312 報告に行こう
PVが80万、ユニークの方も10万を超えていました。
ありがとうございます!
とっても重たい物でも、大きく容積を取ってしまう物でも、アイテムボックスに入れてしまえばそんなことは関係なくなる。
一応容量の限度は存在するのだけれど、ボクたちくらいのレベルだと行商人として売り歩くために大量の商品を購入でもしない限りは、そうそう上限いっぱいになることはないのでした。
ゲームならではの同一種類のアイテムを重ね置きすることもできるため、数種類の魔物しか出現しない序盤ではドロップアイテムで一杯にするとなると、なかなかに根気のいる作業となるそうだ。
あるプレイヤーさんが挑戦してみたけれど、一週間でギブアップする結果となったらしい。ボクとしては、一週間もそんなことに挑戦し続けたということの方が驚きだったけれどね。
そんな訳で、重量級な石板数枚もアイテムボックスに入れれば簡単に運搬可能です。
途中、地下遺跡の渦巻き通路では例のごとくゴーレムたちが襲ってきたけれど、ボクたちのレベルが上がったためなのかあっさり撃退できたのだった。
「いやいや、明らかに弱体化しとったから!」
とエルが主張していたのだが、楽ができるなら問題なしということで原因の考察は後回しにされたのだった。
だって、急がないと街の門限に間に合わなくなるかもしれないのだもの!
いくら大した魔物が出現しないとはいえ、遺跡探索でヘロヘロになった状態での野宿は勘弁してもらいたいところだ。
幸いにも街道を一直線に進んだため、行きと同じく魔物が出現することもなく、門が開いている時間内にクンビーラの街へと帰還することができたのだった。
そしてリアルでも『OAW』でも一日経過して翌朝のこと。ボクたちは報告のためにお城へと向かうことになった。
昨日街へと帰り着いた時点で別れることになったエルが先触れとして宰相さんに話を通してくれることになっているので、特に連絡の必要はないという話だ。
「いってきまーす」
すっかり定着してしまった感のある『猟犬のあくび亭』の前で、見送りに出て来てくれた――正確にはちょうど外出するタイミングが一致したのだ――女将のミシェルさんに挨拶をする。
「はいよ。街から出ないからといってあんまり油断するんじゃないよ」
以前『毒蝮』に大通りで襲われたことがあってから、彼女はこうして一声かけてくれるようになっていた。こんなやり取りができるのも、もしかすると後少しで終わりになってしまうのかと思うと、やけに寂しく感じられてしまう。
実はミシェルさんとギルウッドさん夫婦には、今日の話し合い次第では近い内に長旅に出ることになるかもしれないと話しておいたのだ。
「まったく、まだ出発すると決まった訳でもないのになんて顔しているのさね。それに旅に出たところでそれが一生の別れになるとは限らないさね」
そんな気持ちが表に出てしまっていたのか、ミシェルさんは朗らかに笑いながらポンポンと軽やかな手つきでボクの頭を撫でたのだった。
「それはそうなんだけど……。これまでずっとお世話になってきたから、何だか妙に切なくなっちゃって」
リアルの方でもボクはずっと親元、地元に居続けてきた。そういうこともあって本格的に旅に出る、慣れた場所を離れるという経験は初めてのことになってしまうのだ。
一応、おじいちゃんとゾイさんの二人と一緒にヴァジュラまで行っては来たけど、あれはどちらかというと二泊三日の小旅行という感じだったからね。
しかも途中『転移門』で帰ってきたし。そういえばあの時初めて『異次元都市メイション』に行くことになったのだった。
ああ、異次元都市で思い出した。昨日は結局クンビーラにまで帰ってくるだけで手一杯になってしまって、武器を新調するのを忘れていたよ……。
うにゅう、なんだかんだ言って武器に関してはあちらの方にも顔を出す必要がありそうだから、後回しになってしまうかもなあ。
「まあ、とりあえず行っておいで。しっかりと時間を決めてはいないと言っても、あまり宰相様をお待たせするのは良くないさね」
ミシェルさんの言うことは至極ごもっともだ。宰相さんを含めてクンビーラの公主一族とは良好な関係を築けているとは思うけれど、だからと言ってそれに胡坐をかいていて良い訳ではない。
見限られてしまわないように、しっかりするべきところはきちんと締めておかないとね。
「確かにお父様なら既にエルから報告を受けてはいるでしょうが、わたくしたちからも話を聞きたいと考えるはずですわね」
同じ出来事についてでも複数から報告を受けることは、情報の確度を保つためにも重要なこととなる。
さらに言えば報告者の立場によっても少しずつその内容は異なってしまう。今回の場合、エルは宰相さんの部下として、クンビーラに属する者として見聞きしたことを伝えていることだろう。
そしてボクたちは依頼を受けた冒険者として報告を行うことになる。
意外とこういう細かな違いが、これからどのような対応をしていくべきかを考える上で大切になってくることもあるのだ。
「そういうことらしいんで、とっととお城まで行ってきます」
「はいよ。昼ご飯はいらないんだったさね」
「多分、そのまま冒険者協会の方にも行かなくちゃいけないと思うので、適当にどこかで食べることにします」
「そうかい。うどんを出す店も結構増えたから、試しに入ってみるのも面白いと思うさね」
それはちょっと楽しみなようなそれでいて怖いような……。
今流行りの新食材を使っておいて下手な料理を出してしまうと一辺に評判を下げることになるらしいので、どのお店もしっかりと味の吟味は行っているとのこと。
ただしこちらには和食や洋食といった区別がないので、中には――ボクにとっては――とんでも組み合わせのうどんがお目見えすることもあったりしちゃったりするのだ。
そしてミルファもネイトも、うちの子たちもうどんは好物なのでそれ以外の品を昼食に選ぶことはまずないだろう。
加えて言えばボクがうどんを広めた張本人だということはクンビーラ中に知られているので、うどんを扱っているお店で注文しなかったとなると、色々と面倒な問題が発生してしまうらしいのだ。
よって、この時点で今日のお昼ご飯はどこかのお店でうどん料理を食べることに決定してしまったのでした。
はあ……。まだ宿から外に出ただけだというのに、妙に気疲れしてしまっているよ。




