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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十四章 次の冒険に向けて

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337 こいつは誤算だったね!

 これは後から聞いた話なのだけれど、ちょうどこの頃、支部長であるデュランさんとおじいちゃんやゾイさんにサイティーさんといった高等級冒険者の内、ボクたち『エッグヘルム』と馴染みの深い人たちは揃ってクンビーラのお城へと呼び出されていたのだそうだ。


 昨日公主様を始めとした高位貴族たちに提案した、冒険者協会のクンビーラ支部を味方に引き入れる作戦、とその前提となる冒険者たちとの面談をさっそく開始していたのだ。

 まさか昨日の今日でそこまで素早く行動をしていただなんて……。クンビーラの本気を少々見誤っていたのかもしれない。


 公主様たちの行動力についてはこれくらいにして。実はこの他にもボクにとってよろしくない状況が重なっていた。

 その一つがクンビーラを拠点にしていた冒険者たちがこぞって仕事でいなくなってしまっていたことだ。


 ブラックドラゴンが居着いたということもあって、現在クンビーラには多くの人が訪れていた。たくさんの人が居るということは、それだけ大量の物資を必要とするということだ。

 それに応えるためにも、またはこの商機を逃してなるものかと流通も活発化しており、そうした旅の護衛として大半の冒険者たちが出払ってしまっていたのだった。


 一応、いくつかのパーティーなどは残っていたそうなのだけど、誰も彼もボクたちより等級が下の駆け出しばかりだったとのことで、さすがにそんな彼らではハイパー何とかの人たちを止めることはできなかったのだった。


 さらにさらに『冒険者協会』の規約にも足を引っ張られることになった。

 冒険者への過剰な支援が行われたり癒着などの問題が発生したりしないように、協会には元冒険者や冒険者経験のある者を職員とすることを抑えるという決まりごとがあったのだ。

 特に厳しいのがトップである支部長がそうであった場合で、特例を除き冒険者出身の者を新たに雇い入れることを禁じているほどだった。


 一等級の肩書を持つデュランさんが支部長を務めるクンビーラは見事にこれに当てはまる訳でして。つまり荒事を見ることには慣れていても、それを抑えられるだけの実力を持っている人がほとんどいないということだったのだ。

 ただ、受付のお姉さんたちをはじめ職員の人たちの名誉のために言っておくと、彼ら彼女らもただ黙って事の成り行きを見守っていた訳ではなく、いざという時には体を張ってでも止めようと考えていたそうだ。


 そんなことになっているとは露知らず。

 この時のボクは孤立無援になってしまったと思い込み、パニックで真っ白になりそうな頭をなんとか働かせながら、どうすれば良いのかを必死になって探っていた。


 対してハイパー何とかの連中はというと、ボクや周囲の様子がおかしいことに勘付き始めていた。さすがは小物。ちょっとした変化にも敏感なようだ。

 うーむ……。調子に乗りやすいといったデメリット部分をなんとかできるようになれば、小物はかなり便利な特徴かもしれない。

 ……まあ、そうなってしまうと既に小物とは呼べなくなるのかもしれないけれど。


「おい。あいつ、もしかすると……」

「いや、まて。見せかけだけ……」

「それこそ考え過ぎ……」

「何でもいいからやっちまおうゼ!」

「落ち着け。お前の暴走のせいで何度も……」

「だけど所詮は七等級……」


 断片的ではあるが、あちらの話し声が聞こえてくる。一部断片どころではない台詞もあったが、内容が薄い、意味がないという点では聞こえたところで旨みなどなかったのだった。


 それにしても会話を始める余裕すら出てきたのはよろしくないね。ボク一人に対して向こうは六人もいることも悪い方に働いている。

 話し合うことで状況を整理されてしまえば、ボクの目論見が破綻してしまっていることにも気が付かれてしまうだろう。


 いくら何でもこのままという訳にはいかない。

 だけど、そう思えば思うほど思考は空回りしていく。


 ……ふと視線を感じて我に返ってみれば、心配そうな顔でこちらを見つめるミルファたちの姿が。

 目立ちたくなくて人波に隠れるようにしていたネイトさえも最前列に出てきている。当然、その隣にはエッ君とリーヴも並んでいた。


「はふう……」


 まったく、一体何をこんなにも思い詰めていたのだろうね、ボクは。

 孤立無援?独りぼっち?すぐ側でこんなにも心配してくれている人たちがいるというのに、どの頭でそんな失礼なことを考えていたのだか。


 太陽の光に照らされた霧が晴れていくように、頭の中があっという間にクリアになっていく。

 そうなってくると現金なもので、悩んでいた「これからどうするべきか?」ということへの解決策まで思い浮かんでくるのだった。


 まあ、でも、これを解決策と呼んでいいのかは微妙なところではあるけどね。


 それというのも、思い付いたその策とは「訓練と称して男たちをコテンパンにのしてしまおう!」というものだったからだ。

 発想がひたすらに脳筋です。


 そもそも相手は小物ばかりとはいえ、それなりの年季を持っているだろう冒険者なのだ。

 勝つことができる確率となると、相当低いものとなるだろう。


 まともな思考の持ち主からは、「アホですか!?」と言われてしまいそうだよね。でも、これで問題ないのです。

 実はこれ、二段構えの策であり、本命はハイパー何とかの男たちをこの場に釘付けすることにあるからだ。


 だから例え負けたとしても構わないし、身体が動くようであれば何度も再戦するように話を進めればいい。

 そうそう、これだけ人手があるのだから巻き込んでしまうというのもアリかもね。見物しているだけだなんて退屈だろうからねえ。くっくっく。


 密かにほくそ笑んでいると、仲間たちがぽしょぽしょと小声で話しているのが聞こえてくる。


「ミルファ、なぜだかわたし、とても嫌な予感がしてきたのですけれど……」

「ええ。その感覚は間違っていないですわよ。リュカリュカのあの顔、あれは間違いなくろくでもないことを思い付いた顔でしてよ」


 失敬な!と叫びたいところだけれど、今回に限ってはその通りだから何にも言えないです。


「今の内に距離を取っておくべきでしょうか?」

「そうですわね。わたくしたちの身と心の安心のためにも、離れておく方が良いと思いますわ」


 そう言って最前列から逃げようとしていたミルファたちだったが、みっしりと詰まった見物人たちを押しのけることができずに、結局その場で待機することになったのだった。


 ふふふ……。

 逃がさないよお。


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