336 後は任せ……、られない!?
ボクが冒険者協会の後ろ盾を得たと分かるや否や、男たちは急におどおどと挙動不審になり始めた。形勢が不利になった途端に態度を変えるだなんて、これ見よがしな小物っぷりだねえ……。
もっとも、小物だからこそ状況の変化に気が付くことができたという可能性は否定できないものがあるし、彼らがこれまで生き延びてくることができた理由の一つとなっていたのかもしれない。
そうであるならば、危険と隣り合わせの冒険者という職業に限るものの、小物であるということは世間一般でのイメージよりも上方修正するべき事柄なのかもしれないね。
まあ、だからといって絡まれたことを水に流してやるほど甘くはない。
闇討ちをほのめかした上に、ボクが大事に想っている人を無差別に傷つけると宣言したのだ。
「こちらとしてはそんなことを考えられないくらいに徹底的に力量の差というものを思い知らさないと、安心して出歩くことすらできないからね」
ついでだからニヤリと好戦的な笑みも浮かべてあげよう。うふふのふ。狂気じみた美人さんの顔は怖いわよ。
案の定、男どもは恐怖に顔を引きつらせておりますですよ。特に背後から近付いていた二人などは、ボクが振り返ったことで真正面に立つことになり、無意識のうちに一歩二歩と後退ってしまっていたのだった。
それにしても『超絶重圧団』だなんて御大層な名前をよく付けたものだよね。完璧に名前負けしていることに加えて、中二的な意味合いでも痛々しいわ。
しかもボクみたいな小娘一人の威圧感に押し負けているのだから、彼らにとっては悪夢を見ているような気分かもしれない。やっぱり自業自得だけど。
ちなみにネイトさんの強い希望を受けてなのか、現在ボクのパーティーメンバーの方々は野次馬に紛れ込んで完っ璧に赤の他人のふりをしていた。
元々彼女はそれほど人付き合いが得意な方でもないし、目立つことにも消極的だからある意味当然の選択といえるだろうね。
ボクとしてもミルファやエッ君が飛び入りしてくるのは避けたい未来その一であるので、特に異論はありませんです。
……まあ、ちょっと寂しく感じなくもないけどさ。
「それじゃあ、移動しようか」
「お、俺たちをどこに連れて行く気だ!?」
これは少々薬を効かせ過ぎたかな?
まさかここまで極端にビビるようになるとは予想外もいいところだ。
「ここで派手に動き回る訳にはいかないでしょ。心配しなくても奥の訓練場に行くだけだよ」
理由としてはもう一つ、逃げられ難くするというのもあったりします。奥という言葉の通り、そして訓練場という場所柄丈夫な造りとなっていることから、簡単には逃げ出せないようになっているのだ。
その堅牢さは折り紙付きで、おじいちゃんに勝負を挑んだ複数の冒険者パーティーが返り討ちにされて心を折られた際、逃げようとするも逃げ切れずに徹底的にしごかれるということがあったくらいだ。
もっとも訓練から逃げ出そうとするような連中が大成できるほど冒険者という職は甘いものではない。結果、その一件以外には訓練場から逃亡を図るという事例は起きていないのだった。
ボクとしてはハイパー何とかの人たちだけ連れて行ければそれで良かったのだが、どうやら体の良い娯楽として認定されてしまったようで、野次馬していた冒険者たちの大半もぞろぞろとついてくることになったみたい。
まあ、ボクみたいな美少女がむさ苦しい中年のおじさん連中と戦うとなれば、見世物扱いされても仕方はないかな。
また、お姉さんとの会話は特に音量を絞ったものではなかったので、七等級になったばかりということが聞こえていた人も多いはずだ。
それにもかかわらず、先ほどからボクの方は勝つ気満々の台詞を何度も口にしている。
勝利のための秘策でもあるのではないかと関心を持っているのかもしれない。
そんなものある訳ないんですけどね!
さて、そろそろボクが何を狙っていたのかを話しておきましょうか。
ハイパー何とかの連中を訓練場に連れて行くと、何とそこにはおじいちゃんたちやデュラン支部長がいるではありませんか!
後の処分は彼らにお任せ。煮るなり焼くなり好きにしてください。
それではボクはこの辺で、失礼します。
……と、こうなる予定だったのだよね。
クンビーラの冒険者協会からすると、冗談でも何でもなくボクは取扱注意の危険人物に相当する。
ブラックドラゴンを守護竜にした立役者であり、それをきっかけにして公主一族とも親密な関係を築くに至っているため、一介の冒険者とは単純に言えなくなっているからだ。
ついでに言えば冒険者登録をする以前の、いわば一般人だった時のボクに当時冒険者だった人たちが絡み、それを協会側が見逃してしまうという大チョンボをしでかしている。
しかも場所が冒険者協会の建物でクンビーラ所属の騎士であるグラッツさんが同行していたという、絶対に言い逃れが利かない状況だった。
元々その連中が難癖を付けようとしていたのが騎士であったこと、おじいちゃんこと一等級冒険者のディランがとりなして場を治めたこと、そして同じく一等級冒険者で支部長でもあるデュランさんが騎士団の詰所に足を運んで頭を下げたこと等が考慮され、大きな騒ぎや問題点となることは防がれたのだった。
とはいえ、ここにボクという存在を表沙汰にはしたくなかったクンビーラ側の思惑が絡んでいたことは周知の事実であり、冒険者協会はクンビーラに大きな借りを作ることになってしまっていたのだ。
そして様々な出来事や事件を経て、ようやく上手に協力体制を構築できたと思っていた矢先に先日の一件を思い出させるような事件発生となれば、後のない冒険者協会は事が大きくなる前に全力で対処しなくてはいけなくなるだろう。
それこそ支部長のデュランさんや一等級冒険者のおじいちゃんが出張ってくるほどに。
ところがどっこい、訓練場へと男たちを連れて来たが、肝心の後を任せる人が一人もやって来ないではありませんか!?
場所を変えたものの、何も始まる様子がないことに野次馬冒険者たちがざわつき始めている。
しかし、この時のボクにそんなことを気にする余裕はなかった。
あれれ?もしかして見立てが狂ってた?
だとすれば一人で勝手に自分が重要人物だと思い込んでいたことになるのですが!?それはとっても恥ずかしいんですけれども!?
こんな具合で内心パニックになりかけていたもので。




