348 黒くて大きいゾ
年末年始特大号!
……という訳ではありませんが、何とかストックができたので本日12月31日から1月3日にかけては一日複数回更新していく予定です。
おじいちゃんたちにハイパーの人たちの処分を任せると、ホールで待ってくれていたミルファたちパーティーメンバーと合流して建物の外へ。
やれやれ。指名依頼完遂の報告をして報酬を受け取るだけだったはずが、随分と大事になってしまったものだね。
時間の方も早めのお昼を取るには十分という頃合いになってしまっていた。
「まったく、一人だけであんな面白そうなことをしていましたなんて!」
「まったく、一人だけであんな危険そうなことをしているんですから!」
と、途中から正反対のことを言い出すミルファとネイトを宥めながら、中央広場の南側へと足を運ぶ。
ちなみに先ほどの騒動に関するボクの感想としては、面白いでも危険でもなく「不快」というのが一番の気持ちだったかな。
ただ、それを言ってしまうと二人からのお小言が倍増してしまいそうなので、口にはしないけれど。
終わったことはさておき、広場の南側へと向かったことには当然ながら理由がある。時間が時間なので、お昼ご飯として食べ歩きができるようなものを買い求めるためだ。
本当はそのまま南の大通りへと抜けた方が多くの屋台やお店があるのだけれど、中にはチャレンジ精神旺盛なお店もあって危険がデンジャラスなことも起こり得るのだよね……。なので安定した品質をお求めの場合は中央広場をお勧めしたいところだ。
「今日は何にしようかな……?」
残念ながら持ち運び、というか食べ歩きができるという時点で必然的に選択肢はかなり狭まってくるからね。あちこちで景気のいい音を発している揚げ物の類は除外されるということになるだろうか。
あ、でもパン屋さんでパンだけ買ってきて、そこに屋台で出来立ての揚げ物を挟んでもらうという手もあるかも!?
お、おおう……。夢が広がるよ……!
「……リュカリュカはこの食事に対する情熱を、もっと別の方面へと向けるべきだと思いますの」
「その事へ声高に反対をする気はありませんが、リュカリュカが食べ物や食事に対して無頓着になった様というのを想像することができません……」
はい、そこの二人!
人を食いしん坊キャラのように言うのは止めて頂きたいですね!
……まあ、確かにこちら、VRゲームの世界だといくら食べても太ることもなければ健康を損なうような事もないから、リアルに比べて美味しい物に対する執着は強くなっている気はするけれどさ。
そうこうしながら、いくつかの屋台を覗いて気に入った物や気になった物を買っていく。
「両腕で抱えるようにするほど買っておいて、食いしん坊じゃないというのは無理があると思いますよ」
「コホン。これはエッ君やリーヴの分も含まれているのだから問題なし!」
ネイトからの冷ややかな突っ込みを受けたりしながら、街の外へと向かうため広場を抜けて一路大通りを西に歩いていく。
遠く街を囲む城壁の上にまばらに人影が並び、さらにその向こうに「ねえ、遠近法って知ってる?」と問い質したくなるくらいの巨大で黒い尻尾がぴろぴろと見え隠れしていた。
日によって時々は変わるが、最初に降り立ったという理由からなのか、ブラックドラゴンはクンビーラの西側にいることが多かった。
宰相さん辺りの本音としては、できることなら均等に動いてもらいたいところかもしれないが、どうしても必要ということでもないので好きにさせているようだ。
つまり本日の予定その二、ブラックドラゴンに浮遊島のことを尋ねてみる、を果たすべくボクたちは彼の元に向かっているという訳です。
「なんだかんだであれに馴染んでしまったクンビーラの街の人たちは、メンタル最強だと思う」
「その事を否定するつもりはありませんし、一応は誉め言葉のようですから受け取っておきますわね。ただ……、その原因となったあなたがそれを言うのはどうかと思いますわよ」
うーむ……。今日は二人ともやけに突っ込みが厳しいような気がする……。
やっぱり冒険者協会での一件が後を引いてしまっているのかもしれない。結局あのゴタゴタのせいで依頼を見つけることもできなかったようだし。
事が終わってからもうちのパーティーに不和を巻き起こすなんて、ハイパーの連中はつくづくボクにとっては厄介者だったようです。
「でも、リュカリュカの言ではありませんが、セリアンスロープが多い訳でもないこの街が本当によくブラックドラゴン様を受け入れたものだと思います」
ネイトいわく、セリアンスロープの人たちの多くにはいわゆる強者信仰のようなところがあるため、種族を問わず強い生き物には敬意を払う傾向があるのに対して、特にヒューマンの場合はそうした存在を『敵』や『悪』と定義して排除しようとする動きになる場合が多いのだとか。
余談だけど、エルフ、ドワーフ、ピグミーの三種族は妖精種とも呼ばれているだけあって、精霊信仰というか自然信仰的な部分を持っているそうだ。
そのためか土地に根差した守護者的な存在や主的な存在であれば、例え魔物であっても認め、許容することが多いのだそうだ。
そんな種族の特徴があったので、ネイトとしては最初にこの話を聞いた時には大いに驚くことになったのだそうだ。
「ところが、事の真偽を確かめようといざやって来てみればブラックドラゴン様の姿は見えずに里帰りの最中だというし、その話をしてくれた衛兵の方々が嘘をついているようにも見えなくて……。意味が分からないままクンビーラの中をふらふらと歩いていたところに、リュカリュカの助けを呼ぶ声が聞こえてきたという訳です」
あの出会いの裏にはそんな事情があったんだね。
「だけどそれで命が助かったんだから、ミルファはブラックドラゴンに足を向けて眠れないね」
「元より守護竜のブラックドラゴン様を軽んじるようなことをできるはずありませんわよ。ですが、かといってヴェル様たちのいる城のある東に足を向ける訳にもいきませんから、ミシェルさんにお願いしてベッドの向きを変えて頂きましたの」
そんなことまでしていたとは!
今さら冗談で言ってみただけとは、とてもではないが口にできそうもありませんですわよ。
でもまあ、ここは仲間がしっかりとした感覚を持っていることを喜ぶべきなのかもしれない、よね?




