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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十六章 おいでませメイション

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358 うちの子たちのメイション訪問

 衛兵のお兄さんとお喋りをしながら大通りへと戻ったボクたちは、結局そのまま『猟犬のあくび亭』へと帰ることにした。

 夜の『異次元都市メイション』訪問に備えて、一旦ログアウトするためだ。


 ちなみに彼からは、大陸統一国家時代を舞台にしたと言われているお伽噺を聞くことができたので、大通りまでのお散歩は大変有意義な時間となったのだった。

 それというのも、そのお伽噺の中には例の浮遊島とか転移装置に関係しているのでは?と思えるようなものも混ざっていたからだ。


 転移装置破壊のために周囲の三国へと向かうことを決めたのはいいけれど、その先の有力な情報などは一切なかったからね。

 冒険者という身分でなら国境を越えて国を行き来すること自体には問題はない。それでも最悪はそれぞれの国をくまなく探し回るという、不毛な行いに出なくてはいけなかったかもしれないのだ。

 もしかしてという段階であっても、当てができただけ一歩前進だと言える。


 そんなこんなを考えている間に『猟犬のあくび亭』へと到着です。

 ちょうど調理場ではギルウッドさんが夜の仕込みを始めたところだったので、〔生活魔法〕の熟練度アップも兼ねて手伝いを申し出る。


 まずは【浄化】で野菜の泥を落として【湧水】で水をためた桶でじゃぶじゃぶと洗う。さらには【種火】でかまどの薪に火をつけて、と八面六臂の働きを見せるですよ!


「リーヴは野菜の洗い方が上手いさね。とてもじゃないけどリビングアーマーだとは思えない手際の良さだね」

「エッ君もどんなに小さくてもやっぱりドラゴンということなのだろうな。火の扱いが抜群だ」


 えー、コホン。いいのです!

 うちの子たちの活躍はボクの活躍も同じなのです。それに〔生活魔法〕を使ったのは間違いなくボクなのだから問題ナッシング!


 一通り仕込みのお手伝いをしてから、いつもの客室へと向かう。部屋へ入った途端に馴染んだ空気に包まれた。

 思わずホッとため息が出てきて思わず苦笑してしまう。なんだかすっかり自室と化してしまっているなあ。


 エッ君とリーヴが自由に食べられるように、ミシェルさんからもらったお菓子を机の上に広げておく。手伝いのお駄賃代わりと押し付けられてしまったのだ。

 レモンドレッシングの代金として宿代だけでなく食事代までもを無料にしてくれているので、たまにはお手伝いをと思っただけなのだけれどね。


 でも、そんな彼らが切り盛りしているから、きっとこの宿は居心地よく感じられるのだろうと思う。

 これから近い未来に他国へと向かうことになるけれど、絶対にここへと帰って来よう。そんな決意を心に秘めながら、ログアウトの意識が遠くなっていく感覚に身を任せたのだった。



 久方ぶり、と言ってもあの公式イベントからまだ一週間しか過ぎていなかったりするのだよね……。

 ともかく気持ち的には随分と久しぶりな感覚で足を運ぶことになった『異次元都市メイション』は、テレビなどで言うところのゴールデンタイムに相当する時間なこともあってか、大勢のプレイヤーの人たちで一杯になっていた。

 辛うじて混雑するというほどまでにはなっていないけれど、場所によっては微妙に混み合ったりはしていそうだ。


 チラチラと伺うような視線をいくつか感じる。色々考えた末にそのままの格好でいることにしたから、さっそく『テイマーちゃん』だとバレてしまったのかもしれない。

 いや、変装しようかとかも考えたんだけどね。でも、別に悪いことをしている訳でもないのにコソコソするのはどうにも性に合わなくて、堂々と向かうことに決めたのだ。

 まあ、半分くらいは考えるのが面倒になった、という理由だったりもするのだけれどさ。


 さてと。いつまでも周囲の目ばかりを気にしてはいられない。

 時間は有限なのだから、ちゃんと用件を終わらせられるようにてきぱきと動かないとね。

 それに何より、変に意識し過ぎてしまうと、余計に怪しくなってしまったりもするのだ。堂々とすると決めたのだから、しっかり前を向いて歩いて行きましょうか。


「おっと、その前に。約束は果たさないとね」


 ログイン時の出現ポイントであり、待ち合わせの場所ともなっている『噴水広場』は基本的に人が多い。

 とはいえ常に満杯ということはなく、通りへと繋がらない端の方などは比較的人が少ない場所もちらほらと存在していた。

 そんな一つに向かうと、周囲に空間が確保されていることを確認してから『ファーム』を取り出す。


「いいよ。みんな、出ておいで」


 声をかけるや否や、待っていましたとばかりにボクの周りに数体が出現する。人影と呼称できなかったのは、どちらかと言えば小柄なボクに比べてもまだ小さい者たちばかりだったためだ。

 言わずと知れたエッ君を始めとするうちの子たちです。


 クンビーラの街中にいた時と違うのは、エッ君とリーヴだけではなく、チーミルとリーネイの二人も加わっていたことだろう。

 そしてそんな二人だけど、物珍しそうに周囲を一通り見回した後、何かに気が付いたように硬直してしまった。


「どしたの?」

「こ、こ、ここ、ここ……」

「こけこっこ?」

「違いますわよ!どうして鶏の真似なんかしなくてはいけませんの!」


 即座にボクのボケに突っ込んでは「ムキーッ!」と威嚇の叫びをあげるチーミル。今日も絶好調のようでなによりだね。


「落ち着いてください、チーミル。わざと一旦感情を爆発させてから落ち着かせるいつもの手ですよ」


 そんな彼女の様子を見ていたからなのか、リーネイの方はすっかり平常通りの冷静さを取り戻していた。


「それよりもリュカリュカ、わたしの見立て通りだとするなら、ここは『異次元都市メイション』だということになるのですが?」

「よく分かったね。人はともかく街並みとかは特に奇抜な所なんてないと思うのに」

「あえて言うなら雰囲気でしょうか。元の世界とは異なっているように感じられますね」


 NPCの性質として感じ取ることができるようになっているのか、はたまたこの子たちの感覚が優れているだけなのか。

 どちらにせよ、ボクにはさっぱり分からないことなので、「ふーん、そうなんだ」と返すより他なかったのだった。


「ところで、わたくしも本体も、今日こちらに来るという話は聞いていなかったように思うのですけれど?」

「うん。言っていないよ。でも昨日の話し合いの結果からして、近々来ることになるとは予想していたんじゃない?」

「確かにそんな予感はしていましたわね!ですが、わたくしたちにも心構えだとか心の準備というものが必要なのですわ!」


 再びムキーっと地団駄を踏み始めるチーミル。

 あらら。先ほどのことで落ち着いたと思っていたのだけど、実はまだ感情が安定するまでには至っていなかったようです。


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