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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十三章 報・連・相食べま……、やってます

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319 新たなる刺客

 ミルファが陥落?したことにより、伯爵たちが食い下がることができる項目は一つとなっていた。


「だ、だが、本当にそんな当てなどあるものなのか?」


 これさえなければ動きようがないのだから、指摘してくるのは当然のことだろう。

 はい、という訳で口から出まかせではなく、ちゃんと当ての方も考えてありますよ。まあ、思い付いたのはこの会議が始まってからのことなのだが、そこまで詳しくこちらの内情をお知らせする必要はないだろう。


「地下遺跡に飾られていた壁画の一つに大霊山を例の浮遊島を描いたものがあったの。だから大霊山周辺を調査することができれば、何かしらのヒントが見つかるんじゃないかと思ってる」


 あの都市が暗に空を飛んでいることを示すためだけに描かれたとは考え難い。

 よって、大霊山と浮遊島には関わりがあると考えるのが妥当だと思うのだ。


「後、同じく壁画関連で言えば、『緋晶玉』の採掘場所や、浮遊島の都市が元々あった場所を探すというのも手じゃないかな」

「しかし、闇雲に探しては時間と労力を無駄にするだけであろう」

「誰もそんな無計画なことをするだなんて言ってないよ。まずは裏付けが取れそうな相手に聞いてみるつもり」


 ボクの返答に訝しげな顔になる伯爵たち。

 そしてそれ以外の人たち、公主様たちもまた不思議そうな顔をしている。


「あれ?誰も思い付かない?こんなに身近に無駄に長生きしていそうな存在がいるのに?」


 いや、別に煽るつもりもなければバカにするつもりもないよ。本気で誰も気が付いていないことに驚いてしまったのだ。

 結局、この場でいち早くボクが想像した相手を思い浮かべることができたのは、ミルファとネイト、そしてバルバロイさんの三人だった。若いから発想が柔軟だったのかもしれないね。


「まさか、ブラックドラゴン様のことか!?」


 伯爵たちの代わりにバルバロイさんが尋ねてくる。それに対してボクはニッコリ笑ってコクリと首を縦に振ったのだった。


「ついでに言うと、広い範囲を動き回るタイプの冒険者の人たちも珍しい噂を聞いたり、不思議な光景を見たことがある事が多いようだから、彼らからも色々と話を聞くことができれば、調査する場所を絞り込めたり、新しい行き先が増えたりするかもしれないよ」


 と、冒険者を味方に引き込んだ際のメリットも伝えておく。

 おじいちゃんやデュラン支部長、ゾイさんのような高年齢組であれば、一つや二つどころではない数の面白話を知っているに違いないからね。


 一方で、当然ガセネタや虚偽情報なども多いだろうから、そこをどうやって見抜くのかが重要になってくるだろう。

 こうなると真贋の目利きに関してはエルにもお手伝いをお願いすることになるかもしれない。


「ふうむ。言わんとしていることは理解できる。だが、リュカリュカの言葉は冒険者たちの側に寄り過ぎているように感じられるのだが?」


 会場内にいる大半の人が、その意見を口にした人物のことを驚いた表情で見ていた。

 なにせその意見は公主様や宰相様寄り、つまりはどちらかと言えばボクたちの味方であるはずのコムステア侯爵の口から飛び出したものだったからだ。


「……侯爵からそのような言葉聞くとは思っておりませんでしたわね」


 喉の奥から絞り出すようにしてミルファが言うと、それに同調するように侯爵令息であるバルバロイさんもまた重々しく頷いていた。

 その意見に最も顔色が悪くなっていた彼女たちだったのだけど、そ知らぬふりを続けているところを見ると、あちらからすればその反応も織り込み済みだったんだろうねえ。


 とはいえ、ボクもまた驚いていた側の一人であることに変わりはない。

 まさかこんなところで応援を貰えるなんて、とね。


「私が殿下や閣下に具申するようなこと機会はほとんどなかったゆえ、ミルファシア様からすればそう思うのかもしれませんな。……ですが!それは私がただの腰巾着であったからではありませんぞ。殿下たちの判断が理に適っていたため、こちらからは何も言うべきことがなかったに過ぎぬのです」


 言外に、今回の件は口を挟まずにはいられないと主張され、さらに顔色を悪くするミルファ。

 そうして彼女に次の言葉を継げなくしておいてから、侯爵はボクの方へと向き直った。


「リュカリュカよ、そなたは自身も冒険者であることから、冒険者に対して贔屓目を持ってしまっているのではないのか?」

「それはとんでもない誤解というものですね。ボクとしてはかなり辛口な評価を持っているつもりですよ。なにせ初めて冒険者協会へと赴いた際にならず者じみた連中に絡まれたくらいですから」


 もっと正確に言うと、あのゴロツキ冒険者の五人はボクではなく同行してくれた騎士のグラッツさんに難癖を付けるつもりだったようだけど。

 騎士団が誠意を込めて色々と『おはなし』した結果、当時の裏組織との繋がりもあったことも判明して、スラムの解体と同時に似たような悪人たちともども一掃されてしまったのだそうな。


「一口に冒険者と言っても、その町や周辺の村出身という者ばかりではなく、素性が定かではない胡散臭い連中も多数含まれていますから。犯罪組織や裏社会と繋がっているようなことも少なくないですし、脛に傷を持っていたり後ろ暗い過去があったりするのは基本みたいなものですよ」


 あんまりと言えばあんまりなボクの言い草に貴族様方だけでなく、現役冒険者であるネイトに、やたらと冒険者に憧れを抱いていたミルファもどん引きになっていた。


「コムステア侯爵が治めている土地は、ヴァジュラとの国境があるという場所柄、検問を抜けずに無断に入り込んでくる者たちや、密かにもしくは大仰に国境を侵犯してくるような者たちがいるのではないですか?そしてそうした愚か者の中に冒険者がそれなりの数含まれていたのでは?」

「……詳しいな。その通りだ」


 以前ヴァジュラまで行った際に、おじいちゃんたちから国境近くの町でありがちな依頼などについて聞いていたからね。

 ボクたちが通行した時には平和そのものだったけれど、水面下では色々と物騒なやり取りが今でも行われているようだ。


「恐らくはそうしたこともあって、冒険者に厳しい目を向けてしまうのだと思うんです」

「では、それは不当なものだから改善せよというのか?」


 (こっわ)あ!?

 話の持っていき方が悪かったのかもしれないけれど、まだ最後まで言い終わっていないのだから、そんなに怒気満載にならないで欲しいのですが!?


「違います。その厳しい目でもって、信頼できる冒険者たちを見極めて欲しいんです」


 結局のところ、怪しい連中を弾くにはそうすることが一番効果的だったりするものなのだ。


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