351 シーズンセカンド、スタート?
本日二話目となります。
深刻な顔色のまま、ネイトは言葉を続けていた。
「皆さんもご存知の通り、かつてこの大陸を実効支配していた四人の『卿』たちは、大陸統一国家亡き後、それぞれの地に自らを主君とした国を建国しています。……もっとも、ここ『風卿』の地では上手くいかずに千々に千切れてしまったようですが」
その結果生まれたのがクンビーラを含む都市国家群だよね。その国家群も百年前の『三国戦争』で滅ぼされたりそのあおりを受けたりして、往時に比べるとその数は半数以下にまで減少してしまったのだとか。
と、『風卿エリア』のことは置いておいて、今は他のエリア、他の『卿』たちのことだ。
「国として、そしてその主君として『卿』の血筋が健在である残りの三国においては、もしかすると転移の魔法陣のこと等が代々極秘で伝えられているという可能性もあるのではないでしょうか?」
大陸統一国家の中枢に対して、最終的にどういう態度を取っていたかによって違いは出てくるだろうけれど、味方であったにせよ敵対していたにせよ、浮遊島を放置しておくという選択肢だけはなかったはずだ。
あそこに行くことができる権限を持っていたのであれば、子孫に伝えていたとしても不思議でも何でもない。
「ですが、それならばもっと早くに浮遊島の存在が明らかになっていたのではありませんこと?それこそあの浮遊島は大陸統一国家随一の遺産と呼ぶにふさわしい代物ですから、発見し、手中に収めることができれば、彼の国の後継を名乗るにふさわしい成果となったはずですわよ」
「大陸統一国家崩壊に際して転移装置が破壊してしまっていたのか、それとも浮遊島に巣くっている死霊たちによって手痛い反撃を受けたのかもしれませんよ。まあ、そこの辺りの詳しいことについては情報の一つもありませんから、はっきりとしたことは何とも言えませんが……」
どのようなことが行われていたにしろ、昔の人たちでは浮遊島を御すことはできずにいた、ということなのだろう。
そして重要なのは過去よりも今、そしてこの先のことの方だ。
「七代前のクンビーラ公主様たちのことがどこからか漏れて『三国戦争』へと発展したように、ボクたちの行動や地下遺跡から持ち帰った情報も、いずれそれらの国々に知られてしまうということだね?」
「ええ。リュカリュカの言う通りです。そして知られたが最後、間違いなく古来より伝わる碑文や伝承の類を改めて調査し直すということになり、浮遊島への転移装置の捜索へと繋がっていくものと考えられます」
「……まずいですわね。『三国戦争』では三つ巴の戦いを繰り返したことでそれぞれが疲弊し、勝者なき戦いとして終わりを迎えることになりましたわ。いわばこの『風卿』の地を犠牲にしたようなものですが、逆に考えればそれゆえに大陸全土に災禍が広がらなかったとも言えますの」
大局だけを見れば今のミルファの言うことも一理あるものだ。
まあ、実際に被害にあった人たちからすれば「ふざけるな!」という話だろうけれど、それを言い始めるときりがなくなる上に話の筋が違ってきそうなのでこれ以上触れるつもりはないです。
「ですが、今度の浮遊島を巡る争いは根本的に異なりますわ。情報を巡る中では互いに小競り合い程度のことは起きても、最終的には一早く強力な戦力でもって浮遊島へと乗り込むことが最優先とされる以上、余計な疲弊は望めないと見るべきですわね」
一番の問題点は各陣営それぞれの地に移動手段となる転移装置があるかもしれないということだよね。
「しかも空を飛んでいるという性質上、大陸のどこにでもほぼ一方的に攻撃を仕掛けることができるようになるから、浮遊島を手に入れた陣営がそのまま大陸の覇者となってしまう確率は高いだろうね」
「ええ……。そしてどの国もその事を理解できてしまうでしょうから、どうやってもこの流れを止めることはできないですわよ」
そう言ったミルファの体は小さく震えていた。
まあ、計らずとも御先祖以上の大惨事を巻き起こすきっかけとなってしまうかもしれないのだから、恐ろしく感じるのも当然のことだろうとは思う。
後れを取ってしまった側も直接的な戦闘で敗北した訳ではないので、戦力はまだまだ十分に残っているはずであり、一方的に軍門に下れと言ったところで従うとは思えない。
最悪の場合は泥沼の殲滅戦へともつれ込んでしまうかもしれず、そうなれば被害の規模は天井知らずとなってしまうかもしれないのだ。
こういう時にはアニマルセラピーならぬうちの子たちセラピーだ。とりあえずエッ君でも抱いて落ち着きなさい。
そして率先して周囲の見張りをしてくれているリーヴの頼りになる後姿を見て安心するのです!……ちょっと小っちゃいけどね。
それにしても、他の国の動向を気にしなくちゃいけないというのは地味に面倒なことだね。いっそのこと邪魔をするというのもアリかもしれない。
……ふみゅ。どうせならとことんまでやってしまうべき?
「よし。決めた!各国にある転移装置を壊して回ろう!」
「……は?はあああああ!?!?」
ちょっと、二人とも。女子としてはあるまじき叫び声になっているよ。
それにいくら周囲に人影がないと確認していたとしても、そんなに大きな声ではどこで誰に聞かれてしまうか分かったものじゃないからね。
「あなたがいきなり突拍子もないことを言い出すからいけないのですわ!」
ボクの視線での非難にミルファが瞬時に反論してくる。
「あらかじめ前置きをされてから突拍子もないことを言われた方が、ダメージが大きいんじゃないかな?」
「それ以前に、突拍子もないことは言わないようにして頂きたいのですけれど……」
あえてズレた言葉で返すことで煙に撒こうとしたのだけれど、今度はネイトにあっという間に突っ込まれてしまいあえなく失敗です。
ふっ……。なかなかいい連携だった。もう二人に教えることは何もないよ。
「リュカリュカ、そうやって誤魔化そうとしても無駄ですからね」
ちっ、バレたか。
と、冗談はこのくらいにしまして。
「まあ、突然の表明になったことは謝るよ。でも、ボクとしても明確な行動方針としなったのはついさっきのことだから、少しくらいは大目に見て欲しいけどね」
「それならせめて提案という形にして欲しいものですわ……」
「まったくです。それとエルが言っていたように転移装置は貴重で希少なものですから、いくら何でも壊すというのは問題ではありませんか?」
「何を言っているのさ。地下遺跡の転移装置だって完膚なきまでに破壊したんだから、そんなの今さらの話だよ。もう一個壊しちゃっているんだから、この後いくつ壊しても同じだよ」
あっけらかんと言い放つと、二人は今度こそ驚きで固まってしまったのだった。
次話は18:00投稿予定です。
さあ、餡餅入り雑煮(白味噌仕立て)を食べるぞ!




