315 冒険者に対する評価
クンビーラに置かれている冒険者協会の支部長であるデュランさんを始め、何人かの冒険者たちを協力者として仲間に引き込むべきというボクの意見に、貴族たちの反応は真っ二つに分かれていた。
一つは公主様や宰相さん、そしてバルバロイさんといった肯定・納得組。
これには以前直接デュランさんやおじいちゃんの二人に会ったことがあるということが大きく関係していると思われます。
面識がないのにこちら側のコムステア侯爵の場合、元々公主様たちに近い立場と考え方をしているからなのだろう。
対して残る伯爵たちは否定・不服組というところだろうか。
まあ、冒険者の中には一般社会からのはみ出し者なども含まれているからね。彼らからすればある意味平民以下の存在であり、仲間や協力者のような対等に近い関係になり得る者ではない、と考えているのかもしれない。
実際いつだったか掲示板に、どこかの国の貴族の中には「冒険者のことを使い潰してもいい道具のように考えている」だとか、「利用するべき相手としか見ていない」だといった愚痴めいた書き込みがされていたこともある。
まあ、ここまで極端な考えの持ち主となると少数である――と思いたいよね――はずなので、そうそう使い捨てられるような危険な目に合うことはないだろう。
「ふむ。あの『泣く鬼も張り倒す』のデュランか。そういえばその片割れも我が街に滞在しているのであったな」
「その通りです。他にも吟遊詩人たちが詩にしている華々しい戦歴を持っている者や、近い将来そうした者たちと並ぶことになるであろう有望な若者たちが何名かクンビーラを拠点と活動しているようですぞ」
公主様の問い掛けに宰相さんが答える。まるであらかじめ打ち合わせておいたように淀みのない流れだったけれど、彼らの表情からそれを伺い知ることはできなかった。
二人とも為政者としては優秀であるとのことなので、これくらいの情報を調べるなど、それこそ本当に朝飯前のことだったのかもしれない。
まあ、朝早くから走り回らされることになったのかもしれない部下の人たちはご愁傷様だけど。
ちなみにミルファさんや、ふんすと鼻息を荒くしてドヤ顔をしているところ悪いけど、将来有望な若者というのはサイティーさんたちのことであって、ボクたちのことを指している訳じゃないから。
というか公主一族の御令嬢がそんな顔していいの?
バルバロイさんだって百年の恋も冷め……、てはいないようだね。顔を赤くしながらぼんやりミルファのことを見つめているよ……。
惚れた弱みなのか何なのか。もう勝手にしててちょうだい。
「マクスム宰相閣下、リュカリュカ……殿はああ申されていますが、その、本当にその者たちは人格的にも信用に足る者たちなのですかな?」
うおう!なんとボクの呼び方に『殿』がついてしまいましたよ。まあ、彼らの立場からすれば主家の人たちが下に置かない扱いをしている人間に対して、呼び捨てにするなんてことはできないだろうから仕方がないか。
それでも今日会ったばかりの目上の人から敬称付きで呼ばれると、背中がむずがゆく感じてしまう。
「そなたらが不安に感じるのはもっともなことだな。私見ではあるが彼らに抱いた感想を聞いてもらいたい。もっともその大半は騎士団や衛兵部隊からの報告書によるものとなるのだがな」
そう前置きしてから語った宰相さんの冒険者に対する感想は、相当好意的なものであったように思う。
仮に当人たちがこの場にいたならば、「何が目的だ!?」と錯乱して叫んでしまうくらいには、豪快に持ち上げていたように感じた。
「私が顔を合わせたのは『泣く鬼も張り倒す』の二人だけだが、少なくともこの二人は信頼しても問題ないと感じたな」
すかさず公主様から援護射撃が撃ち出される。やっぱり打ち合せしていたのでは?と思えるほどのスムーズさだ。
そしてこっそりと『猟犬のあくび亭』に出入りしている分だけ、公主様の方が冒険者たちを直接見見聞きしていたりします。
そんなクンビーラのトップ二人から肯定的な意見が出たことで、伯爵たちとしては明確も理由もなく反対だと言い募ることはできなくなってしまったのだった。
その様子を確認してから、隣に座るネイトへと合図を送る。
気付いた彼女が即座に掴んでいたミルファの腕を離すと、
「わたくしも冒険者たち、特に『泣く鬼も張り倒す』のお二人は信に足る存在だと思いますわ」
待っていたと言わんばかりに喋り始めたのだった。
実はこの席順になった時、ミルファが勝手に話し出さないよう、その兆候があればすぐ止めるように彼女にお願いしておいたのだ。
何度も言うように、クンビーラ家臣の貴族たちにとってミルファは傍流とはいえ主家筋の人間となる。そのため彼女の意見には逆らうことができないかもしれないと危惧したという訳。
この短い時間で観察できた限りによると、問答無用で唯々諾々と従うことはなさそうではある。
それでも、公主様側の意見は受け入れる傾向にあるようなので、ミルファに不用意な発言をさせないようにしておいたのは正解だったように思う。
「う、ううむ……。一対一であれば騎士団の多くの者たちと互角に渡り合っていたミルファシア様が軽く手玉に取られていたなど、すぐには信じがたい話ではありますが……」
「それだけの武の腕を持つというだけでもなかなかに得難き存在でありましょうな」
「少なくとも敵対されるようなことがないように、手を打っておくべきかもしれませんぞ」
あらら。おじいちゃんたちが有用な存在であるとは思わせることができたけれど、同時に危機意識も芽生えさせてしまったようだ。
「まあ、人伝の人物評だけで信頼することなどはできまい。その辺りのことはこれからの会談で徐々に打ち解けたり見極めたりするよりないだろう」
「殿下、会談となると今回の調査のいくらかは話されるおつもりなのですか?」
「うむ。先ほどリュカリュカが言ったように、調査の前段階で協力を求めている。そもそも、リュカリュカへ依頼した時点で冒険者協会を通しているということになるからな。多少は得た情報を融通してやらねばなるまいよ」
今回の指名依頼は特に、評価が主観的なところがあるからね。何をもって良しとしたのかという根拠を示しておかないと『冒険者協会』の側からすれば等級を上げるために依頼者と冒険者が結託したと捉えようとするかもしれないのだ。
「いっそのこと、『冒険者協会』そのものを味方につけるというのはどうですかな?」
「いえ、それは止めた方がいいと思います」
伯爵の一人が提案した意見に、ボクはすぐさま反対の意を示した。




