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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十四章 次の冒険に向けて

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338 激しい温度差

 やることも決まったからさっさと……、まで急がなくてはいいのか。一番の目的としてはデュランさんたちが帰ってくるまで、あの連中をここに止めておくことなのだから。


 どうせだからいざとなって怖気づいてしまったか弱い女の子のふりでもしてみましょうかね?「さすがにあれだけのやり取りをして、散々強気なところを見せつけていたのだから通用しないでしょう」と呆れた調子でささやく声を頭の片隅へと追いやりながら、不安そうに周囲を見回してみたり、意図的に男たちから眼をそらせたりしてみる。

 すると……。


「おい、ようやくあのガキも自分の立場ってもんに気が付いたみたいだぞ」

「ははっ。こいつは傑作だぜ」

「だが、このくらいで終わらせてやる訳にはいかねえよなあ」


 思わず「まぢで!?」と叫んでしまいたくなるくらい見事に釣られてくれました。

 ちなみに、男たちのやる気や熱気に反比例するように、周囲の野次馬の皆様方はドン引きしていたよ。

 特にミルファとネイトの冷たい視線が心に痛いです!アウチ!


 冗談はさておき、どう考えてもこっちが正常な反応だよね……。

 本気で彼らのこれからが心配になってきたのですが!?よくもまあこんな調子でこれまで無事にやれてこられたものだよ。

 実は能力値の〈運〉の値が異様に高い人たちなのではないだろうか。だとすれば予想外のところでこちらの攻撃が無効化されたり、あちらの攻撃が大成功してしまうかもしれない。

 どうやって用心すれば良いのかも分からないけれど、とりあえずはそれこそ頭の片隅にでも置いておくべきではあるだろうね。


「おい!忙しい俺たちがわざわざこんな場所にまで来てやったんだ。もちろんその礼はしっかりとしてくれるんだろうな」


 わーお。これ以上はないだろうっていうくらいあくどい顔をしているよ。粘ついた目つきにニヤニヤニタニタと締まりのない笑みと、お代官様や越後屋も真っ青な下種っぷりだ。


「そ、そうだよ!ここであなたたちをギッタンギッタンにしてやるんだから!」


 きゃいー!?し、視線が!周囲からの冷たい視線が辛い!

 もはや寒冷地域並みの寒さとなっています。

 にもかかわらずハイパー以下略の人たちの顔はにやけ度合いを増して、熱気も上昇しているようだった。


 おおう……、これでも問題なしですかい。今の台詞はかなりの大根役者っぷりだったな、と自分でも思っていたのだけれどなあ……。

 周囲との温度差がどんどんと開いていっておりますですよ。


 あ、ちなみに今回のコンセプトは怯えながらも強気な態度を崩さない可憐美少女でした。


「おお、おお。そいつは怖えな。だったらこっちは全員で戦うくらいはしないと、勝負になりそうもねえなあ」


 ふーん。そうきますか。

 女の子一人相手に大の大人が六人がかりだとか卑怯にもほどがある提案だ。それを臆面もなく言ってしまえるのだから、いっそ清々しいまでのクズ具合だ。

 周囲の反応?もはや聞くまでもない状況だね。極寒の寒さでバナナで釘が打てるレベルです。


 しかしながら、この提案はこちらにとってもそれなりのメリットはある――負けた時の再戦の口実に使えそうだもの――ので受けることにしましょう。

 おっと、ミルファたちが暴れ出したりしないように、あらかじめ視線を合わせて小さく頷いておくよ。


「い、いいよ!それでもボクが勝つんだから!」


 それを強がりだと判断したのか、野次馬たちがざわつく中で男たちは喜色を溢れさせていく。……が、はっきり言って相当に気色が悪く、見ているだけで吐き気がしそうになるほどだった。

 周囲の女性陣の多くも口元を抑えたり眼をそらしたりして、気分が悪そうにしている。もしもこちらの戦意を削ぐために狙ってやったのだとすれば侮れない連中だ。


 もっとも女性からの好感度を犠牲にしている節が多分にある。よって自発的なものであるなら、よほど切羽詰まった状況でもなければ使用したいものではないだろう。

 つまり彼らの場合は無意識ということになりそうだ。

 ボクを見る視線にもしっかり性的な面でのいやらしさが含まれているようだし、女性から嫌われることなんてなんとも思ってはいない、というほど吹っ切れてはいなさそう。


 これもまた弱点となりそうなので頭の片隅に保存です。ただし、媚びを売るだの色目を使う的なことをしなくてはいけないとなると、さっきまでのか弱い女の子のふりなどとは比べ物にならないくらいのハードルの高さとなる。

 うん。使う機会なんてない方が良いのは間違いなさそうだわ。


 さて、あちらもやる気になったことだし、ボクの方も武器を取り出し……。

 あ、そう言えば新しい武器を作ってもらっている最中だった。仕方がないので訓練場の片隅に置かれていた練習用の模造武器を使うことにしようか。


 この提案はあっさりと認められた。どうも先にあちらの要望をのんでいたことに加え、いくら実戦形式の訓練といっても大怪我を負わせたり殺したりしてしまうのは問題だと考えたようだ。

 結果的に小物のヘタレな思考に助けられた形だね。


 さすがにハルバードは置いていなかったので、近い形状の長い柄の先に小さな片刃の斧が付いた武器――ポールアックスと言うらしい――を選びます。


「敗北の条件は、気絶するか負けを宣言すること」


 下種で三下な小悪党っぽい連中だけど、狂人の類ではなさそうなのでこのくらいでもいいだろう。

 これがバトルものやダークな展開の漫画とかアニメなら、敗北宣言ができないように喉を潰されるという危険も考えておかなくてはいけないところだけれど。


「ああ。それで構わないぜ」


 そしてあっさりと了承を返してくる男たち。人数に場数に恐らくレベルも上だろうから、負けるなだなんてことは一欠片も考えてはいないのだろう。

 だけどボクたちが格上相手の訓練なら嫌というほどやっていることを彼らは知らない。この点が切り崩すための第一歩となるだろう。


「ちっ!どうにも馴染まねえ」

「しょせん訓練用はどこまでいっても訓練用っていうことだろ」


 切り崩すための二つ目の足掛かりを発見。普段使いの物と練習用の武器との違いに四苦八苦しているもよう。

 玄人感を演出したいのかもしれないけれど、あれでは単に自分たちにとって不利な情報を垂れ流しにしているだけだ。

 もちろんボクもありがたく使用させて頂く所存であります。


「双方ともやり過ぎないように注意しろよ」


 審判に名乗りを上げてくれた冒険者――公平を期すため、ボクともハイパー以下略の連中とも面識がない人だ――による開始を告げる時が迫る。


「それでは……、始め!」


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