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テイマーリュカリュカちゃんの冒険日記  作者: 京 高
第二十二章 三度目の地下遺跡

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308 まだまだ続く驚愕の証言

「おにょれ……。精神的なダメージを負わせたうえにこの仕打ちとはなんという嫌がらせ!」

「ただリュカリュカの技能熟練度が低かっただけの話やろ。まあ、うちの方も用途までは見抜くことができへんかったから大層な事は言えんけどな」


 そんなことを言いながらも、エルの場合は『緋晶玉』から魔力が抜け出してしまっていることや、魔法陣が機能停止中な上に修理中であることまで判明していたのだから十分に目的を達成していると言えるだろう。


 それにしても彼女のような高レベルNPCですら全容を解明できないとか、難易度が高過ぎではないだろうか。

 イベント関連など何かしらの理由で一部手を加えられているとか、またはボクたちのレベルに合わせて彼女の能力が調整されているとも考えられるけれど、あまり露骨にやり過ぎると「運営の調整が恣意的で公平性に欠ける」とプレイヤーから反発が出てしまうかもしれない。


 まあ、ようやく全員二桁に乗ったばかりなどという低レベルで突撃してきたボクたちの行動の方が想定外だったのかもしれないけどね。

 もしかすると、本当はもっと迷って様々な場所やダンジョンなどに足を運んで、レベルアップしてから訪れるような場所だったのかもしれない。冒険者協会の支部長に直接心当たりを尋ねることなんて、普通の冒険者ではできそうにもないものね。


 色々と想像することはできるが、それが本当に正しいのかどうかを知る術は今のボクたちにはない。それに知ったところでどうにかできるものでもない。

 という訳で、この話はここで終わりということにしよう。

 実はああだったのかもしれない、こうだったのかもしれない等と思い悩むよりも、できることを探して目の前のことに全力で取り組む方が何倍も有意義だろうからね。


「機能停止中ということは中に入っても大丈夫かな?」

「いきなり転移させられるっちゅうことはないやろうけど、安全かどうかと言われると怪しいもんがあるで」

「そうですね。『緋晶玉』の魔力が消え失せていたようですから、ここは慎重になった方が良いかと思います」


 おっと、そういえばそうだったね。

 でも、どうして魔力が吸い取られてしまったのだろうか?


「……元々修復のために大地の中の魔力を利用していたのですわよね?でしたら一時的に魔力が通りやすい構造に変化しているのではなくて」


 ふむふむ。極端に魔力が通りやすい状態だから、『緋晶玉』の中の魔力も吸い出されてしまったと。

 真実は不明だけど、ミルファの考えは当たらずとも遠からずではないかと思う。


「だとすると、迂闊(うかつ)に足を踏み入れていたら体の中の魔力を根こそぎ持っていかれることになっていたかもしれないってことなの!?」


 見ず知らずの死霊の巣窟への転移効果がなくなったかと思えば、今度は魔力吸収(MPドレイン)の罠に変貌しているだなんて、えぐいにもほどがあるってものでしょう。

 体内の魔力を残らず吸い取られてしまった様子を想像したのか、三人とも苦々しい顔つきになっている。めまいに虚脱感と、MP欠乏の状態異常は相当しんどいから……。


「だけどこれで、この魔法陣らしきものが石板に書かれていた転移装置であることはほぼほぼ間違いないと言えそうだよね」


 彼らが片っ端から破壊して回ったのでもない限り、修復中の装置などそうある物ではないはずだ。

 加えて立体映像の内側の隠し部屋ということで、石板の序盤に書かれていた転移装置の在り処である『遺跡の最奥』という言葉とも一致するように思う。


「そうですね。わたしもそう思います」


 ネイトのその言葉を皮切りにパーティーの仲間たち、そしてリーヴやエッ君もボクの意見に賛成してくれた。

 さらにエルの見立てではすぐに修復が完了するというものでもなさそうということで、それならばとこの場は一旦放置して石板の続きを読むことを優先しようということになったのだった。


「残る石板もあと少し。……だけどこれまでに書かれていた事を考えると、最後まで気を抜けなさそうだよね」


 大陸統一国家時代の空飛ぶ島への転移に始まり、その住人たちが死霊と化していたことの暴露だったから、もう一つくらいはとんでもない内容のことが書かれているのではないかと疑ってしまうのだ。


『それほどまでに危険なものであるなら、配下の者たちがやったことに倣って徹底的にこの遺跡そのものを破壊するべきだったかもしれない。しかし、二つの理由からそうすることは出来なかったのだ』


 またもやこちらの不安感を煽ってくるなあ。これだけの文才があるなら『公主様日記』とか出版していれば大ベストセラーになっていたかもしれない。

 そんなことをついつい考えてしまったものだから、引き締め直したはずの気持ちが緩んでしまう。そして、生まれた隙を見逃してくれるような生易しい石板ではなかった。


『その理由の一つ目が空の上、すなわち空飛ぶ島の死霊たちの目的にあった。やつらは再びこのアンクゥワー大陸を自身の手で支配することを目論んでいたのだ。恐らくはそれを成すために行われていたのだろう研究を見てしまったために、我らは死霊たちから襲われることになってしまったようである』


 ポカーン……。

 は?なんですか?死霊たちがこの大陸を支配する?どんな冗談かは知らないけれど、とりあえず笑えないということだけは確かだわ。


「数千年の時を過ごしてきた連中ですから、どれほどの妄執をその内に秘めているのかと思っていましたが、まさかそこまで大それたことを考えていただなんて……」

「しかも大陸を支配するための研究までしとったみたいやん。まあ、どんなもんなんかまでは分からんかったみたいやけど」


 さて、本当に分からなかったのだろうか?実はミルファの御先祖様、七代前の公主様は死霊たちを倒そうとしていたのではないだろうか。明確な理由はないけれど、ボクにはそう感じられてしまった。


 死んでから何千年も経っているというのに、妄執に憑りつかれたままの死霊たちを哀れに思ったのか、それとも植え付けられた恐怖を払拭するためにはその大元である死霊たちを滅ぼさなくてはならないと奮起したのか。

 はたまたこの時点ではまだ胸の内にくすぶる野心を消し去ることができていなかったのか。


 どのような考えからそう決断したのかを知る方法はないけれど、少なくとも彼が「何も見ていないし、何も知らない」という決断に落ち着くことがなかったことだけは確かなはずだ。


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