341 リーダーの心得
はてさて、面倒なことにも戦闘が継続することになってしまった訳ですが、状況は控えめに言ってもよろしくないものだった。
速攻と奇策で二人を沈めたものの、相手はまだ四人も残っている。対してボクは一人と、この人数差は大きいと言わざるを得ないだろう。
加えて、いくらヘッポコな人たちだとは言っても、同じ手が二度も通用するとは思えない。
まあ、タネが分からなくてビクついているので、ちょっとした脅しやフェイントには使えるかもしれないけれどね。
油断なくこちらを睨みつけてくる四人の男たちの姿にため息を吐きたくなってくる。
ちなみにそれぞれの獲物は、男Aが両手持ちの大剣で、毎度おなじみな片手剣と小盾の男C、男Eは練習用とか関係ないだろうと思えるくらいに、見るからに威力の高そうな巨大の棍棒――モールと言うのだったかな――を構えており、最後の男Fは身長を優に超える長さの槍を手にしていた。
うーむ。全員多分それなりに強そうに思えてしまう……。見ただけで相手の強さが分かるような特異な才能を持ち合わせてもいなければ、強者を肌で感じ取れるほど戦闘に馴染んでもいない。
初見の相手との戦力差や実力の違いを見抜くような事など到底できないのだった。
それでもあえて最も危険な存在を選ぶとするならば、二メートル半以上、恐らくは三メートル近い長さの槍を持っている男Fと言うことになるだろうか。
理由は簡単で、武器のリーチが長いからだ。
単純だと侮るなかれ。これって意外と重要なことなのです。相手よりもリーチが長いということは、それだけ一方的に攻撃できる範囲があるということになる。
もっとも、攻撃すれば必ずに近い確率で命中するようなゲームではないので、避けられもすれば受け流されるようなこともある。
なので過信は禁物だし、この点だけで絶対的な優位性があると思い込んでしまうと手痛いしっぺ返しを受けることになるけどね。
そうした部分を含めてもなお、リーチの長い武器は危険だと思う訳ですよ。今回のように複数との対戦になると、敵の連携にも気を配らなくてはいけない。
前衛役を攻めあぐねて動きが止まってしまえば格好の的になってしまうだろう。
特に小盾を持った男Cに防御に徹せられてしまうと、この想像通りの嫌な未来が到来してしまうかもしれない。
うむむむむ。これは何も考えずに手をこまねていては敗北必至ですぞ。
「ふふふ……。次に苦しんでみたいのはそこの人?それともそっちのあなたかな?」
という訳で、どこまで効果があるのかは分からないが、一応は布石を打っておくことにしました。
槍持ちの男Fを除いて、明らかに前衛役になるだろう残り三人を順に見回しながら、先の台詞を口にしたのだ。
するとさっきの気勢はどこへやら、あっという間に腰が引けてしまったのだった。
しかもチラチラと倒された二人のことを見ては顔を青ざめさせている。すさまじいまでの分かりやすさっぷりに、かえって罠ではないのかと勘繰ってしまいそうになるよ。
そんな挙動不審状態となってしまった男たちだったが、奥の手のようなものがなく自力で戦うしかないボクが勝つためにはまだこれだけでは心もとなかった。
できることなら後一手、何か揺さぶりをかけられるものが欲しいところだ。
うーむ……。揺さぶり、ゆらゆら、シェイク……。
そういえばこの前久しぶりに飲んだ世界規模でチェーン展開している某有名ファーストフードのシェイクは冷たくて甘くて美味しかったなあ。
喉の渇きを潤すという点では少々難があったかな?と思わないではないけれど。
まあ、元々豪快にゴクゴクと飲むような代物ではないような気もするので問題ないのかもね。
はい。現実逃避ですね、ちゃんと分かっておりますですよ。
そして「ここはリアルではなくゲームの世界だけどね」という台詞も逃避だということはよく分かっていますとも。
でもね、そうやって逃避しなくちゃいけないくらいには切羽詰まった状況であり、しかもそういう時に限って何も思い浮かんでこないのだよ!
そんな風に内心でワチャワチャしていた訳ですが、実はこの時ハイパーの人たちもまた大混乱となっていた。
「俺はあんな恐ろしい目に合うのは御免だぞ!」
「俺もだ。おい、いつもリーダー面しているんだからお前が何とかしろよ」
「お、お前ら!?」
「この話を受けてきたのもお前だし、戦いを続けるといったのもお前だ。責任もって先頭に立ってくれや」
「普段から人の後ろに隠れるようにしているお前にだけは言われたくねえぞ!」
人間、極限状態になると本音が出ちゃうものだよねー。
ボクが予想した通り男Aがリーダー格だったようなのだが、どうやら他のメンバーとの間に微妙に溝ができてしまっていたようだ。
会話の内容から察するに、依頼の選択と決定権は彼にあったようだね。そして残るメンバーの意見はほとんど参考にされてはいなかったのではないだろうか。
ボクたち『エッグヘルム』もプレイヤーであるボクにその役目が任されることが多い。独りよがりになってミルファたちの考えや意見を封殺してしまわないように注意しておかないとね。
それにしても彼らから学ばされることがあるなんて、他山の石とは昔の人はよく言ったものだよ。
それはともかく、ここにきてこれまでにまかれていた種が一気に芽吹いてきたという感じだ。
その中のいくつかはきっと、ボクがこの戦闘中にまいたものなのだろう。もちろんこの好機を逃すつもりはありませんとも。
「そうだねえ、このまま続けるのも面倒だから、あなた一人で戦うというなら他の人は見逃してあげてもいいよ」
「だとよ、リーダー」
「任せたからな、リーダー」
「負けるんじゃねえぞ、リーダー」
理解不能な魔法に加えて低等級冒険者にしてはやたらと尊大な態度と、ボクの振る舞いは何か裏があるのではないかという疑念を抱かせるにはもってこいだったのだろうね。
リーダーである男Aを除いた三人は、即座にこの提案に食いついてきたのだった。
「なっ!?バカなこと言ってるんじゃねえよ!そんなものあのガキの策に決まっているだろうが!あいつの言う通りにしなくても、このまま数で押し込めば勝てるんだよ!」
ほうほう。一応はこんな連中でもリーダーとして引っ張ってきただけあって、ちゃんとボクの思惑を見抜いておりますな。




