326 ハルバードの購入先
地下遺跡でのドラゴンタイプとの戦闘で使用していたボクのハルバードが壊れてしまったことを尋ねてきたかと思えば、宰相さんと公主さんはなんと新調することになるハルバードを、『墓所探索』達成報酬のボーナス分として用意するのはどうかという提案をしてきたのだった。
「ちょ、ちょっと待ってください!それだとボクばかりが報酬を貰うような事になってしまうんじゃないですか!?」
いくらエッ君やリーヴが活躍した分がボクへと加算されるのだとしても、これはいくらなんでも貰い過ぎというものだろう。
「そんなことはありませんよ。メンバーの戦力が増すということは、結果的にはパーティー全体の恩恵となることですから」
尻込みして拒否しようとするボクの横からネイトが割って入ってくる。
うーん……。そういう考え方もアリだとは思うけれど、ボーナス分の全てをこれに費やすというのもどうなのよ。
「良いのではありませんか。どうせあなたの武器を新調するのは決定事項なのですから、どういう形で受け取ったとしても、最終的に同じことになるはずですわよ」
と、さらにミルファもまた身も蓋もない未来を突きつけてくる。
いや、その通りなんだけど!その通りなんですけど!
「まだ迷っているようですね……。それではこう言いましょうか。この依頼を受けたのはリュカリュカなのですから、あなたが一番多くの報酬を得るべきなのですよ」
まさに聖女の微笑みと言わんばかりの穏やかな顔で見つめてくるネイト。
だけどボクは知っている。この表情を浮かべた彼女が決して前言を翻すことはないことを……。
「……了解。だけど前のハルバードを作ってくれた人にも相談しておきたいから、一旦はお金でもらえる方がありがたいかも」
「そういえば、いつの間にかあのハルバードを持っていましたわね。無骨で粗削りなところもありましたが……、何と言いますか可能性のようなものを感じられましたの。できることなら購入先を知りたいところですわ」
きゃー。これはまた答え辛いところに踏み込んでくるじゃないのさ!?
というか、ミルファってばそんなことを考えていたの?それらしい反応なんてなかったから、全く気が付かなかったよ。
そしてそんな娘の意見に、きらりと――ギラリと?――目を光らせる宰相さんがいた。
「ほほう。実の娘のことなのでやたらと口にすると、親バカだのなんだのとからかい混じりに言われてしまうためにこれまで黙っていたのだが、こやつの物を見る目はなかなかに優れているのだ」
とっても説明口調な台詞をありがとうございます。
後からミルファに聞いた話だけど、実は〔目利き〕なる技能を持っているのだそうだ。ただしこれには本人の知識や経験が大きく関係しているらしく、初見の物などは正確には見抜けないとのこと。
例えば仮にボクがこの〔目利き〕技能を持っていたとして、これまでの――ゲーム内での――経験から店に並べられている薬草類や薬品類の価値や品質などを見極めることはできても、美術品や工芸品などの価値や品質については前者ほどしっかりと見極めることはできない、ということになるのだ。
要するにミルファの場合は、幼少期から騎士団に入り浸っていたことで様々な武器を目にする機会があったので、武具への〔目利き〕も高い効果を発揮していたということになるらしい。
「そのミルファがそこまで褒めたとなると、相当な業物であったのかもしれぬな」
「なんと!?……それは直にこの目で見られなかったことが悔やまれるな」
「リュカリュカのあの行動があったためにこうして無事に帰ってくることができたとは分かっていますが、そのように良い物であったと知ってしまうと、紛失してしまったことが惜しく思えてしまいますね」
宰相さんの一言で、ミルファ親子だけでなく公主様やネイトまで興味を持った様子。
製作者のプレイヤーさんいわく「練習用で試しに作ってみただけ」の物だったらしいのだけど……、言い出しにくいなあ。
それ以前にこれ、どうにかして誤魔化せるものだろうか?
時期的には『ファーム』を買い付けにヴァジュラへ行った頃と重なるので、あちらで購入したと言えないことはない。
が、あちらの有力者である『闘技場主』によるクンビーラへのちょっかいなど、現在水面下では微妙な関係となってしまっている。下手なことを言うと、公主様たちに不必要な危機感を持たせてしまうことにも繋がりかねないのだ。
詰んでいる、よねえ……。
実際のところ、まだ足掻く余裕は残されているとは思うけれど、そこまでして嘘を嘘で塗り固めていくことに意味があるかと問われれば、疑問が残ると答えざるを得ない。
そんなことでせっかく得た信頼を失ってしまうよりは、これはもう諦めて素直に全部話してしまう方が賢明かもしれない。
「はあ。分かりました。どうせ公主様が気にしていたヴァジュラへの小旅行のことともかかわってくることですから、全部お話しすることにします」
「その口ぶりから察するに、衝撃的な出来事であったようだな」
宰相さん、大正解です。
ええ、ええ。あの時大変だったのはブラックドラゴンを囲んで式典を行っていたクンビーラだけではなかったのですよ。
その事をじっくりと語ってあげるとしましょうか。
――かくかくしかじかまるまるさんかく。
という具合に、合同公式イベントや『笑顔』のことには触れないようにしながら、あの旅とその後に遭遇することになった珍事件の数々を話していったのでした。
「……『異次元都市メイション』だと?古代魔法文明期よりは有名ではあるが、それに反して信憑性の方は薄いとされていた伝説の都市ではないか……」
「いや、伝説というよりはもはやお伽噺の類に近いものであろうよ。なにせ現世での距離に関係なく大陸の様々な場所から人々が集まってきているという話であったのだから」
「そんな所に出入りできるとか、ありえへん……。何なん、あの子?おかし過ぎやろ……」
人形の件で既に一度話をしており、多少なりとも耐性が付いていたミルファやネイト、うちの子たちはともかく、初回で完全な不意討ちの形となってしまった公主様や宰相さん、エルの三人はその突拍子のなさに半分心ここにあらずの具合となってしまっていた。
うん。予想通りというべきなのか、影からの護衛役ということなのだろう、彼女もまたこの場に立ち会っていたみたい。
そしてこれまで以上に失敬な評価を頂いてしまったもようです。




