322 新しいイベント
「まあ、そのようなことを式典でブラックドラゴン殿に誓ってしまった手前、彼の御方に匹敵するやもしれぬ強大な力を秘めた空飛ぶ島を我がものにするなどという恥ずかしい真似はできないという訳だ」
後、見ようによってはブラックドラゴンを切り捨てようとしているようにも見えてしまうかもしれないものね。
恥ずかしいどころか、信義にもとるとして各所から総出で非難されかねない。
「それとだな、この際はっきり言っておくと、今の我々に空飛ぶ島に手を出せるほどの余裕はないのだ」
「あれ?そうなんですか?」
「守護竜という立場がどう言ったものかを周知するなど周辺各国への対応に始まり、ブラックドラゴン殿にちょっかいを出そうとするバカどもの排除と、上は公主の我から下は衛兵部隊の雑用係まで、やることが山積みになっているのだ!」
お、おおう……。ズバリ言われてしまいましたよ。
「えーと……、なんか申し訳ないです」
例え経緯がどうであろうと、ブラックドラゴンにクンビーラの守護竜になれとけしかけたのはボクだからね。それでいて後の一切のことを任せていたのだから謝るくらいはするべきではないかと思ったのだ。
「いや、こちらこそ余計な気を回させてしまったようだ。当時の報告も聞いているが、あの選択が最良のものだったというのは理解している。リュカリュカには本当に感謝しているのだぞ。先ほども言ったと思うが、守護竜となってくれたお陰でクンビーラはかつてない防衛戦力を手に入れたのだからな」
公主様の言葉にうんうんと頷く貴族たち。表情は穏やかでその裏に隠された感情があるようには思えなかった。
間違ってはいない。そう後押ししてくれたようで、ほんわかと温かいものを胸の辺りに感じながら、ボクはぺこりとお辞儀をしたのだった。
「ともかく、我らとしては現状空飛ぶ島は必要とはしていない。残されているだろう大陸統一国家由来の品々については……、まあ、物によりけりであろうな。詳しいことはその時になってみないと何とも言えんというのが本音なところだ」
「そもそもの話ですが、高度な技術を誇る当時の魔法等がふんだんに使用された品々を、我らが操ることができるのかどうかですら怪しいところでありましょうからな」
「うむ。コムステア侯爵の言う通りだな」
聞きようによってはかなり無礼な台詞とも取れる侯爵さんの発言を肯定し、さらに呵々と大きな声で笑い始める公主様。
お忍びで頻繁に『猟犬のあくび亭』へと通っていることも含めて、何とも豪快なお人であることで。
「空飛ぶ島に関しても同様のことが言えるかもしれぬが、もし自由にできるとなったとしても、人目につかぬように封印するという方向で対処することになるであろう」
大陸統一国家時代の遺産で、しかも今よりも優れた魔導技術を駆使して作られているかもしれないから、道義的にも心情的にも簡単に破壊するという訳にはいかないのだろう。
かといって大勢の耳目に晒されてしまえば、それこそ浮遊島を巡って争いが起きてしまう。
封印するという公主様の判断は妥当なものだと感じられた。
「次は具体的な行動であるが……。リュカリュカよ、そなたたちは本当に空飛ぶ島への行き方を探るつもりであるのか?」
「はい。色々と知ってしまったからには、今さら後には引けませんので」
「そうか。ならばクンビーラ公主として冒険者パーティー『エッグヘルム』に「空飛ぶ島に関する調査への協力」を要請する」
《イベント『天空の島へ至る道』が発生しました》
「え?ふえ?……ええええええ!?」
最初が公主様の台詞に対して、次が突然視界に現れたインフォメーションに、そして最後が二つのことを理解したことによって発せられた叫びということになります。
何を他人事のように言っているのかって?
いやあ、ビックリし過ぎて現実感がなかったんだよね。まあ、VRの世界な訳ですが。
「それほど驚かれてしまうとは予想外だったぞ。てっきりそのつもりで先の発言があったものだと思っていたぞ。フォローうんぬんと言っていたからな」
「その気がなかったかと言えば嘘になりますけど、ここまでしっかりとクンビーラからの要請になるとは思っていなかったもので……」
実際のフォローやサポートの体勢はさておき、建前上では精々ボクたちの動きを黙認してくれる程度のことになるのではないかと思っていたのだ。
それに指名依頼になっている墳墓探索が、正式にはまだ終わってはいない状態であることも関係していた。
要するに、完了したという合図があって初めて次のイベントなどが発生するものだと思っていた訳ですね。そのため、このインフォメーションはボクからしてみれば完全に不意討ちとなったのだった。
「しかし今回は少々表には出せないことが多過ぎるからな。もちろん書面を作り正式な要請とし、必要があれば援助は行う上、結果いかんでは相応の報酬も出すつもりではある。だが『冒険者協会』を通すことはできないため指名依頼という形にはできないので、どのような成果を上げたとしても冒険者としての実績には加算されることがない。我も心苦しく思っているのだが、現状ではどうにもならないのだ。すまないがこの点に関しては我慢してもらいたい」
「いえいえ。途中の援助だけでも、まったくもって十分過ぎるほどですから!」
冒険者としての実績、なんて言っているけれど、これが関係するのは冒険者の等級だけだ。
等級は分かりやすい評価なので高いことに越したことはない。受けられる依頼やクエストの種類も増えるしね。
でも実は、絶対に上げなくちゃいけないというものでもないのだ。
それというのも結局は自分のレベルや能力に即したものでないと、依頼やクエストを受けても無駄に苦労することになったりクリアできなかったりするためだ。
そしてボクたちはまだまだ駆け出しに近いレベルとなる。
一端の冒険者として見てくれるようになる七等級にさえ上がることができれば、それ以上の等級は今のところ必要ないとすら言える。
そしてそれくらいであれば、クンビーラ周辺で数回クエストをこなす――戦闘力を考慮されることが多いので、魔物の討伐系クエストが狙い目だそうだ――ことができれば十分に到達できるだろうくらいにはなっていたのだった。




