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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十六章 おいでませメイション

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359 撃ち抜けハート、貫け想い?

 当たり前と言うかなんと言うか、これだけ騒げば他人の目や耳を集めてしまう訳でして。


「お、おい。あの子やっぱり『テイマーちゃん』じゃないのか!?」

「ああ。あのとんでもないテイムモンスターのラインアップからして間違いないぜ!」


 元々ボクは到着した時点から意識されていたし、エッ君を始めうちの子たちは全員合同イベントの活躍で顔も名前も売れてしまっている。

 ある意味、気が付かれない方がおかしいと言っても過言ではない状況だったのだ。


 しかも分かりやすい解説のような台詞を叫んだ人たちが居たものだから、一瞬で広場内にいたプレイヤー全員にその情報が拡散されてしまった。

 この調子でいくと、数分後にはメイション内にいる全てのプレイヤーにボクたちがいることを知られてしまいそうだ。


 それについては覚悟の上のことではあったが、押し寄せてきて身動きが取れなくなるのは困る。ここはさっさと移動してしまおう。


 チロリとみんなを見渡すと、全員静かに頷いて文句もなく従ってくれるようだ。

 まあ、チーミルとリーネイに限っては、まだ多少の不満は残っているようだったけれど。それもこの移動中に上手く吹き飛んでくれないかなと密かに願ってみたりして。


 てくてくと歩き始めると集まっていた人々がざわつき始める。さすがにそれは少し大袈裟すぎやしないだろうかと苦笑しそうになってしまうね。

 まあ、ボクたちの邪魔をしないのであれば問題ないかな。


「あ、あの……」


 そんなことを考えたのがフラグとなってしまったのか、近くにいた数名が声をかけようと動いてきてしまった。


「ごめんなさい。用があるので急いでいますから」


 苛立つ気持ちは完全に心の中に押し込めておき、ニコリと笑顔を浮かべながらもしっかりと拒否をする。


「あ、ああ。悪かった……」


 いやあ、美人の笑顔って破壊力がとんでもないよね。

 動いた数名の中には男性だけでなく女性も混じっていたのだけれど、一発で魅了されて身動きが取れなくなってしまったようだった。


 いつものことながらスーパー従姉妹の里っちゃんの真似をしてみた訳だが、これほど見事に決まるとは驚きだ。本当に自分がやったことだとは思えないほどですよ。

 まあ、リアルに戻った時に変に自信過剰とならなくて済むなら良しとしておこうか。


 余談だけど、ここで相手に申し訳ないからと甘い顔をするのは御法度ごはっとです。

 なぜなら里っちゃんいわく「一度でも許してしまうと、様子を伺っている周囲の人たちも「これなら良いのか」と同調してきてしまうから」だそうだ。

 不特定多数を相手に愛想を振りまこうとするなら、それなりの覚悟と体力と時間が必要となるようです。


 という訳で、そんなものに持ち合わせがないボクは撤退、逃亡、退却の一択でございます。

 手を振るとか頭を下げるといった余計の動作は一切行わずにスタスタ歩いて『噴水広場』から抜け出す。


 あ……、逃げることで頭が一杯で、行く先を確認するのを忘れていた。とはいえ、今さら足を止めることはできそうにもない。

 ……仕方がない。多少大回りになってしまうことは諦めよう。


 フレンドリストを開いて、数少ないその内の一つへと送るメールのための文言を考える。

 こうやって頭を使いながら歩いていても、誰かにぶつからないように自動で制御してくれるからVRは楽ちんだよね。


「《こんばんは。お久しぶりです。実は相談したいことがありまして、これから伺わせてもらっても構いませんか?》」


 ちょっぴり固い文面になってしまうが、会話をした回数などを考えると妥当なところなのかもしれない。

 そう思い直してそのまま送信、めるめるゴーです。


 そうして歩きながら待つことしばし、という間もなく返事がきてびっくり。

 早っ!?まだ十歩くらいしか歩いていないよ!?

 驚愕に打ち震えながら届いたメールを開いてみたところ、


「《了解。場所は前回と同じ》」


 と簡潔に書かれていたのだった。

 この短さならば納得……、いや、それでもやっぱり早いと思うの。


 まあ、でも、素早く居場所が判明したので大回りをする必要がなくなったのは正直ありがたい。

 うちの子たちを全員連れているためか、周りの人たちの目がとんでもないことになっていたのだ。


 せっかくの機会だからということで、メイションへとチーミルたちを連れて行く約束を果たすことを優先したのは失敗だったかな?

 せめて用件を終えてから呼んだ方が良かったかもしれない。もっとも、今の時点ではもうどうしようもないのだけれど。

 それでも反省くらいはしておかないとね。何も感じずに何も考えなければ、また同じ失敗を繰り返してしまうかもしれないもの。


 後、野次馬な人たちが一緒にやって来るかもしれないことについて、断りを入れておかないと。


「《度々すいません。目立ってしまったようで、野次馬さんたちを引き連れて行く事になるかもしれません》」

「《噂は聞こえてきている。客が増えるかもしれないんだから気にするな》」


 おおう。なんという男前なお言葉。

 今回に限ってはありがたくその提案に乗らせてもらうことにしよう。


 メイションの三本の大通りの間はプレイヤーが増えるに従って横道と縦道が追加されていき、徐々に入り組んだ様相となりつつあった。

 あくまでも碁盤目状になっているため、迷子になって身動きが取れないということにはならないはずだけどね。地図機能もあるし。

 そんな中央の『屋台通り』から東の『食道楽』へと繋がる横道の一つに、その人は露店を構えていた。


「こんばんわー」

「おう、久しぶりだな。リュ、いや『テイマーちゃん』の活躍は聞いているぞ」


 キャラネームを呼びかけたところで急いで通称(ニックネーム)の方へと切り替えてくれる彼。


「ご配慮(はいりょ)ありがとうございます」

「なに、俺もあのイベントには参加していたからな。あの大騒ぎっぷりを直に感じた身としては、例えゲーム内のキャラの名前であっても、やたらと口にするべきではないことくらいは理解できるさ」


 と、先ほどに続いて男前な言葉第二弾を投下してくる。

 極端に目を引くほどではなく、無骨さを前面に出したほどほどの容姿という点も、この台詞に拍車をかけていた。

 遠巻きに見ていた野次馬の中でもお姉さま方数人が撃ち抜かれてしまったらしく、「きゃうっ!」と可愛らしくも色っぽい悲鳴を上げていたのだった。


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