325 ぼーなすの行方
場合によっては『OAW』内での進行状況が明らかになることもある、というとっても重大な項目を無意識スルーしていたことにボクは盛大に凹むことになった。
え?『冒険日記』を提供しているのだから今さらの話?
ノンノン!それは大違いなのですよ!
ランダムイベントの『竜の卵』をクリアしてしまうという珍しい出来事が発生した――この点に関しては諦めてそろそろ認めてあげましょう――ものの、それ以外のことはいたって普通なゲームのプレイ日記ですから。
例えば「道端に転がっていた剣を拾ったら、伝説の意志ある剣で強制的にマスターにされてしまった」とか、「ある国で騎士になったのはいいけれど、初任務が悪い魔法使いに攫われたお姫様の救出だった」とか、「酒場で意気投合した女性は実は復活したばかりの魔王で、彼女を狙う自称勇者や元魔王軍参謀たちとドタバタ逃亡劇を繰り広げることになった」等々などなど、そんなびっくりドッキリな展開――ゲーム内ではあるけれど、これ全て実話です――になっているプレイヤーさんたちに比べれば、全くもって大したことないと言えるだろうね。
ちなみに、どれも『竜の卵』と同じくランダムイベントそもそもの始まりになっているそうで、そのためかリアルの巷では『OAW』のことを「当たらなければどうということはないゲーム」、つまりランダムイベントにさえ遭遇しなければ、至って平穏に自分の思い描いていた通りのストーリーを――概ね――進めていくことができるゲームだと思われているとかなんとか。
幸いこれが元で新規参入者が減ったという話はないようだけど、一歩間違えば『OAW』運営は、自分で自分の首を絞めることになっていたかもしれない。何やってるんだか……。
「あ、そうだ。ついでに聞き馴染みのない単語も調べておこうか」
ということで気になった単語、『ワールドイベント』についてヘルプに書かれていたのがこちら。
『ワールドイベント。
クリアすることで一つの節目となる規模の大きなイベントのこと。
しかし発生したからと言ってクリアが必須というものではなく、プレイの仕方によっては努力目標だったり目安的なものとなったりする場合も多々ある。
お気軽にご参加ください』
とのこと。最後の一文のせいで重厚さとか荘厳さとかが皆無ですよ。
まあ、ボクの場合はその先にある浮遊島の死霊たちの討伐が目標になっているから、クリアは必須ということになるだろうね。
その説明内容が微妙な感じだったのはともかくとして、そのお陰で気持ちをリセットできたのは確かだ。
ヒッヒッフーと一つ大きく息をしてから両手で軽く頬を叩く。
よし。落ち着いた。
全体インフォメーションには驚いたけれど、ボクのやるべきこと、やらなくちゃいけないことという点に変化がある訳じゃない。
時間も残り少なくなってきたことだし、さっさと『OAW』へと戻るとしましょうか。
「リュカリュカ?ぼうっとしているようですが、どうなさったの?どこかお加減が悪くなったのではなくて?」
うわあ!
いきなり目の前に美少女が現れるのは色々な意味で心臓に悪いよ。
「ううん、平気。……ただ元々の依頼内容と大きく違ってしまったなと思ってさ」
と、そんな気持ちはおくびにも出さずに無難に無難で無難な答えを返しますですよ。
「ああ、そういうことですの。ふふふ。確かにご先祖様の墳墓探しだったはずなのに、結局は古代に作られた地下遺跡でしたものね。まさかまさかの大冒険でしたわ」
くすくすと笑う動きに合わせてミルファのドリル、もといゴージャスな巻き髪も揺れていた。
それにしてもこう、にょんにょん揺れているのを見ると、同じ巻き巻きでもスプリングなバネを思い浮かべてしまうね。
スプリングヘアー。
うん、響きだけならアリかもね。本人が納得するかどうかは微妙だけど。
ふう。そんなことを考えている間にようやくミルファのドアップの衝撃も薄れて平常心を取り戻しつつあるような気がする。
ところで、会話の方はどこまで進んでいたのだったかな?……ああ!指名依頼の完了で、報酬の方にはボーナスを付けてくれそうなのだったよね。
へっへっへ。公主はん、宰相はん、まいどおおきに。
「話は少々変わるが、リュカリュカよ。あの地下遺跡探索の際の戦いで武器が壊れてしまったというのは本当なのか?」
「ええ、本当ですよ。止めとばかりに壊れた柄の部分まで突き込んだので、手元には破片の一欠片すら残っていませんけれど」
そのためドラゴンタイプが消滅するのと一緒に消えてしまったのだ。
この辺りの処理のされ方がいかにもゲームだよね。
「その話は我も聞いた。まったく予備の武器くらいは持っておかないと、いざという時に戦えないというのでは話にならんぞ」
なんとまさか公主様にそんなことを言われるなんて。しかも随分と実感がこもったお言葉でしたよ。こう見えても単に守られるだけではなく、実は戦うための訓練とかもしていたのかな?
……いや、それよりもこの人のことだから、護衛の人たちをまいて一人だけで街の外に出かけたことくらい何度もありそうな気がする。多分その時に体験したことを語ってくれているのではないかな。
「予備の武器ならちゃんと、初心者用ナイフを捨てずに大事に持っていますよ」
捨てることができないという方が正確だけど。
しかし捨てるつもりもないからどちらでも問題ないです。
「それは倒した魔物の解体や、薬草類の採取の際に使用するものだ。そんなものは武器とは呼べぬだろうに……」
あらら?ちょっと意外だったけれど、NPCの人たちからすればそういう扱いになるのか。
まあ、耐久値がなくて壊れない性質が問題にならないように、適度に誤魔化されているのかもしれない。
「ふうむ。……確かリュカリュカは、この地下遺跡探索に赴く前くらいからハルバードを使用するようになっていたのだったか」
「あ、はい。……そうですけど、それが何か?」
片手で少しだけ伸びた顎髭をさすりさすりしながら口を開いた宰相さんに尋ね返す。
……なんだか無性に重圧というか嫌な予感が湧き上がってくるきがするよ。
「叔父上、どうされたのですかな?」
「ハルバードという武器はそれ一つで多様な攻撃ができる反面、扱いが難しいと聞いた覚えがあってな。当然、扱う人物に合わせた調整も細かいものとなるそうなのだ」
「なるほど。つまりは報酬につける色の部分を、新たなリュカリュカの武器で賄おうという訳ですか!」
なんだかまた妙な方向に話が進みそうな予感が!?
〇ワールドイベントについての補足。
全世界をまたにかけた内容となっているのが特徴で、『天空の島へ至る道』の他に『復活を目論む魔王を討て!』や『覇道極めし大陸の帝王』、『世界の不思議を発見だ!』などなど数種類が用意されている、らしい。
一応、クリアボーナスはすっごいものになる!予定。




