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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十四章 次の冒険に向けて

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346 奢って奢られて

「ふむ。レベルを上げることの恩恵に気が付けたのなら俺から言うことはないか。それで、勝敗はついたのに一体何をやっていたんだ?」

「勝負の最中に気になることを言っていたの。だからちょっと詳しく聞かせてもらおうかなと思って」


 それは単なる偶然だった。

 その時、ボクの視線が向いた先にあった訓練場の入り口の扉が静かに閉じられようとしていたのだ。


「しまった!」


 先に言っておくけど、ギャグじゃないからね。

 おじいちゃんこと<オールレンジ>のディランという超の付く有名人が現れたことで、この場にいた人たちの視線や関心、意識までもが全て彼に集中してしまっていた。

 つまり、この場から逃げ出すにはもってこいのタイミングだったのだ。


「心配するな」

「え?」

「俺が戻るのに合わせて城の方からその手の得意なやつが寄越されていたようでな。そいつがしっかり後を追ってくれるだろうさ」


 おじいちゃんの言う通りだとすれば、クンビーラ側もただ手をこまねいていた訳ではなく、エルを派遣してくれていたようだ。


「まあ、クンビーラに一つ借りを作ることになりかねんから、デュランのやつは渋るかもしれないがな。いや、あいつのことだからそれも見越していたのかもしれん……」


 あ、あり得る。あの腹黒エルフさんなら支部独自でクンビーラとの協力体制を打ち出しやすいように、今回の一件を利用しようとするくらいのことはやってのけそうだ。


「いやあ、先日のことを持ち出されると、非がある身としては協力せざるを得ないんだよ」


 とか、眉一つ動かさずに言いそうですよ。

 うん。色々と危険な気がするのでこれ以上詳しく考えるのは止めよう!


「何にしても今から追いかけることはできないんだ。任せるより他ないだろう」

「そうだね。後はこっちでできることをやるしかなさそう」


 おじいちゃんと一緒になってハイパーな面々に向き直ると、ビクリと体を震わせる。一等級冒険者という自分たちでは逆立ちしたところで勝てない相手が現れたことで、反抗する気力も失ってしまったようだ。

 つくづく上の者には弱くて下の者には偉ぶる三流の小物だなあ、と思ってしまったのだった。

 まあ、楽になるならどんな習性だって利用しない手はないんだけどね。


「あなたたちにボクのことを吹き込んだ相手のことを詳しく教えて」

「酒場で何度か一緒になったことがあるだけだから、俺たちも良くは知らねえ。ただ、羽振りがいいやつで、一緒になる度に酒を奢ってくれていたな」


 何その怪しい人。

 そんな相手の言ったことをよく真に受けたね。


 すっかり呆れてしまっていたのだが、おじいちゃんに言わせると奢り奢られることも含めて割とよくある事らしい。

 この時はそれでいいのか冒険者?とか思ってしまっていたのだが、後から聞いた話によると、実はこれには若手冒険者を支援するという意味合いもあるらしい。


 当たり前の話だけれど、冒険者が相手取ることになる魔物というのは強く危険な存在だ。

 そうした魔物と戦うためには、よほどの武術の達人でもない限りは武器や防具といった装備品が必要となる。他にも傷薬など消耗品も含めると、かなりの出費となってしまうだろう。


 至れり尽くせりなプレイヤーとは異なり、NPCの駆け出し冒険者はそうした諸々の品を揃えることから始めなくてはいけないのだ。

 が、魔物と戦う必要のない街の中だけで完了させることができる依頼となると、低い依頼料であることが多い。

 実際にボクも数日間そうした依頼を中心にこなしていた訳だが、はっきり言って割りの悪い仕事だってあった。


 ちなみに、ボクの場合はレモンドレッシングの使用料代わりに『猟犬のあくび亭』にタダで寝泊まりとご飯食べ放題することができていたので依頼料全てを貯蓄していくことができたけれど、下手をすればその日の宿代とご飯台を稼ぐだけの自転車操業となってしまう可能性すらあるのだ。

 こうした貧困ど真ん中の若手新米駆け出し冒険者を助けるために、実入りが良かった冒険者たちは酒場などで盛大に奢るという行為をするようになったのだとか。


 もちろん、気っ風のいいところを見せることや大勢で酒を飲みかわすこと自体も目的だったのだろうけれどね。


 おっと、閑話休題。

 それよりも今はその怪しい人物のことだ。


「とにかく覚えていることだけでいいから教えて。もちろん可能な限り詳しくだよ」


 なかなかに無茶な要望だということは自覚しているけれども、それ以上に情報が欲しい。

 次の一歩を踏み出そうとしているこの時に、余計な雑事で足を取られる訳にはいかないのだ。


 並々ならないボクの気迫に押し負けてハイパーの人たちが語った内容を要約すると以下の通りとなる。


 まず、その人物と出会ったのは『迷宮都市シャンドラ』とのこと。ちょうど一仕事終えて酒場へと繰り出していた彼らに気さくに声をかけてきたのだそうだ。

 そして酒を飲みかわしたことで意気投合し、徐々に愚痴めいたこともお互い言い合うようになっていった。


 そして話題はボクのことへと移っていく。

 と言ってもその人物が話したのは「ブラックドラゴンを手懐けたとかいう話題のクンビーラに、貴族に取り入って羽振りの良い若手冒険者がいるらしい」程度のことであったようだけど。


 普通なら「そいつは羨ましいことだ」とか「ちっ、上手くやりやがったやつがいたもんだ」くらいの軽い嫉妬を伴った感想しか思い浮かばないところだったのだが、なぜだかその時は「俺たちがこんな苦労しているというのに許せん」と、ムカムカと強い苛立ちを覚えてしまったのだとか。


 結局そうした感情に後押しされるようにしてクンビーラへとやってきてしまったらしい。

 冒険者協会のホールでボクに目をつけたのはある種偶然で、一人でいたことや大金を手にしたことに加えて、若く世間慣れしていなさそうだったことなどからであったようだ。


 この辺りはゲーム的な補正が働いたとも見ることができるけれど、件の人物と会っていた時の不可思議な精神状態から考えるに、薬などで何かしらの誘導をされていたのかもしれない。


 そして肝心の人物の姿なのだが、残念ながらこちらについては芳しい答えを得ることはできなかった。

 どうにも頭の中に濃い霧が立ち込めたようになってしまい、思い出そうとしてもはっきりとした像にならないようだ。

 もはや怪しいのグレーゾーンを通り越して、暗黒物質(ダークマター)も驚きの黒さっぷりだわ。


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― 新着の感想 ―
[良い点] うん、ハイパー終了。 文庫とかの換算で、最序盤。 雑魚を処理(ストーリーの準備運動や助走に相当)しながら伏線を張る部分は、さりげなく。かつあっさり済ませて、伏線臭を和らげる。 それをや…
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