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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十二章 三度目の地下遺跡

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310 イライラ解消

 きっかけはどうあれ、結局のところ『三国戦争』は起きるべくして起きたのだと思う。

 あ、だからと言って別に戦争を肯定しようとか、宿命論を支持しようという訳ではないので、そこのところはお忘れなく。


「とりあえずそっちの方は一旦置いておくとして。この遺跡を破壊できなかった二つの理由のうち、後半の方は理解できたよ。要するに他国から目を付けられてしまったから、人を動かすことができなくなったっていうことだよね」


 少人数でこっそりと、という手すらも使えなかったのだろうかという疑問は浮かんでくるけれど、そこは色々と運営(おとな)の事情があったのだろうということで納得しておくことにする。


「でもさ、一つ目の浮遊島の死霊たちが大陸支配を目論んでいるっていうこととはどう繋がるんだろう?」


 ここが転移先であるならば、真っ先に狙われるのはクンビーラということになる。歩いて一時間という目と鼻の先の場所に敵の橋頭堡(きょうとうほ)が作られているようなものだから、普通は真っ先に排除しようとするものなのではないだろうか。


「うーん……。それこそなんや事情があったんと違うか」

「死霊たちも元々は大陸統一国家時代の人たちですからね。転移先の施設などが破壊された場合、報復するようになっていたとしてもおかしくはないように思えます」


 周囲一帯が生き物も住めないような焦土と化してしまうかもしれないとなれば、下手に手を出すこともできないか。


「あの……、もしかするとご先祖様は、死霊たちを討ち滅ぼすため再び浮遊島に攻め入るつもりだったのかもしれませんわ」


 そこにおずおずと声を上げたのはミルファだった。


「それが、はからずともこの地下遺跡と浮遊島を繋げさせてしまった責任感からだったのか、それとも死霊たちと同じような野望を抱いていたためなのかは判断がつきませんけれど……」


 確かにそういう展開も考えられそうだ。そして彼女の立場としては前者の理由であって欲しいだろうね。


 だとすると墳墓の偽情報や王冠の紛失なども、意図的に行われたものなのかもしれない。いつか誰かに、できることならクンビーラの公主家に連なる者がこの地下遺跡を訪れて、自分たちが果たせなかった心残りを解決してくれるように心のどこかでは願っていたのではないだろうか。


「……まあ、あくまでもボクの想像なんだけどさ」


 それに彼の遺志を継ぐにしても、これからどうすれば良いのかすら分からない状態なのだ。

 石板の方はというと、あの後には『これで我が罪の告白を終える。この石板が未来永劫誰の目にも触れられぬことを、そして死霊どもの執念が擦り切れて消え去っていることを切に願う』という結びの言葉で締められていた。


 それでも仲間たち、とりわけミルファのやる気に火をつけてしまったらしい。


「リュカリュカ、お願いがありますの」

「はいはい。浮遊島に向かって死霊たちをやっつけたいんだね」

「どうして分かりましたの!?」


 いや、むしろどうして分からないと思っていたのかと問い質したい。

 ネイトやエルもボクと同じ気持ちだったのか、苦笑いを浮かべていました。


「実際のところ数千年も持ち続けてきた大陸を再び支配するっていう妄執が、たった百年ちょっとで消え去ってしまうだなんて考え難いしね。そのために浮遊島で危ない研究が続けられているとなると、放置してはいられないでしょう」


 いつの間にやら精神支配ビームが発射されていたなんてことになったら、シャレにならないですし。

 もっと分かりやすく圧倒的な武力でもって隷属を求めてくるかもしれない。


「どんな方法やったとしても、ろくな展開にはならんやろうしな」

「一概に死霊が不浄な存在だなどと言うつもりはありませんが、生死の理から外れてしまった存在であることには間違いありません。多少なりとも神官としての教育を受けた身としては無視することはできませんから」


 と、仲間たちにも異論はない様子。

 当然ながらうちの子たちもやる気です。リーヴなんて勇者様の鎧――のレプリカ――が元だという話だったから、大陸全土の支配を目論む死霊退治となると正しく適任であるような感じだものね。

 一方のエッ君は……、こちらはミルファがやる気になったことを喜んでいるというところが多分にありそう。まあ、元気がないよりはあった方が良いのは間違いないから、それで問題なしです。


 ボクとしても、これならゲーム内の色んな所を巡るという目的と共存できそうだから問題ない。

 まあ、ちょっとばかり話が大きくなり過ぎて自分たちの手に負えるのかという心配はあるけどね。それでも「魔王を倒して!」などという無茶振りよりはマシだろう。


 さて、勘の良い人ならもう気が付いていると思うけれど、例の転移装置は未だに修復完了となる気配はなかった。

 百年以上修復に掛かっていたものが、ほんの十数分程度の間でちょうど終わるなどということはなかったのですよ。いつまでかかるのか分からないものを悠長に待ってはいられない。

 だからこそ、浮遊島に辿り着くための方法を探して回らなくちゃいけないのだ。


「だけど、このままにしておく訳にもいかないよね」


 放っておけばいつかは修理が完了してしまう。

 そうなった時にボクたちがこの近くに居れば少しは対処のしようもあるけれど、そうでなければここから侵攻してきた死霊たちによってクンビーラが襲われてしまうということだってあり得るのだ。

 そして大陸中を移動して回る必要があるともなれば、必然的にクンビーラから離れる時間は長くなる。


「ここは一つ、先人にならってぶっ壊すとかどうや」

「え?いいの?」


 まさか転移装置を調査もしないで破壊したことに一番(いきどお)っていたエルからその提案が出てくるとは思わず、思わず素で聞き返してしまった。


「後顧の憂いを絶つちゅうことならそれが一番やろ。それにな、こんなん変に欲出しても扱い切れずに自滅するんがオチや。それなら最初からスパッとなかったもんとして考える方が気が楽やで」


 分不相応な力を手にしたことで自爆するとか、復活させた邪神や大怪獣が言うことを聞かずに踏み潰(プチっと)されてしまうというのはよくある話だものね。


 とにかく、エルが構わないというのであればボクたちが手心を加える必要もない。

 これまでに溜まったイライラの解消も兼ねて、思いっきり壊しちゃいましょうか!


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