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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十六章 おいでませメイション

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357/933

357 職人街で、衛兵さんに、出会ったー

本日からは平常通りの更新となります。

「それじゃあ、また来ます」


 と言って武器屋兼鍛冶工房の『石の金床』を出る。

 最後までゴードンさんたちは釈然としないという顔をしていたのが印象的だった。


 まあ、NPCたちが夢見る理想の異次元都市(メイション)とプレイヤーたちが交流の場にしている現実のメイション(異次元都市)との間には、ある種越えられない高くて分厚い壁が存在しているようなものなので仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。


 さてさて、時刻はそろそろお昼の三時になろうとしていた。今朝のプレイ開始時点で合わせてあったので、リアルでも『OAW』でもこの時間は変わらない。

 ついでにリアルでは本日は日曜日のため、このまま目的の場所へと向かったとしても、きっとかなりの数の人は集まっているものと思われます。


 だけど、それでもやっぱり夜の方が人の入りが多いことは間違いないのだよね。「木を隠すなら森の中」なんて有名な言葉があるように、人が多い方がそれに紛れることもできやすいと思うのですよ。


 問題なのは、逆に見つかってしまった時には騒ぎがより大きくなってしまうということだろうか。


 大変遺憾(いかん)なことながら、『笑顔』との合同イベント以来『テイマーちゃん』はすっかり有名人の仲間入りを果たしてしまっていた。

 それ以前から『冒険日記』で名前だけは知られていたけれど、あの一件ですっかり顔も知られてしまったからだ。


 ゲーム本編内ではすっかり慣れっこになってしまっていたので忘れがちになっていたけれど、今のボク(リュカリュカ)って超の字がついてしまいそうな美少女だったのだよね。

 しかも『笑顔』側の有名人でもある『コアラちゃん』ことユーカリちゃんに瓜二つというオマケ付きとくれば、嫌でも耳目を引いてしまうというものだったのだ。


 そんな『テイマーちゃん』が未だ発見されていなかったグローウェポンを持って現れるとなれば、まさに「鴨がネギを背負ってやってきた!?」という具合に相乗効果で騒ぎが倍増してしまうことになるだろう。


 その上、昨日の全体インフォメーションでリュカリュカという名前が表に出てしまっている。

 幸いにして、リュカリュカと『テイマーちゃん』が同一人物だと知っている人たちは何も言わないでいてくれている。

 しかし、だからといって全く怪しまれない訳ではないはずだ。

 むしろこじつけに始まり、何となくといった曖昧(あいまい)なものからこれまでの出来事を元に推理した結果というものまで、積極的に結び付けようとする厄介な人だっているかもしれない。


 これ、下手な行動を取れば一発で詰んでしまうかもしれなくない?


 救いなのは、人の出が多いか少ないかにはほとんど関係ないということだろうか。つまり今の時間にバレようが、夜の時間にバレようが大差はないということだ。

 うん。改めて考えると救いでも何でもなかったわ……。


 後、セキュリティー面では『笑顔』も『OAW』もしっかりしているようなので、迂闊(うかつ)にボク自身がリアルのことを口にしない限りは、そうそう身バレに繋がるような事はないと思われます。

 まあ、その迂闊なことを喋らないというのが、ある意味一番難しいこととも言えるのだけどね……。


「うにゅにゅ……。行くべきか行かざるべきか……。それが問題なのだよ、ほーむず君」

「いや、ほーむずって誰だよ……」


 と、物陰から現れたのは衛兵の鎧を身にまとった若い男性だった。恐らくは二十歳前後、リアルだと大学生くらいのお年頃じゃないかな。

 顔の方も見覚えがあるし、間違いなくクンビーラの二大治安維持部隊の一つ、衛兵部隊のお人だろう。


「きゃあ。乙女の独り言を無断で聞くなんて失礼ですよ」

「それならせめて棒読みは止めて、少しでもいいから恥じらいの気持ちを込めてくれ……」


 どっと疲れたような顔をしたものの、ボクの台詞に即座に答える衛兵さんです。

 ほほう、なかなか良い突っ込みのセンスをお持ちのようですな。


「言いたいことは分からないではないけど、それをやってしまうとお兄さんの立場が悪くならないですか?」


 入り組んだ薄暗い裏路地ではないけれど、『石の金床』は職人街の中にあり、初見の人が案内なしに辿り着くのはなかなかに難しい立地にある。

 そんなお店から出てすぐのこの場所もまた似たような条件だと言えるだろう。


 つまりですね、衛兵の鎧を見慣れているクンビーラの街の人なら問題ないけれど、そうではない他所から来た人からは、人気の少ないところに華憐な美少女――もちろんボクのことです!……なぜそこで不思議そうな顔をするの!?――を連れ込んだ不埒者(ふらちもの)に見えてしまいかねないという危険があったのだ。


「……!!!?そ、そんなつもりはないぞ!!」


 ボクの指摘によってようやくそのことに思い至ったらしい衛兵さんが、わたわたと両手を振りながら叫ぶ。

 その顔が赤くなっているのは、きっといろいろな感情が押し寄せてきているからなのだろうね。


 武士の情けです。そこは突っ込まないでいてあげましょう。

 ボクは女の子で、先祖も三峰村でお百姓をしていたらしいので武士とは縁遠いのだけど。


 それはともかくとしまして。なぜ彼がそんな場所にいたのかというと、衛兵のお仕事として街の中の見回りをしていたためだろう。

 今でこそ焦りまくっているけれど、その前はごく普通の様子だったから、特に何か面倒事などが発生しているということでもなさそうだ。


「分かってますから落ち着いてくださいな」

「……なんというか、年下の女の子に冷静に諭されると微妙にショックだな」


 ボクは外見的には美少女だけど、これと言って威厳がある訳でもないから、立つ瀬がないとかそういう感想になるのは仕方がないのかもね。

 まあ、本人の前で言ってしまっているのは減点となってしまうかな。

 その辺は経験や知識も絡んでくるので、こちらとしては頑張ってとしか言いようがないところではある。


「で、お兄さんは見回りですか?」

「ああ。この通り衛兵としての仕事の最中だ」

「一応確認なんですけど、何か事件が発生したってことではないんですよね?」

「特に何かが起きた訳ではない。……まあ、強いて言うなら、君に遭遇してしまったことが俺にとっては事件だったか」

「きゃっ。そんな情熱的なことを言われたら恥ずかしい」

「……だから、せめて棒読みは止めてくれと言うに」


 なんだかんだでノリのいい衛兵のお兄さんにエスコートしてもらいながら、大通りへと向かうボクなのでした。


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