313 上位貴族たちとの面通し
クンビーラのお城に行き通された部屋にはミルファパパこと宰相さんだけでなく、彼からすると甥の間柄になる現公主様、ヴェルヘルナーグ様もいた。
まあ、エルを紹介した時にも公主様は同席していたので、こうなるかもしれないということは心のどこかで予想はしていた。
が、ですよ。今回待ち構えて人はなんとそれだけではなかった。東にある町と村を治めるコムステア侯爵と嫡男のバルバロイさんに始まり、北部の二つの村を任されているオルト伯爵、西の村のナーブ伯爵に南の村のニウ伯爵と、クンビーラの家臣の中でも領地持ちの上位貴族たちが勢ぞろいしていたのだ。
これははっきり言って想像の範囲外だった。仮に居たとしても指名依頼を持ちかけて来た時に同席していたコムステア侯爵と、ミルファの婚約者であるバルバロイさんくらいまでだろうと思っていたのだよね。
余談だけど、エルはぱっと見て見える場所には居ない。彼女はクンビーラの所属となったとは言っても、その中でも特殊な裏に属する人だからだ。
それでも警備やら何やらの都合などがあるだろうから、恐らくはどこかの物陰にでもこっそりと隠れているのではないだろうか。
そういえばオルト伯爵たち伯爵級の御当主の面々に会うのは今回が初めてのことになるのだよね。『毒蝮』対策の会議の時――当時は正体不明な謎の人物扱いだったけど――には、緊急の招集だったこともあって次期当主や代理の人が出席していたのだ。
今回もある意味では緊急の集まりではあったのだけど、ブラックドラゴンのクンビーラへの守護竜就職の記念式典があったためにクンビーラに滞在したままになっていたのだった。
リアルでは半月近くが経過していたが、こちらではまだあの式典から一週間くらいしか経っていないのだよね。
油断すると日数感覚がおかしくなりそう……。
「さて、これで一通り顔合わせと挨拶はすんだな。それではさっそくで申し訳ないが、件の砦跡見聞きしたことを詳しく教えて欲しい」
宰相さんに促されてこちらでは昨日の、リアルではなんと四日前のことになる砦跡の調査から話し始めた。
あ、初対面の方々との挨拶については省略させてもらうよ。特に血沸き肉躍るような展開が発生した訳でもないので。
ところどころでミルファとネイトにも補注を入れてもらいながら、覚えている限り丁寧に話していく。
そのためクライマックスとなる石板と七代前のクンビーラ公主様関係の話題になった頃には一時間以上が経過していた。
「そして、これがその遺跡最深部に置かれていた石板になりまあああっとお!?」
持ち帰ってきた石板をアイテムボックスから取り出したところで思いっきり体勢を崩してしまい、台詞の最後が謎な雄叫びと化してしまった。
「あ、危なかったあ……」
アイテムボックス内ではまるっと重量が無視されていることをすっかり失念してしまっていたため、もう少しで取り落としてしまうところだった。
辛うじてテーブルに激突して破損という未来はまぬがれることができたものの、心臓バクバクで冷や汗ダラダラものだ。
「ま、まさかここでリュカリュカのやらかしが発生するとは思いませんでしたわね……」
「心臓に悪いです……」
と文句を言えたミルファとネイトはまだマシな部類で、公主様たちクンビーラ貴族側の方々は揃ってショックで硬直してしまっていたのだった。
とりあえず待つだけだと時間がもったいないので、この間に残る石板も取り出してテーブルの上に並べていくとしましょうかね。
結局、公主様たちが我に返ったのは最後の石板を取り出した時のことだった。
このままだといつまでも固まっていそうだったので、わざと小さく音がするように置いたというのが本当のところです。
「えーと……、書かれている内容自体は今お話しした通りなんですけど、直接読んでみたいですよね?」
「う、うむ!そうだな。そのための時間をとってもらえるとありがたい」
公主様からの要望を受けて、本来はお茶や軽食等摘まめる物が置かれるはずのものなのだろう部屋の隅にあった長机に石板を移動させることに。
「あ、いや!こちらの者にやらせるから、そのままじっとしておいてくれ!」
しかし即座に宰相さんにそう言われてしまい、ボクたちはそのまま席に腰かけていることになったのだった。
いくら超重要な品を持ち帰ってきたからと言っても、平民であるボクやネイトには過分な応対だと思うのだけれど。
「いえ、リュカリュカに任せておくといつ破損してしまうか心配になってしまっただけのことだと思います」
ネイトさんや、突っ込むにしてもせめてボケとして口から出した後にしてもらえませんかね?
そうこうしている間に数名の騎士さんたちが入室してきて、ボクたちに代わり一枚ずつ大切に抱えては石板を運んで行ったのだった。
「それでは申し訳ないが、リュカリュカたちはしばらく待っていてくれ」
言い置いてさっさと石板が置かれた長机へと移動していく公主様たち。それだけ強く関心を持っていたということだろうから、そのこと自体に別に不満はない。
「ある程度身内だけとは言っても、公主様たちのボクたちへの言葉遣いが微妙に丁寧な気がするんだけど?臣下の人たちの前でこれはまずいんじゃない?」
そしてこの時間を利用して、こっそり気になっていた点をネイトを挟んで反対側の隣に座っているミルファへと尋ねていた。
ちなみにボクたちの席順は上手からミルファ、ネイト、ボク、そしてエッ君とリーヴとなっていた。直接依頼を受けたことに加えてパーティーのリーダーであるボクが一番上手に座るべきだという意見もあったのだけど、うちの子たちも座らせてあげたかったこともあって、この順番にしてもらったのだ。
「恐らく、お父様たちとしてはブラックドラゴンの守護竜化に尽力したリュカリュカの存在を重く見ているのだと、伯爵たちに認識させようとする思惑があるのだと思いますわ。式典の時にはことさらあなたの活躍を広めるような真似はしておりませんから、おかしな考えを抱かぬようにこの機を利用したのでしょう」
う、うーん……。
尽力、と言っていいのかな……。
実際のところ、挑発して嫌がらせのような問題を持ちかけて負かして、その落としどころとしてクンビーラに後始末を任せたとも取れるのだよね……。
だからあまり持ち上げられてしまうと、何とも言えない気持ちになってしまう。
ただまあ、別に粗雑に扱われたい訳ではないから、その心遣いはありがたく受け取っておくとしましょうか。




