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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十三章 報・連・相食べま……、やってます

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320 円滑な進行のためには茶番も必要です

 原始的だろうが何だろうが、人が人を見るということが一番の選別方法になることは間違いないと思う。

 これだけ自動化が進み人工知能が発達したリアルの現代ニポンにおいても、直接顔を合わせる面接が重要視されていることにはそういう理由があるからなのではないだろうか。


「ああ、でも、注意点が一つ。こちらが見極めようとしているということは、相手の側もまた見極めようとしているということですから。下手な態度で臨めば見限られてしまうのはこちらの方ですよ」


 この点がリアルとの大きな違いと言えるんじゃないかな。面接する側とされる側がはっきりしていて力関係が決まっているあちらとは異なり、今回の場合では特にそうはいかないことになるはずだ。

 貴族による冒険者の面接と、一見すれば力関係が決まっているようではあるが、冒険者というのは究極的には根無し草であるため本当に意に沿わないことであれば合意せずに出奔してしまうという手段が取れてしまうのだ。


 もちろん悪い意味で権力者から目を付けられてしまうと、後々にまで影響を受けてしまうこともあるだろう。が、それすらも武勇伝的な意味合いでプラスに転換することができるのが冒険者という職業であり人種だったりする。

 よって、時には目を付けた権力者の側の方が、巡り巡って不名誉を押し付けられてしまうことだってあるのだ。


「コムステア侯爵、この回答でいかがでしょうか?」


 ちゃんとお眼鏡にかないましたかー?

 後の説得はお任せしてもいいですかー?

 そんな気持ちを抱きながら問いかける。果たして審判(ジャッジ)はいかに!?


「……良いだろう。そこまで言うなら冒険者一人ひとりをしっかりと見極めていくとしようではないか。その際には曇りなき目で見ることを誓おう」


 そう言って侯爵さんは小さくニヤリと不敵に笑う。

 どうやら無事に及第点はクリアできたようだ。


 さて、一応解説しておこうか。侯爵さんとの今のやり取りだけど、一切言葉を繕わずにかつ誤解を恐れないのであれば、はっきり言って『茶番』ということになる。

 別にあらかじめやり取りを打ち合わせていたということではない。ただ、実のところ侯爵さんが自分で言ったほど、口を差し挟まなくてはいけない状況ではなかったのだ。


 ではではどうしてわざわざしゃしゃり出てきたのか?

 これまた誤解を恐れずに言うと、伯爵たちから難癖をつけられるのを防ぐためだ。


 これまでのやり取りで分かってもらえているとは思うけれど、伯爵たちは別にボクたちの敵という訳じゃない。バックアップの件は有耶無耶にされたけれど、あれはこちらも本気で言っているのではないと理解した上でのスルーだったので、実際に必要になった時には手間暇惜しまずに協力してくれそうな気がする。


 とはいえ、ミルファを冒険者として出歩かせることには反対であることもまた間違いない。業界で言うところの「それはそれ、これはこれ」というやつだろうね。

 この件に関しては理屈ではなく心情的なものが大きく影響してしまうということもあり、まともに話したところで聞き入れてはもらえないという可能性があった。


 ところが侯爵さんが先んじて反対意見を述べた上、それをボクが納得させるという手順を踏んだことにより、それ以上伯爵たちは反対できなくなってしまったという訳です。


 余談だけど、ボクが驚いていたのは侯爵さんのヘルプがなくても押し切れると考えていたからだ。

 まあ、今から考え直してみると屁理屈な上に強引な解釈と、かなりの無茶をしていたことが分かるので、仮にこちらの主張を押し通したとしても伯爵たちとの間に決定的な深い亀裂ができていたかもしれない。

 それに勘付いたため――多分、公主様や宰相さんも気が付いていたと思う――侯爵さんは、双方に角が立たないように助け舟を出してくれたのだろう。


「ミルファシア様にも楯突くような真似をして申し訳ありませんでしたな。近い将来義父になるやもしれぬと考え、つい先走った真似をしてしまいましたわい」

「ぎぎぎぎぎ義父!?そそそそ、そうですわよね!ロイと結ばれた暁にはお義父様になられるのですから!わたくしのほうこそ心配ばかり掛けさせてしまい申し訳ないと反省しきりですわ」


 わーお。完熟リンゴや完熟トマトに負けないほど真っ赤っかになっちゃって。

 ミルファってば結構恥ずかしいことを口走ってしまっている訳だけど、錯乱しているから絶対に気が付いていないよね。

 いつものごとく一番の被害を被っているのは、巻き込まれる形となったバルバロイさんだろう。まあ、ミルファみたいに美人さんでいい娘を嫁にできるのだから、それくらいは甘んじて受けてもらおうか。

 公主様たちも同様な考えなのか、心底楽しそうにニマニマしておりますですよ。


「さて、雑談はこのくらいにするとしてだ。今後もミルファシアがリュカリュカのパーティーメンバーとして活動していくことに異論はないな?」

「我らとしては安全なこの地に留まって頂きたかったというのが本音ではありますが……。まあ、ミルファシア様の御気性からして無駄でありましょうな」


 苦笑いを浮かべながらついに白旗を上げた伯爵の三人です。

 良かった。これでこれからもミルファと一緒に冒険を続けられるよ。


「むう……。色々と諦められたように言われるのは釈然としませんわね」


 口を尖らしてそんなことを言っているミルファだけど、そこは彼女の自業自得というか、これまでやらかしてきたことに対する判定の結果なのだから甘んじて受け入れるしかないんじゃないかな。


 ……なんだか油断しているとネイト辺りから生温かい視線を向けられそうなので、この話題についてはこのくらいにしておこうか。

 戦略的撤退なのですよ。


「ですが、くれぐれも御身を大切にして頂けますよう」

「リュカリュカにネイトよ、ミルファシア様を頼むぞ」


 懇願するような態度を取られてしまっては無碍にする訳にもいかない。ボクたちは顔を見合わせてから揃って頷く。


「大船に乗ったつもりで安心してくれとは言えません。危険なことはしないと確約することもできません。でも、ボクたちにできる限りのことはするという約束だけはさせてもらいます」


 消極的だと呆れられるかもしれない。

 頼りにならないと不安がられるかもしれない。

 それでもボクは彼らに対して真摯(しんし)な態度でいたかったのだ。


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