331 それからの昨日の出来事
さて、明けて翌日です。
昨日はクンビーラの上位貴族たち相手に地下遺跡での出来事を報告したり、これからの行動方針を決めたりと何かと忙しい一日となってしまった。
しかしながら昨日一日として見てみると、これらの出来事はまだまだ前哨戦というものだった。
その後には公主様と宰相さんのツートップ――と、おまけのエル――を相手に、ボクが『異次元都市メイション』へと行き来できることや、チーミルやリーネイを紹介したことでさらに一悶着があり……。
これらについては最終的に黙認並びに余計な騒ぎに発展しないように根回しをしてくれることになったのだけど、宥めたりすかしたりおだてたり煽ったりとそこまで持っていくのが本当に大変でしたよ。
結局お城での用事を終わらせるだけで午前中が終わってしまい、妙に疲れた気持ちでお昼ご飯のためにログアウト――言い忘れていたけれど、今日は土曜日なので一日中ゲームができるのだ!ビバ、週末!――することになってしまった。
そして心機一転、街に出て情報収集をしたり、アイテム類の補充をしたりしようと考えていたところ、宰相さんから装備品を新調するようにというお達しが。
しかも代金は全額クンビーラが持つという太っ腹宣言!
とはいえ、これに素直に「ありがとう」と言えるのはミルファくらいなもので。ブラックドラゴンの一件でもらった報奨金が残っていることを理由に、なんとか辞退することに成功したのだった。
そんな心臓に悪いやり取りを経て、いつもお世話になっている武具屋兼鍛冶工房の『石の金床』へとやって来たところ、ここでもまた予想外の驚きの事態に直面することになる。
「おう、ようやく来やがったな!異次元都市だろうが何だろうが、どこの誰に見せても恥ずかしくないものを作ってやるから覚悟しておけ!」
店に入って早々に店主兼工房主兼親方であるゴードンさんから、そう宣告されてしまったのだ。
どうしてメイションのことを!?と考えたのも束の間、元々このお店はクンビーラの騎士や衛兵さんたちの御用達の一つだったことを思い出す。
その上、日頃のボクの行動はかなり詳細に上役へと報告されているらしい。
つまり、指示に従ったボクたちが訪れることなど、宰相さんにとっては丸分かりだったという訳だ。
あらかじめゴードンさんに通達しておくくらい、お昼ご飯前の軽い雑用としてちゃちゃっと済ませてしまったのだろうね。
余談だけど、わざわざ『異次元都市メイション』の名前を出したのは、ゴードンさんたちのやる気を引き出すためだったのではないかと思われます。
どうしてそう思うのかって?
目の前で対抗意識を燃やしながら気炎を上げている様を見せつけられれば、嫌でもその答えに辿り着くっていうものだよ……。
こうして、クンビーラ在住の頑固職人たちの威信をかけて――いつの間にか話が大きくなっていませんかね!?――オーダーメイドの武具を作成してくれることになったのだった。
あ、採寸関係はゴードンさんの奥様を始め、女性陣が行ってくれたので問題はなしです。
……なんだかやたらと際どい部分を触られていたような気もするけれど、うん、問題なし、だった、はず。多分……。
特にボクのハルバードは、メイションのプレイヤーメイドの品と競合することになるということで、重心から荷重から形状の隅々に至るまでとことん詰めることになりまして。
そのため、工房奥の裏庭でひたすら棒や槍や長柄の斧などを振り回す羽目になったのだった。
「よし。振る動きはこれくらいでいいだろう」
「や、やっと終わった……」
「次は突きの動作の確認だな」
「…………」
半泣きでその作業をこなしていったのは言うまでもないと思う。
それでも将来的には自分に返ってくるものだと思えば、手を抜くことなんて絶対にできない訳で。
それ以前にゴードンさんたちの熱気が凄まじくて、いい加減な態度で臨むなんてことを思い付きもしなかったというのが本当のところだったような気がする。
「リュカリュカのハルバードは、明日までに試作品を作っておいてやるからいつでも取りに来るといいぞ」
「え?試作品ですか?」
「おう。異次元都市の連中にもリュカリュカはハルバードの発注を出すんだろう?それなら早いとこわしらの力量を見せつけてやるべきだろうからな」
あのハルバードを作ってくれた鍛冶師のプレイヤーさんには挨拶はしておくつもりではいた。が、新しく作ってもらうかどうかはその後で決めるつもりだったのだ。
が、気が付けばそれを言い出せる状況では既になくなってしまっていた。
そもそもの話、プレイヤーたちの作ったハルバードと比較して出来栄えの良かった方を使う、なんてことは一言も言ってないのだけどね……。
「もちろん、他の武具にも全力で当たらせてもらうぞ」
うん、その心配はしていないかな。『OAW』はこういうところは基本に忠実なところがあるので、職人という職業柄に加えてドワーフという種族的にここの人たちが仕事に手を抜くような真似ができるとは思えないもの。
この点はミルファたちも同じだったようで、口々に「信頼している」とか「出来上がりが楽しみだ」的なことを話していた。
「おいおい、おだてたって何も出ねえからな!」
なんて素っ気ないことを言っているけれど、揃いも揃ってデレッデレの顔をしているから喜んでいるのが丸分かりとなっております。
まあ、ミルファもネイトもリアルでならばなかなかお目に掛かれないレベルの美少女だからね。男性ならこういう反応になるのも仕方がないってものなのかもしれない。
さて、全くもってそんなつもりはなかったのだが、結果としてすっかり長居してしまった。いい加減、そろそろお暇しないといけない頃合いとなっている。
ついでに言うと、頭の中で思い描いていた今日の予定も完全に狂っていた。特に急ぐ用件はなかったとはいえ、何だかひどく負けた気分になってしまう。
店を出た途端目に入ってきた夕焼けでほんのり赤く色づいてきた空に、無性に徒労感を感じてしまうのだった。
「リュカリュカはかなりのお疲れさまでしたね」
「通り一遍の型を披露したわたくしたちとは違って、ぶっ続けでしたものね。冒険者協会での訓練よりも厳しかったのではなくて」
そんな哀愁漂うボクの背中を見ていたたまれなくなったのか、ネイトとミルファが苦笑まじりに励ましてくれたのだった。




