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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十四章 次の冒険に向けて

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344 倍返しだー(棒)

 ボクからの二度の魔法を正面から受けきるという、少年漫画も真っ青な離れ業を成し遂げた男Aだったが、その代償は大きく、試合開始からわずか数十秒ですっかりと満身創痍となってしまっていた。


 うん。だからそれが演技過剰だっちゅうの。


 一発目の【アクアニードル】だけでなく、二発目の【ウィンドボール】も発動速度優先のMPを減らしたものだ。

 しかも武器を叩きつけることで直撃は免れているから、立っているのが精一杯だなどということには絶対にならないはずなのだった。


 さて、どうしたものか……。最初の【アクアニードル】に関しては向こうの意表を突いていた可能性が高い。あの驚きようは本気だったはずだ。

 急停止からの武器による魔法の切り落としにも焦りのようなものが付きまとっていたように思う。


 対して二回目となる【ウィンドボール】はある程度予想されていたのではないだろうか。その上でこちらが一番驚くような対応を取ってきたような気がする。


 多分だけど、【アクアニードル】を受けたことでボクの魔法の力量を見定めたつもりになったのだろう。つまりは「このくらいであれば避けなくとも大怪我には至らない」とね。

 その上で過剰な演技をすることで、ボクと周囲の野次馬たちをだまくらかしているつもりになっているのではないか。


 やれやれ。これはまた見事に舐められたものだね。


「そっちがそういうつもりなら、こちらも相応のやり方をしないといけないかな」

「あ?どういうこと――」

「習得したばかりだから手加減できなかったらごめんね。本邦初公開、【アクアドリル】!あーんど【ウィンドドリル】!」


 あちらの台詞を最後まで言わさずに、二つの魔法を続けざまに展開して射出する。

 あ、もちろん射角は斜め上から撃ち下ろすようにしていますよ。


「ひっ……!?」


 さすがにこれを受けるのは危険だと判断したのか、慌てて横っ飛びでかわす男A。

 二本のドリルは寸前まで彼が立っていた地面をガガガガッ!という掘削音を立てて一メートルほど削り取ると、そんなものなど存在してはいなかったかのようにふわりと空気に消えていった。


「あーらら。苦しそうだった割りには随分と軽快な避けっぷりだったね。……もしかして、それらしく演技していたのかな?」


 魔法による地面の傷跡を見ていた男Aにそう言ってやると、青白くなっていた顔が瞬時に真っ赤に染まっていった。

 信号機みたいだと思ったことは秘密です。


「ぐ、この……!!」


 その顔色の元となった感情は、怒りかそれとも羞恥なのか。

 格下相手にわざわざピンチのふりをするなんてことをしでかしていたことがバレたのだ。周囲からの失笑を買うどころでは済まないだろうね。

 事実、彼を見る目は冷ややかなものばかりとなっていた。


「どうせ今までもそうやって対戦相手の油断を誘ってきたんでしょう。まあ、どんな相手にも自分のスタンスを変えないってところには好感が持てなくもないかもしれないと思わなくもないのかもしれないけどねー。……ああ、そうか!こんな見え見えの技が通用するくらいの連中しか相手取ってこなかったから、そんなことも分からなくなってしまっていたんだね」


 実際のところ彼の演技は下手で、自分の魔法の攻撃力を把握していたボクとしては寒々しいを通り越して痛々しいとすら感じてしまいそうになるくらいだった。

 要するに自分の力量をさっぱり把握できていないと公言しているようなもので、アレに引っ掛かってしまうようではかなり問題だと思うのよね。


 それはともかく、彼が演技をしていると大々的に暴露する作戦は上々の成果を上げたといえるだろう。

 これであの姑息な手は二度と使えなくなったはずだ。ざまみろ。


 やり口が厳し過ぎる?これでも手加減してあげた方なんだよ。

 だって、ドリルを避けた時の悲鳴じみた声には言及しなかったのだから、ね。


 その男Aですが、周囲からの呆れ果てた視線にさらされ、羞恥と怒りで真っ赤におまった顔のままこちらを睨みつけていた。

 感情を抑えるのに精いっぱいで、まともに口を開くこともできなくなっているのかもしれない。


 ふうむ……。このまま感情を爆発させて暴走させてやるのも手だけれど、仮にボク一人で抑えきれなかった場合には周囲に被害が及ぶ可能性がある。

 まあ、野次馬たちの中にボクよりも弱い人なんてそうはいない――レベル十以下の人ってことになるからね――はずなのだが、何事にも絶対ということはないのもまた確かだ。


「煽るのはこの辺りで止めておくべきかもね」


 舐められた分の仕返しは十二分にできたことだし、後は実力の方で目に物を見せてやればいいだろう。


「来ないのなら、今度はこちらから行くよ!」


 ぐっと両脚に力を込めて駆け出す。柄の長い武器を持つボクにとって五メートルくらいの距離などあってないようなものだ。

 すぐに間合いに入ったことを認識して全身の運動エネルギーをそのままに突きを繰り出す。


「なめるなあ!」


 脇目も降らずに突っ込むという、自身の行動への意趣返しであったことに気が付いたのか、男Aが手にした大剣で叩き落してくる。

 ボクから見て左斜め下へと加えられた力のベクトルには逆らわず、先端に着いた斧頭が地面に接触した瞬間、反発する力を利用して思いっきり力を込めて振り上げる。


「てえい!」

「なっ!?バカな!?」


 同時に強く足を踏み込み、地面からの反作用を一身に受けて伸びあがっていく。

 結果、押さえつけていたはずの大剣は握りしめていた腕もろとも逆にかち上げられてしまい、男Aは無防備な体をさらすことになる。


 もしも彼が普段使いしている本物の武器であればこうはいかなかっただろう。だが、今その手にしていたのは練習用の模造武器、つまり軽いのだ。

 だからこそボクのような非力な女の子でも大の大人の体勢を崩すことができたのだった。


 とはいえポールアックスを全力で振り上げたので、崩れた体勢という点ではボクも似たようなものだ。

 だからこそあちらは急いで体を立て直そうと四苦八苦していたのだから。


 その腕に力が戻り、のけ反っていただけの体に芯が通ると、彼は喜悦の表情を浮かべる。

 が、実はもう勝敗は決していた。

 確かに体の動きでは向こうの方が早い。でも、それを上回るだけの攻撃手段がこちらにはあったのだ。


「チェックメイト」


 動作に移ろうかというその瞬間、ニコリを笑いながら言ってやる。

 すると男Aは困惑と恐怖をないまぜにしたような顔でこちらを見た。


「【アクアボール】!」


 そう口にしたと同時に出現した水の塊を腹部に受けた男Aは、成す術もなくボクの目の前から吹き飛んで行ったのだった。


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