度の情報となるだろう。
ところがどっこいとでも言いましょうか、ここで思わぬことが判明することになる。
なんとプレイヤーの内それなりの割合の人たちが、独自の世界状況でゲームを開始していたのだ。
異世界転生や異世界召喚といった設定は序の口で、中には「人々に忌み嫌われる世界を滅亡寸前にまで追いやった魔王の子孫」だとか、「邪神にその器として捧げられるために作られた存在」などなど、思わず「なにそのハードモードな人生!?」と突っ込んでしまいたくなるような独自設定もあるそうな。
手始めに付いて来ていた野次馬さんたちに食事の美味しいおすすめのお店を尋ね、もといそれぞれの初期エリアのゲーム開始当初の状況を聞いてみたところ、半数近くの人が特殊な独自設定をしていたのだった。
こういう独自設定の場合、例えば大陸の大半が荒廃してしまっているだとか、国としてまともに機能していないなど、基本の世界状況から大きく変化させていることも多いので、サンプルとしては全く活用できないのだ。
むしろそんな破滅的で世紀末なアウトローのモヒカンひゃっはー状態にさせないために、色々と頑張ろうとしている訳ですからね。
「この結果は考えていなかったなあ……」
翌日の夜、とあるお店の壁際の席でそれまでに集めた集計結果を前にボクは小さくため息を吐いていた。
憂い顔の美少女のため息姿なんて、紳士な人たちが押し寄せてきそうな状況だけどそんな気配は一切なく。
むしろ『テイマーちゃん』がここにいることにすら気が付かれていない可能性が大だ。
それほど酒場兼食堂である『休肝日』の店内は多くのお客さんたちで混み合っていた。
というか、ボクだけでなくうちの子たちも全員一緒にいるのに誰からも気が付かれないというのは、何かしらの仕掛けがあるのではないかと勘繰ってしまいそうになるね。
少し歩けば遠巻きに人だかりができ、ちょっと話し掛ければあっという間に群衆が押し寄せてきていた昨日とは大違いだわ。
お陰で静かに食事ができるのでとってもありがたいです。
「ああああ!エッ君!そんなにお肉ばかり食べないでくださいまし!わたくしたちが食べる分がなくなってしまいますわよ!?」
「はいはい。二人とも落ち着いてください。あ!リーヴ、そちらの方にあるお皿の料理を取り分けてもらえますか?」
……まあ、リアル由来の珍しい食べ物の山を前にしているためか、静かな食卓とは無縁の状況になってはしまっているけれど。
「追加で料理を頼んでおく方が無難かな?」
先ほどまで以上に頬が引きつっているのを自覚する。
今はそれぞれの料理の確保で済んでいるけれど、お互いの取り皿の中身を狙い始めることになるのは時間の問題かも?
見ず知らずの人ばかりだったからか、たくさんの美味しいお店の情報が聞けたのは、昨日の唯一の成果と言ってもいいかもしれない。
もっとも、一番のオススメとして挙げられていたこの『休肝日』には、以前にも立ち寄ったことがあったのだけど。
その事は一旦置いておくとしまして。
実はスミスさん以外のフレンド登録をしていた人は元より、これまでに顔見知りになっていた人たちとも昨日はさっぱり遭遇できていなかったのだ。
これにはリアルでお盆が近いことが関係していたのかもしれないね。ニュースでは早いところなら既にお盆休みに入っているなんて話もされていたから、帰省などでゲームをやっている暇もないという可能性もあり得そう。
できることならチーミルたちが動いている姿を、製作者であるケイミーさんに見せてあげたかったのだけれど。
まあ、いずれ機会があると思うしかないかな。
と他人事のように言っているけれど、実はボクもお盆期間中は『OAW』をしている余裕がないかもしれないのだよね……。
それというのも中学の頃からの恒例となっている里っちゃんとのお勉強合宿が開催されるからだ。
元々お盆には家族ぐるみでうちの家と里っちゃんの家とに交互で泊まり合っていたのだけれど、中学生で思春期になったことを理由にして、それぞれの家族とは離れてもう片方の家でお勉強合宿を行うようになったのだった。
普通は勉強を名目にして遊び回ると思うよね。
残念ながらというべきか、ボクたちはガチだった。もちろん適度に息抜きは入れていくが、長時間サボるような事はできない。
なにせ中学時代には夏休み明けすぐに、これまでの授業の理解度を調べるという名目でテストが行われていたからだ。
つまりは、このテストの点数で真面目に復習をしていたかどうかが一発でバレてしまうという訳。
やっぱりテストは学生の天敵だと思う。




